第3章 親友との別離
18:「彼女は、絶対に助け出す」
【偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦に攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と見なし、当方は自由意志でこの件を処理するつもりである事を、お伝えする!!】


「…人道的!? 絶対、下心アリアリじゃないの!! …この……卑怯者っ!!」

(何、このバカ共!! 援護に来といて、全滅しそうになるとコレ!? 切り札かざして、ドロンですか!? 最低っっ!)

あまりの怒りに、思わずゼロのコックピット内を拳で思い切り殴りつけてしまった。
痛みなど怒りで忘れてしまって感じることもない。私は強く拳を握りしめたまま、キッとモニターに映る足付きを睨みつけ、うめき声を漏らした。

「ラクス……クライン……」

(まさか、あんな所に保護されてる……いや、人質にとられてるなんて思いもしなかった。
これなら、いっそ亡骸を〜以下略の方がいい!!)


地球軍のあまりの行為に、心から溢れ出てくる悪態が止まらない。
今の私には、プランとの平和を象徴するような歌姫が、重い足かせのように邪魔に思えて仕方なかった。

「よくも兄様の邪魔を……歌姫……」

戦闘で高ぶった私の心は、酷い憎しみと怒りを彼女に向けて放ってしまっていた。
普段はそんな思いなど微塵もなく、むしろ好意を抱いていただけに自分でも頭の片隅で驚くことがある。
どうやら、私は兄様の邪魔をする者であれば、すべて抹消対象になるらしい。やはり末期だ。

「…アスラン…ごめん、私やっぱり…」

そう小さく呟いた時。
ヴェサリウスから帰還命令が出てきて、コンソロールに伸ばしていた手がビクッと揺れた。

(…私は、今、何を考えていた?)

「……あっぶな……歌姫もろもと沈めてやろうかとか、ちょっと考えちゃったよ…」

自分のあまりの変化に戸惑いながらも、少し浅く深呼吸を繰り返す。それからチラリと足付きを見て、深いため息を吐き出した。

「…仕方ないな……アデス艦長が怒り狂ってるし…」

くるりと機体を反転させて、ヴェサリウスに今から帰投します、という意志を示す。怒鳴り散らしているアデス艦長の血管が切れる前に帰投した方が良さそうだった。
そのままバーニアをふかして直進すると、赤色の機体が見当たらない。

(え、まさか…?)

気になって探してみると、未だアスランはストライクと睨み合ったまま膠着状態だった。

(えー! アスラン、命令違反はほどほどにしないと、アデス艦長の胃が…! いや、血管切れちゃうよ。マジで。あの人、絶対苦労人なんだから…!)

ちらちらとモニターを見て「さっさと機体を翻せ!」と念じてみた。

(…って、届くわけないよねー…)

わかってはいたが、念で会話ができるなら楽である。
いつまでたっても動きが見られないアスランだが、彼にだけアデス艦長からの命令が届いていないなんて事はないだろう。まさか通信遮断しているわけでもないだろうし。
そんな思いを抱きながら、物は試しと言わんばかりにアスランへと通信を繋いみた。

「アスラ……」
【…そんな卑怯者と共に戦うのが……お前の正義か!? キラ!!】
〔アスラン…〕
【彼女は助け出す……必ずな!】

繋いだ先では、珍しくアスランが怒鳴っていた。
彼もまたストライクのパイロット。キラ・ヤマトに通信を繋いでいたようで、二人の会話が少しだけ漏れ聞こえてしまう。
ついでにアデス艦長の怒鳴り声も。もはや、アスランと私の名指しで帰投命令が出されていた。最後までその宙域に居るMSは、私とアスランと、ストライクだけらしい。

アスランは酷く険しい顔でモニターを睨みつけていたかと思うと、目をギュッと閉じてコンソロールを動かした。
とたんにイージスが反転し、私と向き合う形になる。そこでようやくアスランは私に通信が繋がっていることに気がついたようだった。

【アルト!?】
「ごめん、アスラン……ちょっと聞こえた」

なんだか悪いことをした気分になる。
わざとではないのだが、私がちょっとバツの悪そうな表情をしていると、アスランは私から視線をはずしてイージスを操縦した。

【……帰ろう】

ボソリと呟かれた言葉。同時に、イージスは私に向かって発進してきて、すれ違いざまにゼロの左手をイージスがつかむ。そのまま手を引かれるような形でヴェサリウスへと帰投することになった。

「…ねぇ、アスラン…あの子、コーディネイター…だよね?」
【……ああ……】

友達で、幼馴染みで、できれば説得したい。
そう聞いていた。兄様に報告する時も「コーディネイターだから」と言っていたのを思い出す。
最初は、アスランが説得して、素直についてくるものだと思っていたが、どうやら事態はそう簡単に進展してくれるようなものではなかったようだ。
私はその事態の複雑さに、疲れに似たため息を吐き出す。ゼロはイージスが引っ張ってくれるから、私は途中からコンソロールを握らず、コックピットの背もたれに体を預けてダラダラとしていた。

「はぁ…さらに面倒くさい事態に…」

ため息と共に額に手を当て、これからの事を嘆くように私は目をぎゅっと閉じた。
頭痛がしてくるのは、仕方ないことだと思ってほしい。

【……アルト……君なら……いや、忘れてくれ】

アスランの小さな呟きが聞こえてきて、額に当てた手の下からチラリとモニターに映る彼の顔を覗き見た。
ふるふるとかぶりをふって、考えを振り払っているのが今の複雑な状況や心情を表しているようで、私はアスランの言葉の先を思案する。
彼が噛み殺した言葉は


君なら、どうした?


あたりだろう。
そこまで思い詰めるほどに、この事態は複雑だと今の私にもようやく理解できた。
もはやストライクは諦めるしかないだろうか。

(兄様だって、これ以上はダメだって言いそうだし……アスランの様子をチラ見しながら、手を打つしかないか…)

頭は冷静なもので、次々と浮かんでは消える今後の対策。心はアスランに同情しているというのに、なんとも笑えるほど私は冷静だ。
そしてふと、アスランが私に問いかけた言葉の応えを、無意識のように口から漏らしていた。

「…私だったら、殺しちゃうかな」
【え…】

ポツリと呟いた言葉だが、ちゃんと届いている。私はかまわず、独り言のように無心で言葉を漏らしていた。

「…地球軍からは、コーディネイターのくせにと責められ、良いように利用される。かといってプラントからは裏切り者のコーディネイターだと後ろ指をさされる」
【…………】
「そんなメに遭って、苦しむ姿を見るくらいなら、私がトドメをさせるうちに……殺しちゃう」
【……アルト……】

そう。私がアスランならば、半分は先ほど呟いた理由で相手を殺すだろう。
そしてもう半分は…

(兄様の…邪魔をするなら、容赦しない…)

ドス黒い感情が支配する、私の思い。
それを振り払おうと、私は勢いよく背もたれから上体を起こして、コンソロールを握った。

「私は今、独り言を言いました。誰も聞いてないといいなー」

アスランと視線を合わせないように呟き、数秒たってからそろりとモニターを見上げた。

「君は…」

モニターの先のアスランは、呆気にとられたような表情で固まっていた。
操縦管の操作もお留守のようで、二人してヴェサリウスの入り口で立ち止まってしまう形になる。
私はかまわずにアスランに微笑みかけた。

「ラクス嬢、見つかったね。とりあえずは、無事で」
【……彼女は、絶対に助け出す】
「おお、流石は婚約者。ごちそうさまー」
【え!】
「あははは! イザークに教えてあげようっと! 絶対おもしろい反応返ってくるよ!」

わざとらしくアスランをからかって、イージスに取られていた手を離す。それから怒って追いかけてくるかもしれないアスランに追いつかれないようにして先に機体を動かした。

【アルト!! …………本当に君は………】

そうしてアスランは、いつもの苦笑いを浮かべながら「調子に乗るなよ」と、釘をさし、私に遅れて機体を発進させていったのだった。


END

(ところでアスラン、ラクス嬢とは、ぶっちゃけどこまでの仲なの?)
(!! なっ!!)
(あー……わかった。キスもあいさつ程度までなんだね)
(まだ何も言ってないぞ!?)
(……アスランって分かりやすいね…)


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