第2章 Gシリーズ奪取作戦
12:「ああ、面倒くさいなぁ…」
隊長機が被弾した。
その知らせが格納庫に響き渡ると、その場に居る全員に動揺が走る。

「そ……そんな! 隊長機が被弾……!?」

(信じられない。信じたくない)

そう思って帰ってきた兄様の機体を見たが、確かに右腕を損傷していた。
ミゲル先輩も機体を失ったと言っていたし、まさかとは思う。だが、これが現実に起きている事なのだ。
私が兄様の機体を見上げ絶句していると、その兄様から通信が入った。
緊急ミーティングが開かれるらしい。私は急いで格納庫からブリッジに直行すると、遅れてアスランも到着した。

「「お呼びでしょうか?」」

二人そろってブリッジへ入室し、敬礼する。兄様は軽く微笑みながら返礼してくれたが、その表情はすぐに固くなっていった。
作戦テーブルを挟んで、向かい側にはミゲル先輩やオロール先輩も居る。

「君たちも参加したまえ」
「「はっ!」」

短く返答をしてから即座にミゲル先輩たちの隣に移動した。作戦テーブルの上にはヘリオポリスとその周辺の地図が展開されている。

「ミゲルがこれを持って帰ってくれて助かったよ。でなければ、いくら言い訳したところで地球軍のモビルスーツ相手に機体を損ねた私は、大笑いされていたかもしれん」

兄様の後ろには、ミゲル先輩がジンのカメラから撮影した例のGシリーズとの戦闘映像が映し出されていた。

(…こいつ……途中から動きが…)

明らかに途中から良くなった最後のG。この機体は確か、ストライクとか言うはずだ。
私の搭乗機となったGAT−X000、ゼロに情報が載っていた。

「オリジナルのOSについては、君らもすでに知っての通りだ。なのに何故、この機体だけがこんなに動けるのかわからん。だが我々がこんな物をこのまま残し、放っておくわけにはいかんという事は、ハッキリしている。捕獲できぬとなれば、今ここで破壊する。戦艦もな。侮らずにかかれよ…」
「「「「はっ!」」」」

兄様が眉間にシワを寄せている所からしても、どうやらナチュラルだからと馬鹿にしている場合ではないようだった。

「ミゲル、オロールはただちに出撃準備! D装備の許可が出ている! 今度こそ完全に息の根を止めてやれ!」
「「はい!」」

兄様の言葉を引き継ぐようにして、今度はアデス艦長がミゲル先輩たちに指示をとばす。

(うっそ、D装備って、要塞攻略用じゃなかった…!? アデス艦長、大胆…)

私がアデス艦長の発言に驚いていると、隣でアスランが勢いよく顔をあげて真剣な眼差しを艦長に向けていた。

「アデス艦長! 私も出撃させてください!」
「ん?」
「アスラン!?」

あのアスランが必死になって出撃許可を求めている。私には、その理由に心当たりがあった。
だが、口には出さずに、成り行きを見守ることにする。この話は、まだ兄様に報告していないからだ。

「機体がないだろう? それに君は、あの機体の奪取という重要任務をすでに果たした」
「ですが!」
「今回は譲れ、アスラン! ミゲルたちの悔しさも君に引けはとらん!」
「………っ!」

兄様が諭すように、やんわりと拒否していても、アスランは譲らない。アデス艦長に厳しく言い切られてようやく押し黙ったが、納得しているような表情ではなかった。
そんなアスランを横目でチラリと確認しながらも、言葉は兄様に向けて放つ。

「…隊長、ヘリオポリス……沈めるおつもりですか?」

私が真意を確かめるようにして問いかけると、フッと口元をほころばせて兄様は言った。

「わからんね。向こうの出方次第では……落ちてもらう事になりそうだが」
「…クルーゼ隊長」

アデス艦長がため息を吐きながら兄様をいさめる。
いくら新型を開発していたとしても、相手は中立を謡う国だ。評議会の判断もなしに沈めにかかるとは、あまりにも横暴だと言いたげなアデス艦長。
艦長の咎めるような視線にも、兄様はどこ吹く風で作戦テーブルを眺めていた。

(……聞いといてなんだけど、私は沈めてもらいたいなー。あんな中立とか言っといて地球軍に肩入れするような国、滅んじゃえばいいのに…コーディネイターの受け入れだって、言葉のまま信じる奴の気が知れないねぇ…まぁ、どっちでもいいんだけど…)

だが、私は軍人となった身だ。
とりあえず個人的感情は抑えておくことにして、スッと右腕をあげた。

「……いついかなる時も出撃できるようにしておきます」
「頼むよ、アルテミス、アスラン」
「「はい!」」

(ミゲル先輩たちを信じていないわけじゃない。D装備までしておいて敗戦なんてあり得ないと思うよ。……けど……)

私のイヤな予感が、どうか、当たりませんように。





「ミゲル機、オロール機、発進どうぞ!」

ミゲル先輩たちの機体が発進していく。その様子を私は待機室からドリンク片手に眺めていた。
今頃、イザークたちもガモフでそれを眺めているだろう。彼らとは作戦会議の前にそれぞれの戦艦に分かれて搭乗した。
ヴェサリウスの収容機体が足りなかったから……というわけではない。とりあえず、戦力の均等な分散だ。

「それにしても、アスラン……どこ行ってんだろ」

ブリッジから別れたアスランは不意に姿を消して、そのまま帰ってこなかった。
ミゲル先輩たちの機体が発進した後は、出撃する機体はない。格納庫はそのままハッチを閉じようとしていたが、不意にアスランが奪取した機体、イージスに動きがあった。

「えっ!!」

(うそうそ、ちょっと待ってよアスラン! まさか発進しちゃうの!?)

格納庫は大パニックだ。おそらく前代未聞に違いない。予定外の発進に整備士連中もオペレーターの誘導も混乱を声に出して表している。
私は急いでブリッジに通信を繋いだ。

「クルーゼ隊長! アデス艦長! アスランが!」
【何っ!? アスラン・ザラが奪取した機体でだと!? 呼び戻せ! すぐに帰艦命令を!!】

急いで通信を繋いだ先では、アデス艦長が驚きの叫びを上げている最中だった。

(ああ、遅かった…!)

【クルーゼ隊長…】
「隊長、アスランを呼び戻しますか?」

私は固い表情で兄様に聞いた。返答次第では、首に縄をつけてでも連れて帰る。

【行かせてやれ】
【隊長!?】
「クルーゼ隊長!」

アデス艦長の叫びと私の叫びはほぼ同時。それでも兄様は余裕の表情を崩さなかった。

【データの吸い出しは終わっている。返って面白いかもしれん。地球軍のモビルスーツ同士の戦いというのも…】

(兄様……絶対、余興程度にしか思ってないでしょ…! もぉ…仕方ないな…)

【アルテミスは、万が一に備えて待機しておいてくれ】
「……了解」

半ば不本意だけれど、兄様が言うなら仕方ない。私は必死に頬をふくらませないように努力して通信を切った。

(…多分、兄様にはバレてるだろうけど)

「……アスラン……帰ったら覚えておきなよ…!」

何も、黙って出撃することはないだろう。何か一言相談なり何なりあってもいいと思うのだ。
だが、アスランは何も言わずに行ってしまった。

「なんか…腹立つな…」

彼が、何かを思い悩んでいるのは知っていた。ラスティの事だけではなく、他の事についてだ。なにせ、眉間のシワがいつもの倍は刻まれていたのだから、相当だろう。
恐らく、アスランの悩みの原因は…

「…ストライクに殴りとばされて搭乗してた…少年だよね」

私の推測では、彼はコーディネイターで、カトウゼミで教授の手伝いをしていた。

「うーん…ちょっと待てよー…」

私はドリンク片手に冷静になって機体奪取の状況を思い出す。

アスランは、あの少年を見た途端、動きを止めていた。そのまま見つめあって、地球軍の士官に狙撃されてしまったことで後退を余儀なくされ機体に搭乗したのだ。

「何か……あるのかな。あの少年と」

今だって、あの最後のGを沈めに行くのに無理矢理ミゲル先輩たちについて行った。
あの機体に乗っていたのは地球軍の士官と、民間人と思わしきコーディネイター(仮)の少年。
ミゲル先輩の映像からして、どう考えても途中から乗り手が交代したとしか思えなかった。

そして、その乗り手が、少年だとして。
アスランはその事を確かめに出陣したのだとしたら…

(…少年とアスランは…知り合い……ってことになるよね? …少年がコーディネイターなら、あり得ることかな。でも、なんだって中立コロニーに? 偵察? …いや、それなら敵になったりしないか)

悶々と一人で考えていても、本人が出撃して居ない今、事の真意を確認することすらできない。作戦が終わったら兄様に報告しておいた方がいいだろう。

「ああ、面倒くさいなぁ…」


なんでもいいから、早く終わればいいのに。


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(聞いてよイザーク! アスランったら、勝手に出撃しちゃったんだよ!)
(何ぃ!!)
(帰ってきたらボコってもいいよね!?)
(当たり前だ! 俺も行くぞ!)
(いや、行けねぇよガモフで待機命令出てんじゃん)
(アルトも誘わないでくださいよ…)


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