第3章 親友との別離
15:「地味過ぎる!!」
「…これで、このファイルは終わりだね…」

私は今、プラント本国の自宅で極秘任務を進めていた。
何故宇宙に居た私がプラント本国に戻っているのかと言われると、ちゃんと理由がある。

あれから地球軍の新型戦艦を、後もう一歩…という所まで追い詰めておきながら、ヴェサリウスは後退を余儀なくされた。
エンディミオンの鷹……ムウ・ラ・フラガのおかげでヴェサリウスが機関部に損傷を負ったせいだ。

「まさか、あそこで暗躍してくるなんて、予想外もいいところだよね……あんな少ない戦力を分散するなんて…」

私は思い出しながら苦々しい思いを噛み潰した。
予想外ではあるけれど、それを成功させてしまったのも事実。
ニコルやディアッカの話によると、あの新型戦艦は普通の戦艦よりもかなりレベルの高い装備をしているのだとか。

「でも、コッチは予想通りだったな」

アスランは、例の最後の一機。ストライクを捕獲したらしい。命令は撃破のはずなのだが……一度は捕獲に成功しながらも舞い戻ってきたムウ・ラ・フラガに執拗な攻撃を受けて失敗したようだった。

「そりゃ、あんだけイザークが怒るのも無理はないよね。今回は…」

残念ながら庇い立てもできない。
ガモフに居るメンバーに、何があったかはある程度聞いたが、明らかにアスランのミスだった。

ちなみに私は、ヴェサリウスで待機命令が解除されなかった。悔しさはイザークたちに引けをとらない。

「私だって、戦闘に参加したかったよ…」

今思えば、あそこで私まで参加しての敗戦になると面目が丸つぶれ過ぎて笑いもできなかっただろう。

それから兄様とアスランは本国の査問会に呼ばれて一時帰国となった。
内容は主に、中立コロニーの破壊と今回のミッション独断専攻についての糾弾だそうだ。アスランは、新型の証言を求められている。

それと同時に私には、ザラ国防委員長からの極秘任務が降りていた。内容を知るは、兄様と私とザラ国防委員長のみ。アスランたちにも極秘なので、私は名目上、隊長のお供……という事での帰国となる。

「まぁ、実際のお供はアスランなんだけど」

それはそれで、適当に兄様が言いくるめてくれたから特に問題にはなっていない。

今回の極秘任務、これは現議長であるクライン議長にも内密で、内容は奪取した機体のさらなる解析と、その他の開発武器のためにデータを整理する事。

…プラントでもこれを応用した新型を開発するのだそうだ。
ザラ国防委員長の中では、もはやオーブであろうが地球軍であるとの認識。そしてそれを容認する事などない……との事で。

「わかるけどさ。私も嫌いだしね…」

私の力を知っているのは、兄様以外ではザラ国防委員長のみだ。
特殊なコーディネイトをされた私は、体内に機械に対する絶対的命令を獲得できる細胞を持っている。この性能を生かした作業をしろという事だ。

「でもさ、72時間以内って、いくらなんでも酷いんじゃないだろうか…」

帰国してから自宅に帰って、私専用のコントロール・ルームでの不休作業。
周りを特殊な機械に囲まれて、ブラウン管に映った数式の羅列を見ながら愚痴を零す。

72時間後には、ヴェサリウスは新たな隊を引き連れて新型戦艦の追撃に戻るらしい。
その間に、できるだけの作業を……というか、作業の完遂を、との事だ。正直言って、終わる気がしないけれど。

「ガモフに残してきた三人は、今頃どうしてんのかなー?」

ガモフには、ニコルやイザーク、ディアッカを残してきた。本国に帰還したヴェサリウスに代わって新型戦艦を追尾しているはずだ。
確か、最後の行き先は傘のアルテミス。

「あの三人だけで落としちゃってたら、すっごい悔しいけど…」

あの三人なら、傘のアルテミスもサクッと攻略しちゃいそうでちょっと楽しみでもある。
なんだかんだ言ってもイザークは優秀だし、ディアッカもそれなりに腕は立つ。ニコルだって冷静に事を分析して燃えるイザークを抑える事もできるんじゃないだろうか。

「あー……地味過ぎる!!」

本国に帰って来てるというのに、私に休みはない。
アスランにはあると思うが。

「なんだかズルいー……私も休み欲しいー!!」

端末を放り出して私は狭い場所でジタバタしていた。
あれからいったいどれくらいの時間が経っているのかわからない。この周りを機械に囲まれた空間に居ては、時間の感覚などなかった。

「もぉ、いいや」

休憩しているような時間はないけれど、私は思わず端末を本国のニュース放送に繋いでしまった。

【……ザザっ……なお、この船には……ラクス・クライン……っており……】

(えぇぇぇ!? ちょっ! 待って待って! ラクス・クラインが乗った船が……ロスト!?)

「あちゃー……」

(これはヤバイ。本当にヤバイ)

【ザザッ……アルテミス】

(うっわ!!!!)

「はっ……はい!!」

ぼんやりとしていると、兄様からの通信が繋がっていた。

【アルテミス、作業の進捗はどうだ?】
「えっと……」
【……アーティ?】
「……は……半分くらい?」

通信先の兄様の表情が固まっている。

(…サボってんのバレたかなー…)

【難しいかね?】
「ちょっと、面倒くさい箇所が何個もある……かな?」
【そうか…】
「どうしたの?」

話題を変えようと私は努めて平静を装って聞いた。

【ふむ。我々はラクス・クラインの捜索のため、少し早めに出向する事になった】
「え! ……やっぱ探すの? ってか、ウチが探すの!?」
【ほぉ、アーティは情報通だね?】

ぎゃー!! バレた!! サボってんのモロバレ!!)

「ごめんなさい、ごめんなさい兄様ぁ!!」

私は顔を真っ青にしながら即行で謝り倒す。

【フフフ……アーティは素直で可愛いな?】

(ぎゃぁぁぁぁ!! 兄様! ヤメてぇぇぇ!!)

この場合の兄様の褒め言葉は明らかに嫌味がこもっている。兄様に嘘をつけない私を笑っているのだ。兄様の笑顔が非常に恐ろしいものに見えるのはこういう時だけ。

「でもでも、ちょっとだけだから。さっき、ちょっとだけニュース見て驚いただけなの。時間の感覚ないから、今どんだけ時間経ってんのかわかんなくて、それで」
【もう良いよアーティ。私とて鬼ではない、気分転換も必要だろう】

(ホントごめんなさい兄様…)

【さて。疲れているところ悪いが、出向を35時間早めることになった。時間は0900だ】
「え……!」

(って、ちょっと待って今からだと…)

【出向は1100。隊員は一時間前に集合だが…アーティ、君の場合はさらに一時間前に私の部屋に居なさい】
「は……はい」
【それまで、できる所まででいい……それと、データのコピーは取っておいてくれ】

「もちろん、内密にだ」と、言い残して兄様は通信を切った。

「あー…ヤバイ……半分……から先が進まないからサボってたんだけど」

このデータ解析は面倒くさいもので、私たちが奪取した機体には人間が……主にナチュラル向けに性能をだいぶ抑えたリミッターなるものがついている。
そのリミッターを外せば性能が今より倍は向上するのだが、何よりパイロットに負担がとてもかかる仕組みなのだ。これは、コーディネイターとかナチュラルとか以前の問題で、人が乗れるようなものではないと思う。

「…よくもこんな機体を開発してくれたよ…」

私は改めて画面に向き直った。

「……覚悟……決めるか……」

他の隊員よりも一時間前に来いって事は、何かしらの収穫を期待しているわけで。

「…収穫かぁ…」

兄様の考えを理解でき過ぎる自分の思考回路を、この時だけは恨めしく思いながらも、私は作業に戻っていった。


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(ああ、終わらなかった…)
(アーティ、よくここまで頑張ったね)
(兄様!)
(ご褒美は何が良いかな?)
(!!)


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