◆【本編70話:お姫様も一緒に?】より
ギルに検診を受ける二人のシーンから
「…兄様が居ないなら…私は、この世に存在する理由すらない。だから、それは別にかまわないもの…」
やれやれ、といった動作でまたしてもため息を吐き出したギルは、机の引き出しをそっと開けて、ひとつのケースを取り出した。
何故か側面には、ドクロ印がついている。
「……ギル、本当にこの薬?」
「おや、間違えた。これは別の依頼で作ったものでね」
(あからさまにドクロマークついてますけど!? しかも中身も紫で毒々しいよ!)「何してんのギル!」
「仕事だよ」
「真顔で断言するな!!」
私が冷や汗をたらしながら思わず突っ込むと、ギルは何の痛手を受けた様子もなく飄々とデスクをあさっている。
「うーむ……どこに行ったかな。これでもないし…あれでもない…」
ぽいぽいと放り出される薬ケースたち。無造作に投げられているが、どれもこれも怪しいケースだ。
中身がまったく見えない迷彩柄のケースには、『開けるな危険』とか書いてあるし。
ファンションピンクみたいにドギツイケースは、半透明で、中で何かがうごめいていたりする。はっきりいって正視に堪えない。
「ちょっ……ギル……これ、なに!?」
「試作品だよ。ラウの薬のね」
(嘘だ!!)しれっと言い放つギルだが、試作品にバイオハザードなマークなんてつけるわけがない。
というか、このケース……乱暴に扱って割れたらどうしてくれる。
ちなみにこそっと兄様の様子を伺うと、口角を上げて楽しそうにギルを眺めていた。
そこにシュンッと自動ドアが開いて、まさかの人物が現れる。
「ギル、ケースならここに」
「おお、レイ! さすが私の自慢のレイだ。ありがとう」
ギルはなんでもないようにレイからケースを受け取ると、ラウにそのまま手渡す。
「さぁ、これが例の薬だよ。ああ、レイと例をかけたわけじゃないからね。はっはっは!」
(どこの親父ギャグ!?)自分のジョークに自分で笑う。その壮絶な事態に私が何も反応できないでいると、隣の気配が動いた。
「はっはっはっは! 本当に君は面白い男だなギルバート!」
「そうだろう! 今のはとっておきのネタだよ! はっはっはっは!」
そうやって笑い続ける二人を見て、私は認識を改めた方がいいんじゃないかと本気で悩んだ。
そのことで、またもやレイが乱入していることに気づくのが遅れたのは、言うまでもない。
CUT!
(ねぇ、レイ……私もあの遺伝子…混ざってんのかな…)
(アーティが混ざっているなら俺もだ。……まぁ、なるようになるさ)
(レイ、お願いだから年とらないで。ギルを脅迫してでも普通の薬つくらせるから、ちゃんと飲んでね)
(……気にするな、俺は気に…しない)
(ちょっと間があったよ!? 絶対気にしてるでしょ! 無理しないの!)