騙されないわ

スマホを開けばジンから場所と時間だけが記載されたメールが入っていた



「呼び出すのはいいけれどせめてその理由をメールで教えてくれない?」




不満をぶつけるも当の本人は知らん顔
…改める気は無いらしい



「それで、今からどこへ?」

「キールの監視だ、今日奴が赤井秀一を殺す」




来葉峠でな、笑みを浮かべるジンに心の中で舌打ちをする


そう、彼女はFBIの元から組織へと戻ってきた
私はすっかりあのまま姿をくらませるとばかり思っていたけど…
彼女を疑う人物が組織に、それも幹部にいる今戻ってくることが得策ではないことくらい彼女が1番わかっているだろうに。



「…それはまた急な話ね」



水無怜奈と赤井秀一は既に繋がっているから何か策を練って来るだろうけど

それでもジンとウォッカ、そしてアリスが監視しているんだから危険なことに変わりはない。


もちろん、私はCIAやFBI側の作戦の邪魔をするつもりなんて無いし何か見ても報告する気もない
けれどあちら側の作戦が乱雑で監視である2人にバレるような事があれば庇いやしないけど。




「キールが戻ってきたことは知っているか」

「ベルモットから聞いたわ
本当にFBIに囲われていたんでしょう?それを奪還しに行ったって…」




なるほど、一度FBIに渡った彼女がFBIの仲間になっているかもしれないとジンはそう疑っているのね
だから、キールにわざわざ赤井秀一を殺させてその心がどこにあるのかを確かめる、と。

…とってもジンらしいやり方だと思うわ





「上手くいくといいわね」

「当たり前だ、失敗は許されねぇぜ」










人気のない来葉峠のカーブの途中

キールの愛車シトロエンの向かいに止まったのは、ライ…赤井秀一の愛車である黒いシボレー

黒い服を着た2人は辺りの闇に上手く馴染んでいる



「〈それで?私が一人で来たって確証は得れたの?〉」

「〈……の、ようだな〉」




このポルシェの位置からキールや赤井秀一の表情を肉眼で捉えることはむつかしく、ジンやウォッカはキールの首につけられたカメラを通してモニター越しに現場を監視している

その映像はたしかに鮮明だけれど、
限られた場所しか見れないモニターじゃ情報を見落としやすい。




「〈で、高飛びを手助けする代わりに提供してもらえる情報ってやつを聞こうか〉」

「〈ー…そう、あなたに提供出来るのは…〉」




まずは肺に一発。

小さく聞こえた息を呑む声はウォッカのものだろう
赤井秀一は肺を撃ち抜かれても愛車に体重をかける形でなんとか立っていた
そして、私たちの車の方へ振り返る
  

あそこからここまでは結構な距離があるから車種まや中に乗っている人間まで特定するのは難しいかと思ったけれどモニター越しの彼は全てを悟ったように笑っていた



「どうしたキール、早くトドメをさせ」

「〈でも、肺を撃ち抜いたから放っておいても後三十分程度で…〉」


「頭だ、頭に弾丸をぶち込め。
それでそいつの息の根は…完全に停止する」

「了解。」



ジンはやはりトドメを刺さないと気が済まないらしい

確かジンは赤井秀一のライフルの弾で頬骨を削られたから少しくらいは私怨がありそう。



ジンの言葉にグリップを握り直すキール

そしてゆっくりと赤井秀一に近づいて、




「まさか、ここまでとはな…」

「私も驚いたわ、こんなに上手くいくなんて…」




銃声と共に頭から吹き出す血飛沫。

私はモニターを見るのをやめて持参した望遠レンズをのぞき込む
赤井秀一は…、車の中に倒れ込んでいる
本当に死んでいるかのようにピクリとも動かない彼

…ううん大丈夫、彼はきっと生きてる
シルバーブレッドはこんな所でこんな風に呆気なく死んではいけないもの。




峠の下の方からサイレンの音が…警察だ
ウォッカ曰く、この近くで偶然別の事故が起きていたらしい



「キール、後始末してズラかれ」

「〈了解〉」


「ウォッカ車を出せ」

「了解」

「ちょっと、もう行くの?」




キールの返事をきいてすぐに車を発進させようとするジンに思わず待ったをかけてしまった

だって、すっかり爆発してキールが帰るところまで監視すると思っていたから…



「やつが始末される様はこの目で見た、それよりも面倒なことになる前にずらかるぞ」




少し幹部を信用しすぎているんじゃない?
これじゃあまだモニターと無線が繋がっているとは言え幾らでも好き放題にできてしまう

そりゃそっちの方が私としても都合がいいけれど…
今頃2人は上手くいったと喜んでいるんだろうなぁ





「アリス、何か気がついたか?」

「いえ、特におかしな所はなかったんじゃない」



なにかわかったって教えてあげないけれど











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