第2章 Gシリーズ奪取作戦
14:「次こそ沈めたいものだ」
「…失礼します。隊長」
「…アルテミスか、入りなさい」

隊長室に駆け込んだ私は、アスランが来ていないことに少し安堵した。

「……兄様……」
「……なんだね、アーティ?」

私は俯いたまま、会話を続けた。…何とも切り出しにくいが、兄様なら大丈夫だと信じている。

「アスランに出頭命令、出してるよね?」
「ああ、もうすぐ来るだろう」
「…報告することもあるけど…とりあえず、聞いててもいい?」

チラッと上目遣いに兄様を見る。怒られるかもしれないと思うとつい弱気になってしまうのだ。
私の言葉に少し考えを巡らせていた兄様だが、一つため息を吐き出して苦笑いを浮かべた。

「ふぅ……仕方ない。確認したい事があるんだな?」
「…うん…」

兄様は「何もかも見抜いている」と言わんばかりに私を見つめ、手をスッと横に差し出す。

「通信は繋いでおこう。隣の部屋で聞いておいで」
「…ありがとう」

ゆっくり歩いて隣の部屋に行く。隣はシャワーやベッドなどがある、いわゆる兄様の私室だ。
部屋に入った私は、ちゃんとロックをかけてからベッド横の通信を繋ぐ。兄様の良い匂いがするベッドの感触を、ゴロゴロと寝転がりながら楽しんで、少しだけ上機嫌で兄様の返答を待った。

【そちらのサウンドはオフにしておきなさい】

言われた通りに、こちら側のサウンドだけをオフにする。暫く待っているとアスランが出頭してきたようで、入室許可を求める彼の声が聞こえてきた。

【ヘリオポリスの崩壊で、バタバタしてしまってね…君と話すのが遅れてしまった】
【はっ! 先の戦闘では申し訳ありませんでした】
【懲罰をかすつもりはないが、話は聴いておきたい。あまりにも君らしからぬ行動だからな、アスラン】

その兄様の言葉に、私は心の中で手を合わせて謝った。

(ごめん、兄様。私、先に殴っちゃった…)

【あの機体が機動した時も、君は……君とアルテミスは側に居たな?】
【申し訳ありません…思いもかけぬ事に動揺し、報告ができませんでした】

アスランの声色が若干緊張する。ここに来てようやく、ラスティの件を自分が報告しなくてはならなかったという事実を思い出したようだった。
画面の先では兄様の顔しか見えないのでアスランがどんな表情をしているのかは知らないが、とりあえず兄様はそこまで怒っていないようだ。

そしてアスランは、今まで悩んでいたであろう事柄を、ゆっくりとした口調で外に吐き出す。

【あの最後の機体…あれに乗っているのは、キラ・ヤマト。月の幼年学校で友人だった……コーディネイターです】
「わーお…」

私の推測も馬鹿にできないようだ。
やはりあの少年はコーディネイターだった。そして、アスランと知り合いだったのだ。
向こうに声は聞こえないとわかっていても、私は驚きのあまり口に軽く手をあて、声を抑える。

(…ってか、幼年学校一緒で友人までは想像つかなかったけど…まさか幼馴染みと戦場で再会とはね…しかも、相手は地球軍側についたってことでしょ? 最悪だね)

【ほぅ…】

兄様の声色にも、多少の驚きが含まれていた。
だが私には、その兄様の声で何となくわかってしまう。

(兄様…絶対、今これは面白い≠ニかなんとか思ってるに違いない…)

残念なことに、兄様が面白がる興味対象はいつも普通の人とは違うのだ。それがわかる私は、アスランに少しだけ同情を覚える。
自分が同情されているとは知らず、アスランは兄様に向かって、報告を続けていた。

【まさか、あのような場で再会するとは思わず……どうしても確かめたくて…】
【そうか…戦争とは皮肉なものだ……君の動揺も仕方あるまい。仲の良い友人だったのだろう?】
【はい…】

(ああ、兄様が懐柔に走ってる……ドSだからなぁ…)

兄に向かってドS≠ニいう評価もいかがなものかと思われるだろうが、事実なのでどうしようもない。

【わかった。そういう事なら次の出撃、君は外そう】
【え!?】
【そんな相手に銃は向けられまい。私も君にそんな事はさせたくない】
【いえっ隊長、それは…】
【君のかつての友人でも、今、敵なら我らは撃たねばならん。それはわかってもらえると思うが】

今や兄様は完全にドSスイッチがオンになっている。この会話が兄様による誘導だと、アスランは果たして気づくことができるのだろうか…と思っていた矢先、彼の声は明らかに動揺と焦りが現れ始めた。

【キラは……あいつは、ナチュラルにいいように使われているんです! 優秀だけど、お人好しで、ボーッとしてるから、その事にも気づいてなくて…だから……私は……説得したいんです! アイツだってコーディネイターなんだ! こちらの言う事がわからないはずはありません!!】

(…アスラン、必死過ぎ…途中、口調が素に戻ってたよ…ってか、どれだけあのヤマト少年が好きなのか…)

アスランの必死さが伺えるその発言に、私はちょっとだけ呆れた。普段の彼は、あまりそういった感情を表に出さないからだ。反対に言えば、それだけ大切な友達だと言うことなのだろう。

【君の気持ちはわかる……だが、聞き入れない時は?】
【……その時は……私が撃ちます……】

(はい、チェックメイト。完璧だね兄様…絶対、この一言を引き出すためにアスランに優しくしてたんだ…。あぁ、アスラン……キミじゃ、兄様には勝てないようだよ)

ポーカーフェイスを貫く兄様の表情に、私は微笑みを見いだした。兄様の内心では、大いに高笑いが聞こえてきそうな雰囲気である。

「……時々、兄様の狸っぷりが…どっかの誰かさんに似てて嫌になるなー……似てるから二人とも仲良いのかな……うーん…」

私が一人、ぶつぶつとボヤいていると、アスランは隊長室を退出していった。
私は慌てて繋いでいた通信を遮断し、兄様の居る部屋へと戻る。

「兄様ー…」
「聞いての通りだよ」

(だよね、そうなるよね)

「さて、アーティ。確認はすんだかね? 君からの報告を聞こう」
「えっと……とりあえず、ごめんなさい?」

とにかく私は先に謝っておくという手段に出た。まだ私は、G奪取作戦の本当の報告をしていないからだ。ラスティの件だけは先に入電しておいたけれど、自分の任務についてはまだである。
兄様は私の突然の謝罪に、珍しく首を傾けて不思議そうな声を出した。

「…何がかな?」
「第一任務は、失敗したの」
「ほう…」
「っていうか、カトウ教授? アレ、コーディネイターじゃなくてナチュラルだった」

相づちを打つ兄様の声に低さが増した気がして、私は慌てて報告を続ける。
すると、兄様の動作が固まってしまった。

「…それは、調査部の怠慢だな」

数秒思案した後、ため息と共に吐き出された言葉は、私を責めるようなものではなかったことに安堵する。

「仕方ないから、プレゼントだけあげてきたよ」
「それは良くやったね」

兄様に褒められて、私の頬は緩んだ。だが次の瞬間にはまた冷や汗を流すことになってしまうのだが。

「他には?」

(おぅふ! キター……絶対、来ると思ってた! 手ぶらで帰るはずないよね! 手土産ないとね!)

今日の兄様との会話は、浮き沈みが激しくて困る。私が勝手に浮き沈みを繰り返しているだけなのかもしれないが、8割方は兄様のドSスイッチが未だオンになっているからに違いなかった。
兄様は、私にさえも意地悪な時は意地悪だ。手土産になるかどうかわからなかったが、見てきたことだけを忠実に伝えることにした。

「えっと…とりあえず、あのカレッジにオーブの仔獅子が居た」
「ほう…」
「なんかカトウ教授に話があったみたい。様子から見てると、アポなし訪問で……多分、新型について問い詰めにきたんじゃない?」
「なるほどな」
「その前にプレゼントあげちゃったから、永遠に問い詰める事はできなかったみたいだけどね」

(あ。もちろん、見られてないよ! 安心して兄様!)

「それと、聞きたい情報は本人から得られなかったけど、ちょっと気になる事があった」
「何かな?」

私の気になること。
その話題に兄様は食いついてきた。どうやらようやく兄様の期待に沿う手土産を渡すことができるようだった。

「カトウ教授はゼミを出て私と話す前に、何かのディスクを学生に手渡してたの。……ヤマトっていう少年に渡してくれってね」
「ほぉ……それは興味深いな」
「さっきので確信したよ。渡す予定の少年は、キラ・ヤマト。あの最後のGに乗った子供」
「名前だけではないと?」

そう聞かれて私は、どうやって見ていたのか詳細を話した。すると兄様はニッコリと笑って私の頭を撫でてくれる。

「私はずいぶんと優秀な義妹を持ったようだ」
「どういたしましてー」
「そのディスクの中身は?」
「推測の域を出ないけど…多分、プログラム。新型のじゃないの?」
「開発しているのは、例のキラ・ヤマトだったと?」
「んー……それは多分、違う……かな? 彼が機体を見た時、私も見てたけど…驚いてたし。それに地球軍の士官には殴り飛ばされて……緊急避難って感じでコックピットに落とされてたもの」
「それはそれは…」

兄様が苦笑している。
開発関係者ならば、地球軍の士官と思わしき人物にあれほど乱暴に扱われはしないだろう。

「あの機体が途中から動きが良くなった原因は…彼がOSを書き換えたか、何かをしたかも…戦闘中に、あり得ないことだけど…それしか考えられないよ」
「それは、見過ごしておけないな…」

兄様の言う通りだ。
同じコーディネイターでも彼は群を抜いている気がする。もし、あの戦闘中に本当にOSを書き換えたと言うのなら、今居るザフトレッド全員を凌駕する技術を持った人物だろう。

「どうしよ?」

私は少し困ったという表情をして、兄様を見つめる。
兄様も少し思案中のようで…

「とりあえず、アスランは説得を試みるそうだからな。まぁ、彼の言葉を…今は信じよう」

結局、暫くは様子を見ることにしたようだった。だが、私はどうにも腑に落ちない。

(…なーんか…兄様アッサリしすぎてるような…?)

「もちろん、それでも失敗した場合は…どうしたものかな?」

わざとらしく見つめるてくる兄様の視線に、私はようやく兄様の意図を察した。

「……私が撃つよ」
「そうしてくれ」

結局、私も兄様にはかなわない、という事だろう。この台詞を私に言わせたいがため、わざとらしく悩んでいたというわけだ。

「さて、これからヴェサリウスの進路を定めなければ」

私が少し拗ねるようにして口をとがらせていると、兄様は苦笑いをして話題を変えた。
私もそこまで拗ねる気はないので、即座に兄様の話題にのっかることにする。

「どこに行くの?」
「傘のアルテミス」

傘のアルテミスというのは、とても守りが強固な場所で、ザフトは簡単に手を出すことができず、かなり有名だ。
ヘリオポリスでの工場の状態を思い出して、私はふと思い浮かんだことをそのまま言葉にする。

「…そっか、補給もままならない上に追撃されてるかもしれないってビクついてるわけだ?」

宇宙には地球軍の基地が少ない。
地球に戻ろうにも、ヘリオポリスがあった宙域から地球を目指せば、どう考えてもザフトの勢力圏内になるのだ。故に補給も兼ねて傘のアルテミスへと向かっているのだろうと思った。

「我々がそう簡単に諦めるとは、向こうも思って居ないだろうからね」
「だよね。追いつけそう?」
「ああ。ガモフと挟み撃ちにしようと思っている…次こそ沈めたいものだ」
「……了解」

兄様が疲れたようにいうので、私は短い言葉で応対した。これからやることが山積みだろうし、少しは休息してもらいたい。私に構っていては、休息どころではないというのがわかっているからこそ、私はすぐに姿勢を正した。
次こそは出撃できるよう、機体の整備をしに格納庫へと向かうため、兄様に別れを告げて隊長室を出ていく。

「…アスラン…キミの説得が…うまくいってくれたら楽なんだけどね…」

私はそっと廊下で呟く。
誰に聞かれる事もなくその声は消えていった。


END

(ジェニウス! アスランは殴り飛ばしたんだろうな!?)
(うん。一発だけ)
(一発だとぉ!? くそっ! やっぱり俺が…)
(その代わり、グーで思いっきり殴ったよ)
(……平手じゃないんですね…)
(……アルト、お前って時々怖ぇな…)
(そう?)


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