「そりゃ、軍港に堂々とあるとは思っちゃいないけどさ…」
「あのクラスの船だ。そう易々と隠せるとは…」
「まさか? 本当に居ないなんて事はないよねぇ?」
私たちは集合場所である広場まで歩き、アスランとニコルに合流した。
今はベンチに座って、それぞれの収集結果を報告していたのだけれど、やはり手がかりはゼロだった。
「どうする?」
ディアッカはベンチにだらしなく腰掛けながら、アスランを見る。
「欲しいのは確証だ。ここに居るなら居る。居ないなら居ない。軍港にモルゲンレーテ、海側の警戒は驚くほど厳しいんだ。なんとか……中から探るしかないだろ」
「確かに、やっかいな国のようだ…ここは…」
イザークが吐き捨てるように言うと、アスランがため息をついて遠くを見た。
その様子を見た私は、イザークたちと合流する前から目をつけていた場所を彼らに話すべきか少し思案する。
(……兄様にあげる情報だったけど……ここまで手がかりゼロなら先に調べておこうかな…)そして私は静かにアスランを見上げて問いかけた。
「…ねぇ、もしかしてハズレ……かもしれないけど、ダメ元で行ってみる?」
「どこにだ?」
アスランが振り返る。ニコルの隣に腰掛けていた私は、彼の持っている端末を操作して、ある一点を指し示した。
「…ここは…」
「ここね、衛星でも映らないの。ちょっと他の場所と違うみたいなんだよね」
「衛星でも映らない…だと?」
ニコルの持つ端末に、全員の視線が集まる。
「確かに、さっきから僕もちょっと気になってはいました。でもここは…普通の工場ドッグですよ?」
「普通だから、怪しいじゃない? 普通の工場ドッグが、こんな警戒態勢ってのがさ」
ニコルの疑問を私の代わりにディアッカが答えてくれる。私は、アスランを見た。
「どうする? 行ってみる?」
「そうだな…今は手がかりが少ない。とりあえずそこに行こう」
「OK、だが足はどうする? 歩くのか?」
イザークも手がかりが無い状態のまま帰艦するのが嫌だったらしい。珍しく彼は素直に了承してくれた。
「歩く……と、かなりの距離があるよ?」
「いや……車で移動しよう」
アスランはそう言うが、私は彼らが手配した荷物の中に車などあったのだろうかという疑問がわいてくる。
流石に車の手配までは、頼まなかったはずだが。
「んー……あの人たちがくれた物の中に……車なんてあったっけ?」
「あるよ、俺の封筒の中に…ほら」
それをそのまま口に出すと、アスランは涼しげな表情で車のキーを指にひっかけながら見せてくれた。
「ヒュー! 用意がいいねぇー」
「じゃあ、早速向かいましょう」
「ふん! 初めからあるなら、あると言え!」
それぞれの個性に合わせた反応を返しながらも、各々ベンチから腰を浮かせて立ち上がる。
「良かった。さて、運転は誰がする?」
車が手配されているのは嬉しいのだが、問題はその先に有った。
「アスランじゃねぇの? キー持ってるし?」
「俺か? まぁ、いいけど…」
車の免許は全員もっている。となれば、誰が運転するか…なのだが、疑問を投げかけた私に、ディアッカはチラリとアスランを見た。
彼は一瞬驚いた顔をしたけれど、特に異議はないようでゆっくりと歩き出す。
そうして私たちは手配された車の駐車場までたどりついたのだが、ディアッカがその車種を気に入り運転役を自ら買って出たので、結局アスランは運転しなくても良いことになった。
「じゃ、行くぜー」
「安全運転してね」
「わかってるって」
そうして私たちは、気になる工場ドッグを目指し、出発したのだった。
◇
例の工場ドッグにつくと、入口から少しばかり外れたところで車を止め、中の様子を窺う。
「軍港より警戒が厳しいな。チェックシステムの攪乱は?」
海沿いのフェンスに背を預けながら、イザークは忌々しそうに工場ドッグの方を睨みつけた。
「何重にもなっていて、結構時間がかかりそうだ。通れる人間を捕まえた方が早いかもしれない…」
そのイザークの問いに、アスランはため息を吐き出しながら同じようにフェンスに背を預ける。
「…まさに、羊の皮をかぶった狼ですね…この国は…」
ニコルもお手上げだと言いたげにため息を零した。
あれから数時間、すでに日も傾き始めている。
何をどう調べてみても、この工場ドッグの中へ入ることは不可能だという結論に達した。
「アルトの予想は、結構当たりなんじゃね?」
「…だといいんだけど…どうする? アスラン」
「そうだな…」
アスランがそう呟いた瞬間、頭上からなんだか電子的というか、機械的な音が響き渡る。その音にいち早く気づいたアスランが頭上を見上げると、一羽の鳥が羽ばたいていた。
アスランは目を見開き、ふらふらと上を見上げながら、その鳥の方へと歩き出してしまう。
「…アスラン?」
彼は数歩足を進め、そこで腕を差し出して立ち止まる。すると、今まで頭上を飛び回っていた鳥が、大人しくアスランの手に止まったのだ。
「ん? 何だそりゃ?」
イザークが隣からアスランの手元を覗き込み、微妙な顔をする。
「へぇ……ロボット鳥だ」
ニコルも珍しそうに覗き込んでいて、ディアッカなどは長身を活かしてアスランの背後から覗き見た。
「ロボット鳥なのに空飛んでるよ……すごいねー…誰のかな?」
「さぁなー」
私が素直に感動していると、アスランは再びふらふらと例の鳥を手に乗せたまま歩き出してしまったのだ。
「ああ、あの人のかな?」
それに気づいたニコルがアスランが歩んでいく方向に目を向けると、一人の男の子が同じようにして歩いてくるのが見える。
空を見上げながら何かを呼ぶような仕草をしていて、こちらの様子には気づいていなかった。
(あれは……あの……子供は………!!)私は、愕然とした。
フェンスの内側にいた男の子は、ストライクのパイロット。
私たちが探してやまない、大天使様の守護神…キラ・ヤマト本人なのだ。
私はとっさに声が出そうになるのを必死で堪え、ポーカーフェイスを保つ。
(……まさか……あのロボット鳥……)私はふと、アカデミー時代にアスランと交わした言葉を思い出した。
『ねぇ、アスランってハロ以外にもなんか作れるの? ペットロボ的なもの』
『そうだな…一応…昔作ったことがある。鳥のペットロボ』
『鳥?』
『そう。肩に乗って、首を傾げて鳴いて、飛ぶんだ』
『……マジで!? ソレ、すんごい難しくない!?』
『苦労したよ。でも、一生懸命だったから…あの頃は』
『それもラクス嬢にプレゼントしたわけ?』
『いや…あれは…』そこまで思い出してから、私は改めてヤマト少年を見つめた。
(……そうか……あのロボット鳥がトリィ=cアスランが大切な親友のためにつくった…)その持ち主が、ヤマト少年であるらしい。アスランの緊張した面もちからして間違いはない。
フェンスを挟んで段々と近づく二人を、私は見守る事しかできなかった。
「はぁ……やはり無駄足か?」
「イザーク…」
「アルトのせいじゃありませんよ。今日はもう遅いですし…とりあえず引き上げましょう」
「……うん……」
運転席にディアッカが座り、イザークとニコルも乗り込んでいく。他のメンバーは私たちの様子に気づくこともなく疲れたため息を吐き出していた。
「どうしたジェニウス。帰るぞ」
「……アスラン…」
ふと見ると、彼はまだキラと対峙していた。異様に離れがたいのか、ずっと無言で見つめあっている。
その様子を見ていたイザークが、おもむろに立ち上がってアスランに声をかけた。
「おい! 行くぞ!」
その声を受けて、ようやくアスランの足が動く。
「ほら、アルト?」
「……わかった」
そうして私も乗り込んだ。
アスランは、ヤマト少年に呼び止められて数秒振り返ったが、短い言葉を交わして車に戻ってきた。
「おかえり、アスラン」
「……アルト……」
「……もう、充分でしょ? ……帰ろう」
「……ああ」
イザークやディアッカ、ニコルたちには分からないだろうが、この私たちの言葉には、とても大きな意味をはらんでいた。
収穫は、充分すぎるほど。
なにせ、ストライクのパイロット、キラ・ヤマトがこの工場に居たのだ。しかも整備の服を着て。そして、車を走らせている途中に、一瞬だけだが、カガリ・ユラ・アスハがうろちょろしているのが見えた。
つまりは、ここに大天使様がいらっしゃるという事で、間違いないだろう。
もう充分でしょう≠ニは、これ以上探さなくても、良いでしょうという意味だ。
確証は得た。後は、行動のみ。
END
(可愛らしいですね、青いペンダント…よくアルトに似合ってます)
(あー…)
(ああ、ソレは…)
(貴様、黙れディアッカァァ!!)
(……イザークは何を怒ってるんでしょう?)
(あははは……ディアッカ、安全運転お願いね?)