第5章 平和の国
36:「…これから帰投する」
ようやく並んで格納庫に収容されると、数分も経たないうちに、オフィシャル回線で声高な宣言が発表された。


【接近中の地球軍艦艇、及びザフト軍に告ぐ】


「あっちゃー…」
【これは!?】
【オーブだ! アイツら……!】

オーブが近いとは思っていたけど、いつの間に領海に近づいていたのか。随時チェックしていたけれどデュエルとブリッツの母艦収容にソッチのチェックは疎かになっていたかもしれない。


【貴艦らは、オーブ連合首長国の領域に接近中である。すみやかに進路を変更されたし。我が国は武装した船舶、及び航空機、モビルスーツ等の事前協議無き進入を一切認めない。すみやかに停止せよ!】


「…ふざけんな、ナチュラル…」

ボソリと呟いた言葉は、誰に聞かれるともなく空に消えた。
こんな言葉をニコルたちに聞かれたら、私はすごく驚いた目を向けられるだろう。普段はこんなに過激な事を口走るタイプではないから。

(……でも、我慢だって限界ってもんがあるのよね)

こんなモビルスーツを開発しておいて未だ中立を謳うこの国が、私はどうしても好きになれない。それに、カーペンタリアの本部に、先ほどからオーブは必要な抗議通信を送り続けているようだし。

【何を寝言を言っている…】
【…………】

イザークはオーブの警告回線を鼻で笑った。どうやら、今の私と彼は同じ考えらしい。ニコルはブリッツで待機しながら神妙に警告を聞いていた。


【繰り返す…すみやかに進路を変更せよ! この警告は最後通達である。本艦隊は停止が認められない場合、貴艦らに対して発砲する権限を有している】


「発砲ねぇ……ねぇ、沈めちゃダメかな? アレ」
【おいおい、隊長様のお許しを求めないとなジェニウス?】

私がイザークに苛立ちを露わにしながら問いかけると、彼は笑いを堪えながら、冗談を言ってきた。

【二人共、冗談を言っている場合ではないんですよ!?】
「だってさー。どう考えてもおかしいじゃない。大天使様って、オーブ製でしょ?」
【どうあっても認めたくはないんだろうよ。本国でも、オーブはヘリオポリスの一件すら否認しているそうだからな】
「バカがバカな行動でバカな言葉を操るのって、聞いてるだけでイライラするわ」
【アルト…!!】

ニコルが非難がましい声で私の名前を呼んだ。悪いけれど、今は良い子の仮面をかぶり直せるほど機嫌はよろしくない。
私のグゥルは破壊されていないというのに、何故、私まで母艦で待機させられなければならないのか。


【この状況を見ていて、よくそんな事が言えるな!!】


私が苛立ちを押さえきれずにため息を吐いていると、オフィシャル回線から、どこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。


【アークエンジェルは今からオーブの領海に入る! だが、攻撃はするな!!】


「…ナニこれ」
【さぁな?】

大天使様からのオフィシャル通信では、女の子と思わしき怒鳴り声が聞こえてくるのだが、言っている内容はめちゃくちゃだった。

(ん……? この声は……あ!!)

「オーブの仔獅子…?」
【なんだ、ソレは?】
【仔獅子って何です?】

私がうっかり口を滑らせてしまったおかげで、二人に開いていた通信が声をしっかり拾ってしまったようだった。

「あー……えと…」


【なっ……何だお前は!?】
【お前こそ何だ!? お前では判断できんと言うのなら、行政府へ繋げ! 父を……ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!! 私は……私は、カガリ・ユラ・アスハだ!!】

(あ、自分でバラしちゃったか)

【えっ!?】
【何だとぉ?】
「……まぁ、そういう事ね」

繋ぎっぱなしのオフィシャル回線では、オーブの仔獅子ことカガリ・ユラ・アスハが自分の正体を盛大にぶちまけていた。

【アルト…知ってたんですか?】
「声を聞いた事があってね。ちょっと似てるなぁって思ってたんだけど、まさか……本人とはね?」
【はっ! 面白いじゃないか! オーブの領域近くで、大天使様に乗っているのがオーブのお姫様だとはな! これで益々オーブは中立なんて言っていられんぞ】

イザークは上機嫌だ。まさか私も足付きに乗っているのが仔獅子だと思わなかったので驚いている。

(…っていうか、どっから乗ってんの? まさか、ヘリオポリスから…とか言わないよね…?)

私が最後に見た彼女は、確かヤマト少年と一緒に居た。モルゲンレーテの工場で泣き崩れている所を彼に手を引かれて避難しているはずだったのに。


【……何を馬鹿な事を……姫様がそんな船に乗っておられるはずがなかろう!】
【何だと!?】


「……どっちでも良いけど、オフィシャル回線で喧嘩しないでよねー…」
【ごもっともだ】
【どうなるんでしょうね……】
「隊長はアスランなんだけどなぁ……さっきから動いてないんだもん。…まぁ、手を出しにくいとは思うけど?」

私たちが母艦でそれぞれの機体に待機している間も、オフィシャル回線での喧嘩は続く。


【…仮にそれが真実であったとしても、何の確証もなしに、そんな言葉に従えるものではないわ!】


「おぉ、正論」
【オーブのお姫様とやらは、やっぱりバカなのか?】
「そうなんじゃない? 世間知らずのお姫様は、お城で守られてりゃいいんだよ…何も知らない……子供のくせに」
【……アルトは、何か彼女に……恨みでも?】

私が珍しく敵意を露わにしていると、ニコルは心配そうな顔で私を見ていた。

「…別に? ちょっと苛立ってるだけ」


【貴様ぁ!! うぅっ!!】


「あらら。ついに発砲されちゃったよ?」
【……のようだな。さて、隊長様はどう出るか? お手並み拝見だ】
【アナタたちは……はぁ……もぉいいです……】

ニコルが脱力したように、コックピットの中で頭を抱えた。

「まぁ、一番いいのは、領海に天使様が逃げ込む前に撃ち落としちゃう事だよね! アスランとディアッカに期待しとこ」
【アルト…】
「不満は、私の待機を解除してくれないアスランに言おうね」

そう言ってニッコリと微笑むと、ニコルは最早何を言っても無駄だと悟ったのか、黙り込んだ。

(っていうか、どさくさまぎれで私が待機してるって事、忘れられてる気が、大いにするけどね!!)

帰ったらとりあえず、アスランを殴っておこう。グーはやり過ぎだから、平手あたりで勘弁してやるとする。


【警告に従わない貴艦らに対し、我が国はこれから自衛権を行使するものとする】


「……って事は、足付き、落ちた!?」
【ほぉ…】

機体に待機している身では、前線の映像が拾えない。ブリッジに行けば見れるだろうけれど、それでは意味がないので推測するしかないが。

【……これから帰投する】

通信でアスランが帰投するとの連絡があり、ようやく私たちは待機命令が解除された。
…一時停戦との事で。





母艦に帰ってきたアスランたちを迎えて、私たちはブリーフィングルームに集まる。
そこで、ただちに発表されたオーブの公式文書を手に入れて憤慨していた。主にイザークが。
実を言うと内心ではディアッカも私も憤慨している。

「こんな発表を、素直に信じろって言うのか!?」

テーブルの上にある公式発表のコピーを勢いよく叩いて、イザークは激昂した。

「足付きはすでにオーブから離脱しました=cなーんて本気で言ってんのー? それで済むってぇ? …俺たち、バカにされてんのかねぇ!? やっぱ、隊長が若いからかなぁ?」
「ディアッカ!」

(それを言うなら、この場にいる赤服連中、皆若いんだからバカにされんのは全員でしょ…)

ディアッカもそれなりに苛立ってるらしく、アスランに八つ当たりしている。
アスランは一点を見つめながらも、怒る事なく呟いた。

「そんな事はどうでもいい……だが、これがオーブの正式回答だと言う以上、ここで俺たちがいくら嘘だと騒いだ所で、どうにもならないという事は確かだろう」
「何おぅ!?」

今の私はとてもイライラしているので、何をしなくてもアスランに突っかかってくれるイザークの言動を止める気にもなれない。普段ならニコルと一緒に仲裁側に回るのだけど、今日は放置気味だ。

「…押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題だ」
「…………ふーん?」

(おや、イザークが引いた)

珍しい彼の様子を私たちは黙って見ていたが、やはり、イザークはイザークだった。

「流石に冷静だなぁ、アスラン? いや、ザラ隊長?」
「だから? ハイ、そうですかって帰るわけ?」

まるで二人は、この場にいる者、全員の内心を代弁するかのようにアスランに突っかかって行く。突っかかられているアスランも実は内心憤慨真っ最中なはずなのだが、やはり彼は冷静だった。

「カーペンタリアから圧力をかけてもらうが…すぐに解決しないようなら……潜入する」
「え…?」
「「「!!」」」

あのアスランが、こんな方法を提示するなんて、誰が思っただろう。私たちは全員、目を見開いて驚いた。

「それでいいか?」
「…足付きの動向を探るんですね?」
「ああ……どうあれ、相手は仮にも一国家なんだ。確証もないまま、俺たちの独断で不用意な事はできない」
「突破していきゃ、足付きが居るさ! それでいいじゃない!?」

ディアッカが珍しく声を荒げて抗議しだした。どうやら屈辱を味合わされ過ぎて、彼の忍耐もキレかかっているようだ。

「ヘリオポリスとは違うぞ……軍の規模もな…。オーブの軍事技術の高さは言うまでもないだろ。表向きは中立だが、裏はどうなっているのか計り知れない、やっかいな国なんだ…」
「ふん……OK、従おう」

アスランの説得に、イザークはあっさりと承諾した。やはり小ばかにしたような表情でアスランを見下げる。

「俺なら突っ込んでますけどねぇ? 流石、ザラ委員長閣下のご子息だ。まっ、潜入ってのも面白そうだし? 案外ヤツの……あのストライクのパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?」

彼は嫌味を満載させた台詞をつらつらと並べながらも、ブリーフィングルームをディアッカと一緒に出て行ってしまった。


NEXT→

(とりあえず、本部から連絡あるまで休息って事? ザラ隊長!)
(え!? あ、あぁ…)
(何よ?)
(いや、あの…すまない……君の待機命令を…)
(忘れてた自覚はあるんだ? ……じゃあ、一発殴っていい?)
(え!)


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