【両名とも、無事にジブラルタルに入ったと聞き、安堵している。…アルテミスは無事か?】
クルーゼ隊長からの通信に、俺とディアッカは並んで聞いていた。この場に居ないジェニウスの状態も聞いていたのだろう。やけにアイツの心配をする隊長に、いつもの事だ…と自分に言い聞かせながら波打つ自分の感情を抑えた。
「さきほど一時目を覚ましましたが、すぐに気を失いました。ですが二日もすれば全快するでしょう」
【そうか……】
隊長の声色が少しだけ変わった気がした。だが、それもすぐに戻る。
【先の戦闘ではご苦労だったな】
「ふっ……死にそうになりましたけど」
ディアッカが自嘲の笑みを浮かべながら返した。
確かに、ジェニウスほどではないが、俺たちだって相当な負担を強いられた。単体での地球降下の代償は、体が沸騰したのかと思うほどの熱の保持だ。
【残念ながら…足付きとストライクをしとめる事はできなかったが、君らが不本意とはいえ、共に降りたのは幸いかもしれん。足付きは今後、地球駐留部隊の標的となるだろうが、君たちもしばらくはジブラルタルに留まり、共に奴らを追ってくれ。……無論、機会があれば撃ってくれてかまわんよ?】
そこでクルーゼ隊長は、口角をあげて挑戦的な視線をよこした。手柄は遠慮するなと言いたいらしい。
(……望むところだ……)今度こそ、ストライクを撃ち墜とす。それだけが俺の雪辱をはらしてくれる、唯一の救い。
【そうそう、一つ言い忘れた。アルテミスに、無茶はしないように釘をさしておいてくれ】
隊長はそれだけ言い残すと、唐突に通信をぶった切った。
(女であるからの心配なのか、それとも…)俺の心に小さなトゲをさしていく行動に、見事にはまってしまう自分が居る。そんな俺の心情を知ってか知らずか、ディアッカは自嘲の笑みを浮かべていた。
「宇宙には戻ってくるなって事ー? 俺たちに駐留軍と一緒に、足付き探して地べた這いずり回れって言うのかよ? ああ?」
ディアッカの苛立ちもわかる。コイツもプライドは高いほうだ。だからこそ俺と意見があう所もあって一緒に行動しているのだから。
俺は不満をぶつけてくるディアッカに一瞥をくれてやると、おもむろに顔に巻いてある包帯に手をかけた。
「おい? イザーク?!」
「機会があれば……だとぉ?」
俺の顔に走る傷を、ディアッカは驚愕したような目で見つめてきた。
「撃ってやるさ……次こそ必ず……この俺がなぁ!!」
(そうだ、俺が撃つ)この汚名をそそぐ事ができるのは、ストライクとそのパイロットの破壊だけだ。
「イザーク…」
「……ジェニウスの体が回復したら、基地を出る。それまでに足付きを探すぞディアッカ!」
「あ……ああ……」
そうして俺たちは、通信ルームを後にした。
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(そうだ……アルトの意識が戻ったらさ。いつか、ちゃんと話してやれよ)
(ああ?)
(女に告白させるなんて、最低だぜ?)
(な!!!! そんな事はわかっている!! それに何故、アイツからの告白が前提なんだ!!)
……お前も相当鈍いなイザーク……