◆【本編52話:正直に話したのにー】より
機体性能実験を終えて、議長に呼び出されるシーンから。
【クルーゼの奴から報告が来た。お前もすぐに私の元へ戻れ】
「え!? 復活したんですか? 通信!」
【クルーゼがカーペンタリアに帰還したのだ】
「今すぐ行きます!!」
【じっ…】
ぶちっ
議長が何か言おうとしていたのを遮って、私は強制的に通信をぶった切る。後で怒られるかもしれないけれど、今はそんな事どうでもよかった。
(…よかった……やっぱり兄様、無事だったんだ…!!)私は焦る気持ちを抑えて、すぐさまエクリプスとのリンクを遮断すると、普通の機体性能に戻す。
「ルナモード解除……っと………あれ? このボタンであってたっけ……? いいや。押しちゃえ」
ぽちっ
ズドォォォン!!!
盛大な破壊音と共に粉塵が舞った。
私は数秒の間、コックピットの中で全ての動作がフリーズする。
「……やっちゃった……」
目の前に広がるのは、エクリプスが装備しているビームで、無残にも破壊されたコントロールルーム。
実験室は、私一人という設定で撮影しているシーンなので、誰も居なくて不幸中の幸いといったところか。
「……どうしよ……?」
イザークに怒られちゃう。そう心配していた矢先。
「アーティ!!」
「きたっ!!」
私はコックピットのロックを厳重にかけて中に立てこもった。通信も全て強制遮断だ。いわゆる篭城というやつである。
こんな事をしても、ただの時間の無駄だとわかっているけれど、今はとりあえず出て行きたくない。もう少しイザークの怒りが沈下してから…
「アーティ!! アーティ!! くっそ……救護班!! コックピットの解除を急げ!!」
「……え?」
エクリプスが拾う音声が、コックピット内部に響く。
なんだか怒っている…というより、焦っている感じのするイザークの声に、私は小さな違和感を覚えた。
「……静かになった…?」
コックピットの扉を、私の名前を呼びながらガンガン叩いていた音が止んだ。
私はそこで、ひとつの考えに至ってしまう。
「……もしかして、イザーク……あの爆破、私がしたって……気づいてない?」
ついでに、その爆破に私が巻き込まれ、なんらかの怪我を負ってコックピットに閉じ込められたとでも勘違いしているんじゃないだろうか。
「……やばい。なんか知らないけど、やばい」
私はあわててロックを開錠しようとして、失敗した。
なぜなら、私が開錠する前に、イザークの手によって強制開錠されたからだ。
「アーティ!!」
「……や、やぁ。イザーク」
どうしようもないので、とりあえず笑顔で挨拶してみる。
「怪我は!? 無事か!!」
「え……うん」
破壊したのは私だ。怪我を負うはずがない。
「そうか……よかった……」
心底安心しているイザークを見て、私は心の中で必死に土下座をした。
(ほんっと、ごめんイザーク……!)
「なにやら、実験室が事故で爆破されたらしい。お前も早く移動しろ、ここは危ない」
「え、事故?」
「気づいてないのか!? コントロールルームが爆発したんだ!」
「……えっと……」
「ぐずぐずするな! 出るぞ!」
そうして私は、イザークに引っ張られながら、撮影セットの外に設置された待機室へと強制連行されたのだった。
CUT!
(スタッフのミスか…点検を怠るからだ。馬鹿共め!)
(あ、あの、イザ…)
(俺がすぐにかけつけたから良いものの……くそ!! あいつら吊るし上げねば気がすまん!!)
(いいいいいいざーく!! やめよう! 仲良くしよう!! っていうか、気にしないでぇぇぇ!!)