第5章 平和の国
35:「待たんか貴様らぁ!」
【何をやっているディアッカ! さっさと船の足を止めろぉ!】
【わかっている!!】

繰り広げられる攻防。アスランが合流して私が目覚めてから、すぐに母艦で足付きを探す任務を始めた私たちは、案外簡単に大天使様を見つける事ができた。

(…アスランを個人的に問い詰めてみても、収穫はなかったけど。海からのデータはイイ感じだったしね)

私のデータ解析のもと、狙い通り大天使様に襲撃をかけることになる。
アスランの指揮のもと、対空中戦闘用のグゥルに乗って私たちは出撃し、それからフォーメーションを整え、五人で連携をとって足付きを追いつめているところだった。

ストライクは、足付きの艦上からしか攻撃ができないようで、結構やりやすい…はずだったのだが。

【イザーク!! 一人で出過ぎるな!】
【うるさい!】

熱くなって一人で戦おうとするのは、イザークの悪いくせかもしれない。それでなくとも、ストライクを執拗に敵視しているのだから、冷静になれといっても聞いてはくれないだろう。アスランからの指示だと余計に。

【エンジンを狙うんだ。ニコル、左から回り込め】
【はい!】

(おお、素直に言う事聞いてくれんの、ニコルくらいだもんねー。……私は、時と場合によるし? 兄様ラブだから!)

そんな隊員もどうかと思うけれど、アスランの心情を知っているだけに素直に従いにくいものがあった。
ニコルはアスランの指示通りに足付きの左から回り込み、左機関部を損傷させる事に成功する。足付きは少しぐらつきながらも、完全に沈むまではいかないところが憎らしい。

「そろそろ本気で落ちてよ、大天使様?」
【アルト! お前まで前に……!】
「エンジンでしょ!! わかってる!!」

(隊列を乱すのがイザークだけだと思わないでね、アスラン! 隊列だけで墜ちる天使様なら、苦労しないんだよ?)

私はイザークよりも更に前に出て足付きにとりつく。
ニコルが狙った機関部の部分をさらに正確に破壊して左部分を完全に停止させてやった。

【下がれジェニウス! こいつは俺がぁぁ!!】
「イザーク!?」
【イザーク! 迂闊に…】

突如として現れたイザークに、私は度肝を抜かれる。
私の突出は計算だが、イザークは完全に感情=行動、な状態であろう。その後の隊の動きなど、まるで無視だ。
そうしてイザークはストライクに近づいていった。グゥルを狙い撃ちされた彼は、最後のあがきのように跳躍して足付きに向かう。

「イザーク!! ちょっ、それは無理だよ落ちるって!」
【アルト! イザークの回収にまわってくれ!】
「マジでー!? もぉ!」

ストライクの方も足付きから跳躍して、ビームサーベルで対峙していた所だった。競り合わせたサーベルは、出力がストライクの方が上だったのか、イザークの方が溶解する。

【何ぃ!?】
「あぁ、だから……」

ヤマト少年は、どうやら独自にストライクの性能を上げているらしく、その出力がすでに初期値のパラメータを上回っている。デュエルが競り負けて当たり前なのだ。

「出撃前に言ったでしょ!? アンタの脳はスポンジか!!」
【なんだとぉ!? もう一度言って……ぐぁ!】

ニコルと私でイザークの回収に向かっていると、空中で私たちに気づいたストライクが、なんとデュエルを踏み台にして更に跳躍して来た。その衝撃で急速にデュエルは海へと突き落とされていく。

【くっそぉぉぉ!!】

イザークは、悔し紛れにビームを浴びせるが、数秒後には海とご対面だ。
味方のビームに当たるほどバカではないので避けながら進んでいくと、どうしても海に落ちる前にデュエルを回収できず、軌道距離がズレてしまう。
グゥルに乗って空中キャッチする、という作戦は失敗に終わりそうだ。

「余計な事しないでよー!! って、ニコル危ない!」
【う、わぁぁぁ!】

私はストライクの機体を避ける形で軌道をとっていたが、ストライクは真っ直ぐにブリッツに向かっているようだった。狙いは、ブリッツの下にあるグゥル。
華麗にニコルの機体を蹴り飛ばして、ついでにグゥルを破壊していくストライクを見ていると、格段に戦闘能力がアップしたと思わせられた。

「……やっぱ、放っておくのは……まずかったね」

彼は戦闘を重ねる度に強くなる。災いの芽は確実に育っているようだ。

【ニコル!!】
「アスラン! 二人は任せていいから、集中してて!!」

足付きに戻ったストライクは、再び艦上から今度はイージスに狙いを強めた。

二人の攻防を背に聞きながら、落ちた二人を母艦へと収容すべく働く。ムウ・ラ・フラガの乗る機体は執拗にディアッカをつけ狙っていて、こっちには気にもとめていないようだから、二人を助けるなら、今しかない。

「海の中、進んでいった方が早いかな?」
【そうですね、ここからなら…】
【収容なんぞいらん! お前のグゥルをよこせジェニウス!】

(いやいやいや、バカな事を言わないでくれないかイザーク・ジュールさん。どこの世界に味方の移動機かっぱらって戦場に戻るおバカさんがいるのよ!)

「バカな事を言ってないでさっさと母艦に収容されちゃってよ!」
【何ぃー!?】
「もぉ! ニコルー!」
【仕方ないですね……行きますよイザーク】
【こらぁ!! 待たんか貴様らぁ!!】

ぎゃあぎゃあ騒ぐイザークを無視して、私は母艦に入電し、迎えに来てもらった。ニコル一人では、暴れるデュエルを収容するのは無理なので、グゥルを畳んで私も手伝うことにする。本当に手間のかかる坊ちゃんだ。
私は誰にも聞こえないようにため息を吐き出すと、首にかかったロケットを秘かに取り出して蓋を開けた。

「……兄様、アスランが隊長じゃ、やっぱり不安だよ…」

呟いた私は、再びため息を吐き出して、なおも収容を拒むデュエルの機体を蹴り飛ばして無理やり収容したのだった。


NEXT→

(ジェニウス、よくも蹴り上げてくれたな貴様!!)
(…海に落ちたキミを母艦に収容するのが、私に出された指示。さっさと収容されないで暴れてるから強制収用したんじゃん、何かモンクあるの。それともキミはアスランだから、なんて理由で隊長命令を無視するの? もう一度アカデミーからやり直す? ってか、もう帰ったら?)
(き、さ、まぁぁぁぁ!)
(…アルト、苛立つのは分かりますけど、そこらへんにしてあげてくださいね)
(はーい)


キャラ投票
嘆きの華キャラに投票しよう!
下記の中からアナタの推しキャラを選んで応援してください★


コメント入力も可能ですよ☆


Homeへ戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -