第2章 Gシリーズ奪取作戦
09:「Present for you」
その部屋は、人気のない奥まった廊下を進んだ先にある。書庫か倉庫か判別がつきにくい、やたらと埃臭い部屋に、私は少しだけ顔をしかめた。
どうやら、ここなら会話も漏れないようになっているらしい。

「Gの存在は軍の重要機密。君はいったい何者だ」

遠慮のカケラもない台詞を、部屋に入るなり教授は口にしたことでもそれは明白だった。

「軍の関係者だと思わないんですか?」

私はあえてバカにしたように言い放つ。本音をさらけ出すのを狙ってのことだ。

「その写真は隠し撮りだろう。軍関係者がそのような事をわざわざする必要もない」

(へぇ、ちょっとは頭の回転早いんだね。でも、甘いな…)

ふっと、口元にかすかな笑みを浮かべて私は教授を見た。

「同じ軍関係者でも、それは地球軍≠ナしょう? もう一つあるのを忘れていらっしゃいませんか?」
「もう……まさか……キミは……」
「……ザフト」

ガタンッと音を立ててカトウ教授は後ずさった。
目に見えての動揺。頭の回転は速いくせに、突発的事項には弱いようだ。

「君……君は……」
「わざわざ私がここに来た理由、コーディネイターなら想像できません?」
「……私はコーディネイターなどではない」
「…………」

(あれ?? 兄様のハナシじゃ、このオッサン、コーディネイターだって……んん?)

私は首を軽くひねった。
兄様の話と微妙に違う。いや、正確には兄様にもたらされた報告と…だが。

「私は、コーディネイターなどではない。残念だが、ザフトに知られた以上、君を無傷で帰すというわけにはいかなくなった」

そう言いながら、カトウ教授の腕がススッと引き出しに伸びる。
それを見た私は、条件反射のように隠し持っていたサイレンサー付きの銃を彼に向けて撃った。
チュンッと小さな音が小さな部屋に響く。

「そうですね。私も予想外の答えで、残念ながら当初の予定を変更しなければならないようです。……無傷で帰すわけにいかないのは、アナタの方ですよ」

ニッコリと営業用スマイルを向けて、私は銃口を固定した。

(仕方ないな。…これは調査部の怠慢だね。素敵な招待状を出す前に、プレゼントの方を差し上げることになったじゃないか)

「くっ!」

引き出しに向かって伸ばされた腕を正確に撃ち抜くと、今度は狙いを眉間に変更する。

「さて、でもその前にちょっと聞きたい事があるんですよねー」
「貴様ら化け物に話す事などない!」
「ああ、口の利き方に気をつけた方がよろしいですよ。私は気にしませんけど、他の連中だったら今の発言でアナタ、1秒後には口も利けなくなっちゃいますね?」
「………!」

押し黙った教授を見て、私は満足気に笑った。どちらが優位か、わかっていただけたようだ。

「Gの開発のOS。あれはナチュラルが作成しているようですけど、どう考えてもプラントの技術が盛り込まれているようです。それに、人型機動兵器を、いったいどこの誰が注文しているんですか?」

私の質問は、簡単な事だと思う。
OS開発技術に携わった者と、発注者は誰か。その二点だ。
だが、カトウ教授は押し黙ったまま、口を開く気配すらない。

「……だんまりを貫くのも構いませんが、早くした方がいいですよ?」
「……話した所で死ぬのなら、このまま黙って死を選ぶさ」
「あ、そう。別にいいですけど…アナタが秘密を守ったところで、いずれ露見しますよ。今、ザフト軍はヘリオポリスの領域に居ますから」
「何!?」
「新型機動兵器。ナチュラルの腐ったバカ共の手に渡る前にいただいていきます」
「そんな事をさせるか!」

ぼろっちい机に張り付けていた体を浮き上がらせて、彼は私に襲いかかって来た。
その行動に、私は内心でため息を吐き出す。

(正規の軍人相手にバカじゃないの? コーディネイターだって、そう楽に勝てる相手じゃないのよ? 私。アカデミー総合成績三位を舐めんな。ナチュラルごときが…)

私は銃の狙いを一度下げて、彼の足を撃ち抜いた。
そしてそのままの勢いで突進して倒れてきた教授を見据え、右に体をひねる。
同時に膝を突き出して腹に一蹴。続いてカクンと衝撃で倒れた後頭部に結構な力を入れて手刀を叩き込んだ。

「ぐっ!!」
「私としては、さっき話してくれていた方が楽だったと思いますけど。お気持ちは変わりませんか?」
「……だ……誰が……」
「そう、なら……まぁ、仕方ないですね?」


パシュッ


「Present for you」

さっきまで息をしていた生き物は、永遠に動く事ができなくなった。
初めて人を殺したというのに、私は何も感じない。訓練のおかげか、はたまた生来の気質か。どちらでもよかった。今の私は、任務を遂行することだけが目的なのだ。

床に倒れている教授に一瞥を送ると、私はそっと銃をしまって腕時計に向かって話しかける。

「こちら…」

そして言いかけた言葉を止め、腕を下げた。

「……止めとこ。もうちょっと何か手土産ないと、妙に悔しいな」

兄様の手土産にする予定の物は、私の場合二つ。
Gの開発の携わったであろう教授と、G兵器。
教授は、ダメなようならば仕方ないという事だったが、あまりにお粗末な報告になりそうだ。
それが何となく悔しくなった。せっかく兄様に期待をかけてもらっていたというのに。

「確か、このモルゲンレーテって工場、オーブのだよねー」

本格的な作戦開始まで、まだもう少し時間があるはず。それまでに何か……そう、兄様に手土産になりそうなネタがないかどうか、探す事にした。

「なんか、パソコンとか端末とか無いかなー」

適当にガサゴソあたりを漁っていると、本棚に偽装されたドアを発見する。

「お、当たりだね?」

やはり、ここはカトウ教授の私室だったようだ。扉の鍵を銃で壊して中に入る。
電子ロックなら簡単に開けられるのだが、これは原始的な、鍵穴に鍵を差し込むタイプだった。
今時、こんな進んだ技術に囲まれている中に原始的なロックを使用するとなると何かがあると期待させてくれる。その期待通り、中に入ると部屋中に配置された大量のモニターがあった。

「ふーん、ここならカレッジ内も、工場内も見れるって事ね。あのオッサンも抜け目ないな。それとも…」

(これも、仕事のうちってわけ?)

「何でもいいや」と適当に画面に眼を配ると、そこに思わぬ収穫物を見つけた。

(帽子と体型のわからない服で隠されているけど、この子供は…)

「オーブの仔獅子ちゃん……こんなトコで一人でお散歩かしら?」

カトウゼミの前でうろうろしているところを、中に招き入れられて待機しだした。恐らく、私がさっきまで会っていた、この部屋の主に会いに来ているんだろう。残念ながら二度と会う事はできないと思う。本体はすでに事切れているのだから。

「お供も連れないで何してんだか……バカなお姫様だねぇ」


ピピッ


誰も見ていないので嘲笑する口元を隠さずにいると、腕時計から作戦開始の合図がした。
私の任務の成否に関わらず、G奪取は時間通りに行われる予定になっている。
今、この瞬間からアスランやイザークたちが静かにヘリオポリスに潜入する時刻だった。さすがに、そろそろ引き上げた方がよさそうだ。

「ん??」

時計を眺めていた視線を、最後にもう一度だけモニターに軽く走らせる。すると、オーブの仔獅子が居座っている所に、新たな訪問者が現れたのが見えた。さっきのメガネが何やら渡しているけれど…

「ああ…もしかして、あれがさっき言ってたヤマト≠チて子かな?」

目を凝らして観察していると、やはり間違いなかった。彼は例のディスクをメガネから手渡され、嫌そうな顔をしながらも鞄にしまっている最中。

(ふーん、彼がアレを担当してるわけね)

教授がコーディネイターではないとなると、やはり起こる疑問はただ一つだ。誰がプログラムの開発をしているのか。

(……中立コロニーだから、コーディネイターも普通に通ってる……よね。もしかしたら、彼はコーディネイター…なのかな?)

注意深く観察していると、彼の瞳の色は紫。私と同じ色だ。紫なんて瞳の色、ナチュラルには珍しいだろう。おそらく、彼がコーディネイターであるというのは間違いではないはずなのだが。

(うーん…でも、確証はない…か…)

カトウ教授は「ロボット工学の教授」という立場を利用して、何も知らないゼミの生徒にプログラムの解析なり、開発なりをさせていたのだろうというのが私の推測。
…何も知らないかどうかは判別のしようがないが。

(まぁ、いいや。これで兄様に報告できるし…欲を言えば彼と話をしてみたいんだけど…もう時間切れだね…)

私は彼の容姿を頭に叩き込むと、かぶっていたわずらわしいカツラを脱ぎ捨て、その場を静かに去った。部屋を出る直前に、腕時計からアスランの声が聞こえる。


第一ミッション完了。六百秒後に第二ミッションに移行する


「後、十分…考えると短いよねぇ……」

爆破予定地は頭に叩き込んでいるけれど、誘爆という事も充分に有り得る。
私は急いで他のメンバーに合流すべく移動していた。
移動用アーマーを素早く着用して、密かにカレッジの外から工場内に潜入する。


「ミッション・スタート」


私の第一任務は終わった。


NEXT→

(アルトは無事でしょうか…)
(ふん、奴なら殺しても死なん。そのうち現れるだろ)
(そんな事言って…実はイザーク、G探すフリしてアルトの事探してんじゃん?)
(うるさい! ラスティ! 無駄口叩いてないで、さっさとGを探せ!!)


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