第2章 Gシリーズ奪取作戦
10:「どーすんの、コレ」
第二ミッション開始。
その合図となった爆発は、耳をつんざくような激しい音と共にやって来た。

「……っ〜……」

(覚悟はしてたけど、すんごい音…)

まだ耳の奥で、キィンと音がしている気がする。だが、ここで立ち止まっている暇などないのだ。この混乱に乗じてGを奪取するのが目的なのだから。

「確か、モニターで見た時は…」

Gは戦艦に搬送されそうになっていたはずだ。
工場の外にある機体は誰かに任せるとして、問題は工場内にすでに搬送されている機体。確か三体くらいはあったはずで…戦艦に格納されてしまったら簡単には手が出しにくくなる。私は迷わず、工場内に向けて移動用アーマーの出力を上げた。


ズダダダッ!
カランッ………ドォォォンッ!!


激しい銃撃戦の音が聞こえるあたり、どうやら間に合ったらしい。私は二階に位置する廊下を走っていたので、一階に回り込む階段を探してさらに移動用アーマーの出力を上げた。
その瞬間…

「お父様の裏切り者ぉー!!」

(え!?)

今通り過ぎた区画から、突如として絶叫している女の子の声が聞こえてくる。

(お父様の裏切り者=c…?? お父様って、まさか…)

妙な予感がして、通り過ぎたばかりの区画に戻った。
私の予想は大当たりで…

「冗談じゃないよ! 泣いてちゃダメだ! ほら、走って!」

戻った瞬間に誰かを叱咤する声が聞こえてくる。
その声が案外近い事に気がついて、私は慌てて物陰に隠れた。

「…気づくなよ…」

ギュッと懐の銃を握りしめ、緊張した面もちで走ってくる二人分の足音をやり過ごす。幸い爆風のおかげで気づかれることなく足音は去っていったが、私は見逃さなかった。
今、目の前を通り過ぎたのは、ゼミで見かけたヤマト≠ニいう少年とオーブの仔獅子。

「…泣いたって現状変わらないのに…やっぱお姫様……か」

どうやらお姫様は半べそをかいていたらしい。ヤマト少年≠フ方がよほど肝が据わっている。
二人が完全に通り過ぎるのを見送ると、私は急いで外に飛び出した。
一階への階段を探している間に、任務に参加しそこねたら事だ。

(…ただでさえ、私ってば迷子体質だもんねー…いくら任務の時には何故か迷子率が下がるってわかってても…)

無駄なリスクは避けるべきだろう。私は大人しく二階から直接合流しようと、銃撃戦が繰り広げられている部屋へと駆け込む。そこは、まさしく戦場≠セった。
そっと階下へ視線を向けると、目的の機体、Gシリーズが横たわっている。
それを確認した私は、タラップから援護射撃を繰り出しつつ、辺りを見回して潜入しているはずのザフトレッドを探した。

(あ、居た居た。赤いの)

入り口近く。二人のザフトレッドが応戦しつつ、徐々にGに近づいて行くのが見えた。バイザーで顔が隠れて誰かわからないけれど、身長的にラスティと……アスランあたりだろう。

(早く合流しないと……えぇい、面倒くさい!)

タラップを駆け下りる動作がもどかしくなり、私は勢いをつけてそのまま飛び降りた。
その瞬間……

「ラスティー!!」
「え?」

着地の衝撃で地面を見据えていた私は、一瞬、反応が遅れた。顔を上げて正面を向くと、赤いスーツを着込んだ人が倒れている。

(まさか………まさかっ!!!?)

「うおぉぉぉ!!」

雄叫びを上げている声は、アスランのものだ。彼は一気に銃で応戦しつつ物陰から進み出していた。

「まさか…そんなっ……ラスティ!?」

私はアスランとは反対の方向からラスティと思わしき人物に駆け寄る。もちろん、銃弾の幕をくぐり抜けて。
急いで物陰に赤いスーツの人物を引きずってバイザーを外すと、見開いた瞳と目があう。

「う…そ……」

この嫌な予感だけは当たって欲しくないと願っていたのに、当たってしまった。
手にまとわりつくのは、ラスティの体から流れ出た……その着ているスーツよりも濃い緋。

「ちぃ!!」
「アスラン!?」

苛立たしげに吐き捨てられた言葉を聞いて反射的に視線を上げると、アスランが銃を投げ捨てているところだった。
どうやら弾が切れたらしい。アスランは武器をナイフに持ち変えて地球軍の士官の元へと走って行く。

(戸惑っている……場合じゃない!)

今も続く銃撃戦を頭上に感じながら、私はラスティの目をそっと閉ざし、静かにその場を離れた。
ラスティが失敗した以上、私とアスランだけでも機体を持ち帰らなければならない。

(アスランなら、大丈夫。ナイフ戦だって、彼は優秀な成績だったもの)

自分に言い聞かせるようにして強制的に心を静め、私は走り出す。
まず目の前にあるGに搭乗する事が先決だ。

「ラスティの分の機体は…」

三体ある機体をチラリと確認して、私は少しだけ迷った。私とアスラン。二人で二体。
どうしても一体を運ぶことができないのだ。
最終手段は、残った機体をアスランと二人で協力して運ぶということだが…

(どうしよう。ここで私の力を使えば…そんなことしなくても、なんとかなるかもしれないけど……でも……)


『アーティ、できるならその力、人前で見せず私が許可した時だけ使用しなさい』


不意に、兄様の言葉が脳裏をよぎった。

(今、兄様に指示を仰ぐわけにはいかないよね。何せ、通信するしかないから絶対に人に聞かれちゃうし……とりあえず…)

そんな事を考えながらも、私は適当に選んだ機体に乗り込み、電源を入れて滑らかにキーボードを操作していく。
迷う時間があるなら、まず一体でも多くの機体を奪取しなければ。

「キャリンブレート完了……よし…」

私が乗った機体に電力が通い出す。
操縦管を握り、機体を起こしながら拘束していた機材は、全て力ずくで外した。

「……アスラン?」

これで奪取はほぼ完了したに近い。
私は安堵のため息をこぼすと、アスランを探してモニターに視線を走らせた。

「まだなの?」

彼はまだ機体に搭乗していない。モニターの端では、アスランがナイフを握ったまま立ち止まっていた。
不自然な静止だ。
そして次の瞬間には、アスランが尻餅をついている士官に狙撃されていた。

「えぇ!?」

まさか仕損じているなど思わなかった私は、驚きの声を隠さずに漏らしてしまう。

(うっそ、アスランが接近戦で勝てないって!? マジで!? あり得ない…どうしたんだろ…)

アスランは飛んでくる銃弾を巧みにかわしながら後退し、傍らのGに乗り込んでいる。立ち上がった士官は、呆然と突っ立っていた例のヤマト少年を殴りとばして一緒にGに乗り込んでいた。

(っていうか、なんで少年がここにいるの!? 殴りとばされてるし…しかも、ラスティが奪取するはずだった機体に乗り込んじゃって……あー、やっかいな事になった…)

私は額に手をあて、思わず呻く。

「うー…最悪…どーすんの、コレ…」

ラスティが奪取するはずだった機体、できれば持ち帰りたかったけれど、地球軍の士官に先を越されてしまった。
これは、完全にこちらのミスだ。

【アルト!】
「うぁ!! はい!! ア、アスラン!? 乗れたの!?」
【ああ。すぐに出るぞ、あの機体…奪われたままにしておけない】
「う、うん…」

二人とも、ラスティについて語らなかった。
チラリと見てみると、地球軍の士官が乗り込んだ機体も体を起こしている。

【行くぞ、アルト!】
「……了解」

アスランもモニター越しにその機体を見ていて何か考え込んでいたけれど、かぶりを振って思考を振り払っているようだった。


この機体…何がなんでも無事に兄様の元へ届けてみせる。


NEXT→

(イザークたちが帰投したようです)
(来たか。ならば一足先に拝ませてもらうとするかな)
(……隊長、今は作戦中ですよ……)
(一緒に来るかね? アデス)
(……遠慮いたします……)


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