アスランが輸送機から落ちたと連絡を受けてから数時間。とりあえず代表で、イザークがカーペンタリア基地の本部に詳細と対策を聞きに行ってくれていた。
私とニコル、ディアッカはその間、待機室でのんびり報告を待っている。
ただ、のんびりしているのは私とディアッカだけで、ニコルはずっと窓の外…海の方を眺めていた。おそらく、海上で行方不明になったアスランが心配なのだろう。
(…そろそろ日が暮れる……捜索許可が出たとしても、これは明日になりそうだなぁ…)夜になってから捜索隊を編成したところで、探せる範囲などたかが知れている。ニコルはずっとそわそわしてるし、アスランよりもニコルの方が心配になってきた。
「ニコル、見ててもアスランは飛んで来ないよ? イージス、空飛べないし」
「……そうですよね…」
「心配なのはわかるけどさ…」
「でも…」
その時、ドアが開いてイザークが帰って来る。
「イザーク! アスランの消息…」
「ザラ隊の諸君。さて、栄えある我が隊…初任務の内容を伝える」
ニコルがすぐさまイザークに詳細を聞こうとすると、その声を途中で遮って彼はもったいぶった言い方をした。
(…栄えある……我が隊…?)イザークの表情はとても嬉しそうだ。例えて言うなら、これから大きなイタズラをしてやろうというお子さまの素敵な微笑みとでも言っておこうか。
「それは……これ以上ないというほど重大な……隊長の捜索である」
「ぶっ!! あははははは!! あっはははは!」
「ぶふっ!」
イタズラな子供の表情から、とても神妙な顔になって何を言い出すのかと思ったら。
隊長の捜索が初任務。
ディアッカのような大爆笑とまでは行かなくとも、私も少し吹き出してしまった。
ちなみにニコルは本気でアスランの事を心配しているので、このイザークの言い方も気に入らない。大爆笑しているディアッカの反応にも眉をしかめた。
「まっ、輸送機が落っこちちまったんじゃ、しょうがないが……本部も色々と忙しいって事でね。自分たちの隊長は、自分たちで探せとさ」
イザークが神妙な動作に飽きたのか、いつもの調子に戻る。
「やれやれ、なかなか幸先の良いスタートだねぇ」
「…とは言っても、もう日も落ちる。捜索は明日かな」
(ああ、やっぱり?)ニコルには悪いけれど、私たちは彼ほどアスランの心配をしていなかった。特に私は。
(だって、イージスに乗ってるし、アスランだし)最後の理由はアスランを信頼しての事だが、イザークたちは違う理由だろう。
「そんな…!!」
「イージスに乗ってるんだ、落ちたっていったって、そう心配する事はないさ。大気圏、落ちたってわけでもないし?」
「まっ、そういう事だ」
(…だよね、大気圏から単体で落ちるとエライ目に遭うって事は、私もよく知ってるし)「というわけで、今日は宿舎でオヤスミー。明日になれば母艦の準備も終わるって事だから? それからだな」
そう言ってイザークは、さっさと待機室を出て行った。
「さぁて、俺も明日に備えて寝るかなー」
続いてディアッカも立ち上がり、待機室を出ていく。
(明日に備えて……ねぇ…)備える気もないくせにそう言うあたり、この状況を楽しんでいるのは間違いない。
ニコルは再び、窓の外に体を向けて海を心配そうに見つめていた。
私は二人が出て行くのを横目で確認すると、ニコルの傍まで立ち上がって歩く。
「…ね、ニコル?」
「アルト…」
肩を優しく叩いて、頭を撫でる。
「大丈夫。アスランだよ? 殺したって死なないって」
「殺……まぁ、確かにアスランなら……アスランは……強いって……わかってますけど……でも……」
ニコルが悔しそうに拳を握り締めながら何かに耐えている。私はその手をそっと握って、撫でた。
「明日、朝イチで探そう? …イザークたちは乗り気しないみたいだから、二人で」
「アルト…貴女はアスランの心配を…してくれるんですね」
「そりゃ……一応隊長だし? ……仲間だからね」
(ごめん、ディアッカの大笑いにかき消されただけだと思うんだけど、私も一瞬吹いたよ。だってイザークの顔とか台詞が楽しかったんだもん)「アルト…」
「ほら、明日アスランに会うのに、そんな顔してたらアスランもどういう顔していいかわかんなくなるよ」
私はくしゃくしゃとニコルの頭を撫でた。
「わっ」
「生きてたんですねアスラン≠ョらい笑顔で言ってやろうよ。なんか悔しいから」
「…ふふ……そうですね」
「ね?」
そうして私とニコルは、アスランを救助した時の想像をして、笑いながら宿舎に向かった。
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(なぁ、イザーク。明日何時に起きるー?)
(あん? なんだディアッカ早起きして隊長様をお出迎えか?)
(なんだ、やっぱヤル気ゼロかよ)
(当たり前だ。なんだって俺たちがアイツを探し出してやらにゃならん)
(だよなー。朝になっても居なかったら捜すか)