第2章 Gシリーズ奪取作戦
11:「自業自得だ!!」
ようやく機体を奪取した私とアスランが工場の外に出ると、そこにはジンに乗ったミゲル先輩が待っていてくれた。

【アスラン!】
【ラスティは失敗だ。向こうの機体には地球軍の士官が乗っている】
【何!?】
「ごめん、ミゲル先輩…」
【ちぃ!】

そう舌打ちをすると、ミゲル先輩はビーム弾で奪取に失敗した機体の足下を狙った。足下がぐらついた機体は、大きく体を揺らして体勢を崩す。

【なら、あの機体は俺が捕獲する。お前たちはソレを持って、先に離脱しろ!】

ミゲル先輩はそう言うと、正面からおぼつかない足取りで歩いて来る機体を睨みつけ、ジンのサーベルを取り出した。

【アルト、調整は?】
「ある程度なら終わってる…」
【…なら、ちょっと待っててくれ】
「う…ん」

そんな事を言っている間にも、ミゲル先輩は奪取しそこねた機体に向かって猛攻撃をしかけていた。流石は黄昏の魔弾といったところ。攻撃に隙はない。だが、振りかぶったサーベルを振り降ろす瞬間、目の前の機体は灰色から鮮やかな配色へと激変した。

【なにぃぃ!?】

その変化を瞬時に感じ取ったミゲル先輩は、体勢を立て直す事にしたのか、その場から飛び退いた。

【こいつぅ……どうなってる!? こいつの装甲は!?】
【こいつらは、フェイズシフト装甲を持つんだ】
「展開されたら、ジンのサーベルなんかは通用しないみたいですよ」

そして私たちもフェイズシフト装甲を展開させる。
同時に、地上から放たれたミサイルは即座に気づいたアスランが撃墜してくれた。

【アスラン、アルト! お前たちも早く離脱しろ! いつまでもうろうろするな!】
「ミゲル先輩…!」
【行け!】
「………了解」

私は力なくそう返事すると、アスランに視線で促す。
彼は何かを気にするようにして暫くその宙域に留まっていたけれど、ようやく機体をヴェサリウスに向けて進め出した。

【…………】
「…………」

お互い暫し無言で機体を走らせていたが、なんだか気まずくなってアスランの乗る機体へと視線を走らせる。
なんと言葉をかけていいのか迷っている間に、私は段々と不安を覚えていった。

(アスラン……気づいてないのかなぁ……)

アスランの乗る機体の進行方向を再度確認してから、私は意を決して彼に通信を繋ぐ。
もはや迷っている場合ではなくなってきたからだ。

「アスラン……アスラン!」
【え? あ……何だ?】

(いやいや、何だ?≠カゃないって…)

「……そのまま行くと、壁に当たるよ」
【え? あ!!】
「はー……」

私は頭を抱えたくなってしまった。

(何考えてんのか知らないけどさ……何にもしてないのに機体を損傷させないでよアスラン…)

ここにイザークが居たら、確実にキャンキャン吠えまくっていたに違いない。アスランに絡みたくて仕方ないようだから、それはもう盛大に罵ってくれるだろう。
私はそんな無駄な体力、使いたくもないが。

「しっかりしてよ…」
【すまない…】
「……イザークたちは?」
【先に向かっているはずだ】
「そ……なら、無事にGを奪取できたわけだ」
【ああ……そのはず……】

そんな会話をしながらも、私は手を止めなかった。現状の報告を、いち早く隊長である兄様に伝えなければならなかったからだ。

【アルト?】
「んー?」
【さっきから何を見てるんだ?】
「隊長への緊急報告。機体奪取失敗したの言っておかないとね」
【…そうか…】
「うん」

(ホントは、キミがする仕事なんだよアスラン)

そう喉から出かかったけれど、飲み込んだ。小隊の隊長だったのは、アスランのはずだ。だから報告義務はアスランにあるのだが……何となく、アスランの様子がおかしいと感じて私が先に入電しておく事にした。
そして今度こそ操縦に専念する。一刻も早く、ヴェサリウスに機体を持ち帰らねば、という気持ちだった。





暫くすると、ヘリオポリスの外に出る。この宙域では現在も戦闘中なので、できるだけ回避しつつヴェサリウスに無事に戻った。

「ただいま帰投しました」
「あれ?」

帰投報告と任務完了の挨拶にブリッジへ行くと、アデス艦長しかいない。(いや、他にもオペレーターとか居るけど)

「アデス艦長、クルーゼ隊長は?」
「隊長は最後の機体を回収しに、自ら出撃した」
「「ええ!?」」

私とアスランは驚きを隠せなかった。隊長自らが出陣など、どういう事なのだろうか。
私たちの驚きは予想通りだと言わんばかりに、アデス艦長は重いため息を吐き出しながらも説明してくれる。

「ミゲルが機体を失った。エマージェンシーコールがあったのだ」
「ミゲル先輩が!?」
「あの……最後の機体に……ですか?」
「どうやら、そのようだ」

(うっそだ。だって最後に見た時は、よろよろと赤ちゃん歩きか! って突っ込み入れたいくらい鈍かったのに。いくらフェイズシフト装甲があるからって……それはないでしょう?)

「…………」
「今後、それぞれ奪取した機体が君たちの搭乗機になる。整備班と連携して機体の整備をしておきなさい」
「「…了解」」

他にも色々と聞きたい事があったのだけれど、艦長の手を煩わせるわけにはいかない私たちは、短く了承の返事と共に敬礼をしてブリッジを後にする。
そうして無言で廊下を歩き格納庫に向かっていたが、私の方から耐えきれなくなったようにしてその沈黙を破った。

「…ね、アスラン?」
「何だ?」
「……イザークたちに……なんて言おうか……」

(ラスティが、失敗したって)

言葉には出さないけれどアスランにも伝わったようで、彼は難しい顔をして押し黙ってしまった。

ラスティの失敗。その結果は殉職だ。やはり二階級特進とかになってしまうのだろうか。いや、特進などはどうでもいい。問題は、その事を知らない他の同期にどう話をするか…だ。やはり切り出しにくいものがある。

「…俺が…言うよ」

黙ったままだったアスランは、視線を床に固定しながら立ち止まる。同じようにして立ち止まった私の頭に、アスランの手が伸びてきた。
そのまま優しく頭を撫でてくる手を振り払うこともできず、私も同じく視線を床に固定して、うつむき加減で小さく言葉を吐き出す。

「…………ありがと」

またもや沈黙の時間がやって来る。
どういう言葉を交わせばいいのかわからなかった私には、アスランの優しい手つきに少しだけだが涙ぐんでしまった。まるで「何も心配するな」と言いたげで、忘れるように努めていたラスティの最期を思い出してしまう。

「そろそろ行こう…」
「うん」

最後にポンポンと軽く頭を叩くアスランの合図で、私は顔を上げる。するとアスランは私の方を見ないようにして歩き出していた。彼なりの配慮なのだろう。
私はそっと目尻の涙を拭うと、アスランの後ろを置いて行かれないようにして歩き出す。
今は、泣いている場合ではないのだ。それでも色々とラスティの事を考えていると、あっと言う間に格納庫についてしまった。

「おかえりなさい!」
「……ただいま…」

ニコルが柔らかく微笑みながら私たちに駆け寄ってくる。イザークやディアッカもゆっくり歩きながら近づいてきていて、私は何となく視線が合わせづらくなり下を向きがちになった。

「ラスティは、どうしたんです?」
「ああ…そのことなんだが…」

すぐにラスティが居ないことに気づいたニコルが問いかけてきたが、優しいアスランは私に説明をさせる事なく、彼らに事の経緯を話してくれる。ニコルはもちろん、ディアッカやイザークは目を見開いて驚いていた。

(当たり前……だよね…)

アカデミーからずっと一緒だった仲間を失ったのだ。確かに大がかりな作戦だったと言えるが、まさかこんな所で失敗してしまうとは思ってもいなかったので驚きを隠せない。
ラスティが倒れた瞬間を見ていた私にだって、信じられないくらいなのだ。
あの笑顔が、もう二度と見れないなんて。

お互いに顔を見合わせ、無言の時間が続く。
その沈黙を最初に破ったのは、強がったようなイザークの声だった。

「ふん……! ナチュラルなんかに遅れをとるアイツが悪い……自業自得だ!!」
「イザーク!!」

その言葉に、普段は温厚なニコルが咎めるように声を荒げてイザークの名を呼び、キッと強く睨みつける。だが、イザークは意に介さなかった。

「アイツが弱かったんだよ。俺ならそんな事しねぇ」
「ディアッカまで!?」

ディアッカまでもが悪態をつくと、二人はさっさと格納庫から姿を消してしまった。
私たちは去りゆく二人を見守るしかできない。
本当は彼らも動揺しているのだ。ただ、素直ではないので言葉に現れないだけ…だと思う。
私には、どちらの反応が正しいか、など判断はつけられないが、恐らくどちらも正しいのだろう。
そして気がつくと、未だ憤慨しているニコルに向かって、今度は私の方から声をかけていた。

「……ニコル……ほんと、ごめん」
「貴女が謝る必要などないですよ。アスランも、自分を責めないでください」
「……ああ……」

振り返ったニコルが、穏やかな声色で慰めてくれる。一番辛いのは、あの時すぐ隣に居たアスランだろうと言いたげだった。
それから何とも言いがたい沈黙が、さらに続く。

「じゃ……整備あるから…」

そして私は、ついに奪取した機体に逃げてしまった。
調整をしなくてはならないのは、本当の事だ。都合の良い口実があって助かった。

(ニコルやアスランには、ああ言ったけど…実は、半分くらいイザークたちの言い分もわかる……って、言い出しにくいな。この雰囲気。でも……)

ラスティが居なくなって、悲しい気持ちは変わらない。悔しさと悲しさが同時にやってきて、さらに複雑な感情が入り交じってしまい、私の中はパニック寸前だ。
それをさせまいと、冷静で冷徹な私が静かにやってくるのを感じてしまう。

(…やっぱ…私って、どこか冷めてるのかな…)

機体に乗り込んだ私は、キーボードを取り出してOSを本格的に書き換え始めた。
だが、ちらちらと頭の中をラスティの思い出がフラッシュバックしていく。おかげで集中力が持続してくれなかった。

「ナチュラルなんかに、コーディネイターが負けちゃダメだよ……ラスティ……」

私は手を止めてそう呟くと、深呼吸をして頭の邪念を振り払っていく。


今は、戦争中。しかも、作戦は未だ続行中。
目の前の事だけに、集中しろ。


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ピピッ!

(わ!)
(すまない!! つい、そっちまで弄ってしまった)
(いいえ〜…)

(…アスラン、無意識に違う端末に繋いじゃうってどうなの…?)
(無意識のアスランは、意識がある時よりも強いですよね)
(…それ、イザークには内緒にしてた方がいいね)


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