「アスラァァァン!!」
「うわっ!!」
私は帰ってきたアスランに、その涼しい顔の頬をめがけて一発お見舞いしてあげた。
ヘリオポリスを沈めてヴェサリウスの格納庫に帰ってきた機体は少ない。アスランはイージスを傷つけることなく帰ってきたが、私は内心での色々な怒りを彼にぶつけるべく格納庫で待機していたのだ。
「……1発だけにしてあげるよ。イザークやディアッカ、ニコルの分もまとめてね」
「アルト……」
アスランは突然に殴られた頬を押さえて私をボーっと見つめる。
自分が殴られた理由が多少なりともわかるから普段はよけられるはずの拳もよけなかったのだろう。その態度がなおさらムカついた。
「……ミゲル先輩やオロール先輩……」
「っ!!」
「地球軍にやられたんだね?」
「………すまない」
アスランは拳をぎゅっと握りしめながら斜め下に視線を固定している。唇を噛みしめて悔しそうだったが、悔しいのは彼だけではないのだ。
「…何してたのって聞かない。でもさ…」
私は床を蹴ってアスランの胸ぐらをつかんだ。これだけは言っておかないと、私の気も済まない。
「今度、一人で先走った行動とって周りに迷惑かけたら、ただじゃおかないから! 命令無視で出陣したのなら、やることちゃんとやってきなよ! …っていうのが、同期みんなの言葉の代弁…殴るだけで済んでありがたいと思って」
「…………ああ」
そして私はアスランの胸ぐらから手を離した。
これがイザークならもっと殴りかかって怒鳴り散らしているだろうけれど、今のアスランには何をしても無駄なのだ。すべての怒りは当然で、受け入れる。そんな心持ちの人間に怒鳴り散らしたところで、こちらが疲れるだけなのだから。
「……皆の荷物……今、ヴェサリウスに居るパイロットは少ないから、二人で整理するよ」
「…………」
「アスランは、ラスティのお願い」
私の言葉にアスランは何も言わずに格納庫から出て行った。
「はぁ…」
その反応にため息しかでない。
そして私も遅れて着替えをすませると、ミゲル先輩とオロール先輩の部屋に向かうのだった。
「……ミゲル先輩……オロール先輩……」
二人の荷物は本当に少ない。かく言う私も少ないけれど。それでも、なんだか整理する手が震えてくるのはどうしようもない事だった。
「お疲れさまでした…」
そっと二人の荷物に向かって手を合わせる。
宇宙での戦いは、亡骸を拾う方が難しい。機体と一緒に帰ってくれば別だが、そうでもないかぎり基本的には機体と一緒に霧散してしまうからだ。
二人の荷物はプラントに居る彼らの家族の元へすみやかに送られるだろう。
「さて…あっちはもう終わってるかな?」
アスランには、同室だからという理由でラスティの分の整理を頼んだ。
だが、本当の理由は違う。
「…絶対、泣いちゃいそうだしねー…」
ラスティの荷物なんて整理していたら、きっと泣き出してしまう。整理するどころか、前に進まないに違いない。
いや、ミゲル先輩たちの死もラスティの時と変わらないくらいに悲しいのだが、荷物に密接した思い出が少ないのが幸いだ。だから淡々と処理できるというもので…ラスティだけは違うと自分でもわかっていた。
やはり同期という点もあって、彼の荷物には私たちも見知ったものが多いはずなのだ。そんなものを整理なんてしていたら感情が爆発して、私は今にも地球軍へ突進してしまうに違いなかった。
だが同期は私だけではない。
…アスランも今、似たような気持ちなのだろうか。
「…だめだめ。また泣いちゃう…」
頭を激しく振って、悲しい思考を追い出す。私は二人の荷物を箱に詰めてから、改めてベッドに置いた。
クルーゼ隊のエースである二人の損失。
何より、中立であると言う割にはとてつもない兵器を開発してくれていた国。その名もオーブ。
悲しみを追い出した私の頭には、怒りの感情が残った。
「……許せない……」
そして私はすぐさま部屋を出ると、隊長室へと急いだ。
恐らく、アスランは兄様によってお呼び出しをくらっているだろう。命令無視の事情聴取といった感じだが、その前に先回りして確認しておきたいことがあったからだった。
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(…あ、ミゲル先輩の荷物からエロ本発見……いいや、これも入れとこ…)