◆【本編61話:人の話をきけぇぇ!!】より
本編始め、イザークがフレイを問い詰めているシーンから
パイロットでもCICでもない、ましてや整備士でもない彼女がヴェサリウスでする事はなにかと聞けば、兄様の身の回りの世話だとか。
聞けば聞くほど腹立たしいけれど、何か仕事をさせようにも『使えない』らしいので、仕方なかった。
そんな彼女が行けそうな場所など、限られている。探す身としては、楽かもしれないが。
そうして私が食堂に顔を出した時、懐かしいヒステリックな怒鳴り声が聞こえてきた。
(この声は…)「貴様、一体何の目的で隊長の傍にいる!? どういうつもりだ!」
「私はっ…私は……」
中を覗くと案の定、イザークがフレイに向かって詰問しているところだった。兄様の勘は、外れない。
(…面倒くさいな…よりによってイザークなんて…)私がそう思いながらイザークの背後を取ろうとして動いていると、俯いていたフレイがバッと顔を上げてイザークをにらみつけた。
にらみつけられたイザークは、台本にないその動作に一瞬だけ眉を寄せる。
「私だって好きでこんなトコに居るんじゃないわよ! だいたいこんなダッサイ緑の制服なんて誰が好きで着るわけ!? 私だって赤服がいいって言ったのにあのクルーゼって人が駄目だなんていうから仕方なく着てあげてるんじゃない! だいたい、私のパーフェクトボディがこんなダッサイ服で生かされると思うの!? 信じられない! 文句言いたいのはこっちよ!」
(もぉ、充分に発言なされてますよ、フレイさん…)キンキンと展開されるマシンガントーク。その声をモロに受けたイザークは怒りに拳と肩を震わせて噴火5秒前の状態だった。
(あー……来る来る…噴火したら何投げるかわかんないからなー…)そして私は周りのスタッフやキャストに手で合図をして、そっと周りから移動させる。
(はい、5、4、3、2、1…)「黙って聞いていれば貴様ぁ〜……何を言い出すんだぁぁ!」
(はい、キタ───)ドガァンと食堂のテーブルが派手な音を立てる。イザークが思い切り拳を打ちつけたからだ。若干へこんでいるのは気のせいではなく、本当に損傷している。驚きよりも呆れが先にたった。
(……投げられるものは、避難させとこうかなぁ…)なんて思いながら、ひそかに投げられそうな物は彼の行動範囲から避難させておく。
イザークの噴火は、起こす前に止めると余計に後が怖いのだ。とりあえず吐き出させるだけ吐き出させる方が得策。……と、ディアッカが言っていた。どうせNGなのだからこの際好きに吼えるといい。
「緑がいやだと!? 俺たちと同じ赤がいいだと!? 何もできないくせに何を偉そうに! 赤が着たければ努力しろぉ!! 俺だって好きで二番やってんじゃないんだぞ!」
そう思って放置していたけれど、イザークの怒りの矛先はだんだんズレてきていた。
「アスランの奴がいけすかない顔で涼しげに一番をかっさらっていきやがるからなぁ!! 俺は!! 仕方なく!!」
「ちょっ、ストップ!イザーク。なんか怒りの論点ズレてる」
「うるさい!! アスラァァン!! 貴様、今すぐ俺と勝負しろぉ!!」
私がイザークの肩をつかんでストップをかけると、イザークはその手を振り払って、あさっての方向を向いた。
その方向には、腕を組んで芝居を見学していたアスランがいる。
「その前に芝居をしろよ! 何やってんだ、二人とも!」
「!!」
アスランの冷静なその言葉で、ようやくイザークは我に返ってくれた。
CUT!
(とりあえず、キラぁ……フレイのガス抜きお願い)
(えっ、僕!?)
(だって今、他に何とかできそうなキャストいないんだもん〜! イザークはアスランと私で何とかするから!)
(わ、わかった…って、わぁぁぁフレイ!? 飛びつくの止めて!)
(キラぁ! 私もう耐えられない!!)
(え!? ちょっ、待ってどこ行くのフレイ!! すぐに撮影しなおすから外に行くのは止めてよ!)
本日の被害者。たまたま見学に来ていたアスランとキラの幼馴染コンビ。