第3章 親友との別離
20:「テヤンデイ!」
「あ、そうだ。アスラン、回線繋いでて良い?」

私はアスランに通信を繋いだままにしていた。共に並びながら、とりあえずお伺いをたててみる。
特に兄様に命令された訳ではないが、どんなことに繋がるかわからないのだ。情報収集は欠かせない。

【……ブリッジに繋いでいないなら】
「もち! ありがと」

(……ごめん、私に会話聞かれるって事は、兄様に……クルーゼ隊長に後日、筒抜けになるんだよね。これが。まぁ、アスランは知らなくて良い事実だし、ここは黙っておこうっと)

私は内心でアスランに軽く両手をあわせて謝る仕草をした。少しの罪悪感が残るが、私にとって兄様への貢献が先に立つのである。残念ながら、これは一生変わらないのではないかと思うほどに、強い思いだった。

「じゃ、ここまでね。行ってらっしゃい」
【ああ、……行ってくる】

私はその場でゼロを停止させ、アスランの乗るイージスを見送っていく。
だんだんと小さくなるイージスとは裏腹に、通信画面の先では、アスランが緊張した面もちで操縦している姿が見えた。ほどなくして、ストライクとイージスは向かい合わせの状態で停止し、睨みあうような形になる。

〔アスラン……ザラか……〕
【そうだ…】
〔コックピットを開け〕
【…………】

ストライクは銃で狙いを定めながら命令してくるが、声がとても緊張していると私は思った。どうやら彼は慣れないことを無理矢理我慢して行っているようだ。それを感じたのかどうか知らないが、アスランは無言でその命令に従う。
そして、ゆっくりとイージスのコックピットが開く音が聞こえてきた。
ちなみに、私のサウンドはオフにしてある。ストライクのパイロット……キラ・ヤマトに私の声が聞こえる事はないだろう。

〔話して…〕
〔え?〕
〔顔が、見えないでしょ? ホントに貴女だって事、わからせないと…〕
〔ああ、そういう事ですの。こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ〕
〔テヤンデイ!〕

「ぶふっ!」

(……いけない。ラクス嬢の言葉の後にスゴイ音が聞こえて来たから思わず吹いちゃった。あの声は……)

「ハロ…だよね……そういえば、ヴェサリウスでも作ってたような…?」

(すでに相当な量を持ってるのに、まだ贈る気でいるのか。あのバカラン・ザラめ)

「数があれば良いってモンじゃないでしょうに…」

彼が自室で作っていたハロの数を思い出して、ここが戦場だというのを一瞬忘れた。その時、ふと耳に入り込んできた声に意識がそちらへ向く。当たり前だが会話はどんどん進んでいたので、私は慌てて気を引き締めた。
今は、ラクス嬢がアスランの元に戻っている最中だと思われる。

【色々とありがとう、キラ。…アスラン、貴方も】

ラクス嬢の声が、イージスの回線からしっかりと聞こえてくる。どうやら、無事にアスランの元まで戻ってこれたらしい。

【キラ……お前も一緒に来い!】
〔……!〕
【お前が地球軍にいる理由がどこにある!?】

アスランが何かを決意したように、声を張り上げた。コックピットをお互い開け放した状態で、彼の顔が見えたせいもあるだろう。私が聞いているというのも忘れて、アスランは感情的になっているようだった。

(うーん……結構正論だけど……でも、無理だと思うよアスラン)

そんな事ができるなら、彼は最初からプラントに居るだろうし、捕獲された瞬間に大人しく同行しているだろう。
こんな面倒くさい事にならずに済んだはずだ。

〔僕だって……君となんか戦いたくない……でも、あの船には守りたい人たちが……友達が居るんだぁ!!〕

「……あちゃー……」

ヤマト少年の心からの叫びは、アスランにどう伝わったのだろうか。少なくとも、私は頭を抱えてしまったのだけれど。

(これって、聞きようによっては、アスランは「友達じゃないよ」認定じゃない? なんか、可哀想……アスランは親友だと認定してるっぽいのにねー…)

「軍に逆らってまで、捕獲したり説得したりしてんのに、アスランの苦労知らずな……バカな子供…」

(本当に子供だね。このキラ・ヤマトって子は…アスランの言う通り…いや、それ以上かもしれないな。身勝手で、自分に力がないのに何もかも背負い込もうとしているなんて)

私の心はこのワガママ発言でちょっと苛立ってしまった。

「守るってのは、力も知識も伴わないとできないことなんだって…気づかないかなー」

この間までただの民間人だった子供に、いったい何ができるというのか。少しばかりMSの操縦ができるからといって勘違いをしているのではないかと思う。
アスランの苦悩する姿を、生中継で贈ってやりたいくらいだ。

「…私が兄様を守るのにどれだけの覚悟をしたか…キミには、その覚悟があるのかな?」

幼馴染みと決別し、修羅の道を歩む覚悟。
私は少しだけ侮蔑を込めた嘲笑を見えないヤマト少年に送り、そっとゼロの操縦管に手を伸ばした。
そろそろ展開も終演を迎えるはず。ラクス嬢も戻った。……後は、滅ぼすのみ。

【……ならば仕方ない……次に戦う時は、俺がお前を撃つ!】
〔……僕もだ……〕

そうしてストライクはゆっくりと離れていったようだった。

(もぉ、いいかな…?)

私は通信を切ろうと手をあげた、その瞬間。

【アルテミス、攻撃準備だ】
「隊長!?」

兄様が私だけに通信をつないできたのだ。

【ラクス嬢が完全にイージスに乗り込んだら、同時に足付きを攻撃する】
「……了解」

私は兄様との通信を素早く切断すると、アスランへの通信サウンドをオンにする。
来るべき時がきた。

「アスラン、先に戻って」
【アルト?】
「……ヴェサリウスはヤル気だよ」

その言葉が言い終わらないうちに、兄様の機体は私の機体とアスランの機体を追い抜いていく。

【隊長!?】
〔アスランは、ラクス嬢を連れて帰投しろ!〕
「……ほらね」

そうして私もアスランの機体を追い抜かす。
私はアスランとの通信も遮断して、戦闘に集中した。

(だって、繋いだままだったら、止めろとか何とか言ってきそうだし。面倒くさいものね)

向こうも予測していたのだろう、ムウ・ラ・フラガの乗るモビルアーマーが出撃していた。私がロックをモビルアーマーにセットしている最中に、オフィシャル回線が強制的に開き、出てきたその顔に思わず私は釘付けになってしまう。

【ラウ・ル・クルーゼ隊長】
「…うっそー…」

この声。やはりラクス嬢本人に間違いないようだった。オフィシャル回線で何をしているのだろうか。

【止めてください。追悼慰霊団代表の私の居る場所を、戦場にするおつもりですか?】

(うっわ……面倒くさいのが、ここにも居た…!)

顔の筋肉がひきつっていくのが自分でもわかる。
こんな好機を逃すなんて信じられないが、彼女は軍人ではないのだ。好機がどうのこうのという前に、平和が優先されるらしい。

【そんな事は許しません。すぐに戦闘行動を中止してください。聞こえませんか?】

丁寧だが、有無を言わせぬ圧力がある。さすがは現議長の娘とも言うべきなのか…生まれながらにして人を統べる迫力を持っているのかもしれない。私は思わず目の前にいる兄様の機体、シグーをモニター越しに見つめた。

(…兄様の舌打ちが聞こえる気がするなぁ…)

兄様がどう判断するかが問題で、私はロックをかけたままにしておいてから、とりあえずその場に静止した。


ピピッ


「はい?」

ほどなくして兄様も静止し、くるっと機体を反転させる。何の命令も入ってこないなと思っていると、不意に通信を知らせる音が響いた。

【……他の回線を】
「…………」

すぐさま映ったモニターの先では、不服そうな兄様の顔。私は無言ですべての回線を強制終了させ、改めて兄様だけに通信を繋ぐ。

「……どうしたの?」
【ふざけたお嬢さんの要求だ。このまま帰投する】
「…兄様、相当苛立ってるね?」
【…イージスに乗っているお嬢さんに聞かせてやりたいが、そうも行かない】
「…だよねー…」

私はため息を吐いた。兄様の気持ちが痛いくらいにわかるのは、私だけではないはずだった。ここまで追いつめておきながら、みすみす獲物を逃がしてやるなど、信じられないが、逆らえないのだから仕方ない。

【……アーティ、ストライクの情報は?】
「スキャンできたよ。ある程度は大丈夫」
【ある程度?】
「特殊ロックが追加されてる。…多分、あのヤマト少年が、独自に追加したんだと思うけど…」

兄様は、本日何度目になるのか、すでに予測不能な舌打ちを小さくした。

「ごめん、役に立てなくて」
【いや……アスランとストライクとの会話、ちゃんと聞いていたかな?】
「うん」
【……それだけでも良いだろう……ご苦労だった】

そう小さくねぎらうと、今度こそ兄様は通信を切った。


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(テヤンデーイ!)
(わ!!)
(あらあら、すみません。ピンクちゃんは鍵を外すのが大好きでして…)
(…MSのコックピットを強制開鍵するなんて……アスラン、たかだかペットロボに一体どんな機能つけてんの!? さすがにこの機能は知らないよ!?)


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