ツーマンセル

今日はバーボンとツーマンセルでの2回目の任務。

正直まだ気は乗らないし、今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいのアリスは先程からずっと忙しなく体を揺らしている



「アリス」



呼ばれた声に顔を上げるとバーボンが道路の脇に車を止め助手席の扉を開いて立っていた

その紳士的な行動に眉を潜めるアリス
前回も毒を吐きながらも一応紳士的な行動をとってはいたバーボンだったが、その行動は彼が吐く毒にかき消され彼女の記憶の中には一切残っていなかった


暫く探るようにバーボンを観察して、ベルモットの変装ではないことを確認してから小さく口を開く





「…ー怖い」

「はい?」




始終どこか見下したような表情を浮かべていたバーボンが、今はゆるくほほ笑みを浮かべている
それがかりんの警戒心を掻き立てていた

…ベルモットが何を言ってくれたのか知らないけどこんなに態度が一変するもの?
彼の中の彼女の存在がそれほど大きいということなんだろうか、それならいいんだけど何か裏がある気がして仕方がない




「前と態度が違いすぎて怖いわ、一体何を企んでいるのかしら?」




聞けば彼はきょとん、とした後バツが悪そうに視線を下げて肩を竦めた




「そんなに警戒しないでください、…前回のことは悪かったと思ってます」






謝罪の言葉が嘘だとは思わないが何処か嘘くさい。

…バーボンは息をするように嘘を吐く
それはアリスである私も人のことを言えないけれどアリスと同じような臭いのする彼は苦手
同族嫌悪ってやつだろうと思う。





「…あなたの雰囲気が僕の嫌いな人物と似ていて…
それであんな態度を」

「どうして赤井秀一を嫌ってるのかなんて知らないけど初対面の私にまで強く当たるなんて…」

「なぜライのことだと?」

「ベルモットから聞いたのよ」

「…彼女から」





声色が僅かに苛立ったような声色に変わる
それは赤井秀一のことを思い出してか、それともおしゃべりのベルモットに対してなのかはわからないがアリスは興味なさげにバーボンから視線を外した




「けれど、あなたに興味が湧きました
あなたのことを知りたい」





かりんが一瞬他所を向いた間に近づき完璧な笑顔を浮かべて髪を掬って梳かす
この容姿でこんなことを言われれば気分を良くしたり、勘違いしてしまう女の人は少なくはないだろう

…ともかく、彼の真意はわからないけど私のことを知りたい、近づきたいと言うのだったら受けて立とうと思う
例え腹の探り合いになったとしても…と言うか100%そうなるだろうけど。
前回のようにあからさまにギスギスしないのであればそれでいい

それに彼は組織の探り屋、気に入られておいたって損は無いはずだ


アリスもバーボンに対抗するようににこりと完璧に微笑んだ。





「私もあなたのことを知りたいわ
でも、その為にはやり直さなくちゃ」

「やり直す?」

「そう、やり直すの。
はじめまして、アリス・マインよ
新米幹部だから御手柔らかに、よろしく」




自己紹介を始めればすぐにどういうことか察したのかバーボンはまた微笑んだ




「初めまして、バーボンこれが僕のコードネームです
よろしくお願いします」





ようやく車に乗りこんで、向かうその途中アリスが思い出したようにそういえば…と切り出した




「今日の内容は?」

「取引ですよ、政治家の皆辻という人間と
そして僕が見張りを。」




アリスを取引相手に、と直々のご指名だそうです

そう言われて頭をフル回転させ脳内にある人物のデータを叩き起す




「あー…パーティー出会った人か…」




アリスは片手で顔を覆った

ー…ベタベタ触ってくるあの人が確か皆辻って苗字だった気がする
ベルモットは私が嫌がるってわかっててわざと教えなかったな…聞かなかった私が悪いんだけれど。





「無類の女好きで有名だそうですね」

「みたいね、
私あの人にだったらハニートラップを成功させる自信があるもの」




…とりあえず着飾った女だったら誰でもいいって感じの体格のいいおじさん

内緒でホテルで会いたいな、って耳元でいえばなんの疑いもなくついてきそうだし…情報知りたいって色っぽく言うだけでポロポロ洩らしてくれそう





「ー…って、待って。
私取引の物を持ってない」

「それなら僕が預かってるのでご心配なく
中身は薬品だそうです」

「そう」





**


「あら?早めに到着したはずなんですが…お待たせしていたみたいで申し訳ございません。」




約束の時間まではまだかなり時間があったはずだが相手は既に到着していてその手には黒のアタッシュケースが握られていた




「いやいや、まだ約束時間ではないから謝らなくて結構だよ
それより、また会えて嬉しいな…」


「ー…えぇ、私も同じ気持ちですよ皆辻さん。」




近づいてくる皆辻の動きに合わせてかりんも一歩下がる

…ベタベタされる前にサッサと終わらせてしまおう





「これが約束の品です、ご確認を」





目の前でアタッシュケースをあけても全く確認しようとせず、ただただ熱の篭った瞳でかりんのことを見つめている

その視線にヒクリ、と頬をひきつらせながらも
悟られるわけにも行かずそれを隠すようにぐっと笑を深めた




「この前のドレス姿も綺麗だったが、君はスーツスタイルも実に良く似合う…」

「ありがとうございます、皆辻さんもそのスーツとてもお似合いですわ。
オーダーメイドなんですか?」

「ありがとう、実はこのスーツはー…」




まぁ、すごい!なるほど、流石です。
この人の自慢話にかなり時間を使ってしまった

予定より待たされている彼は怒ってるだろうか、しかしこの人は組織にかなりお金を落としてくれるから大事にしろって言う命令のせいで邪険にするわけにも行かずただただ相槌を返すことしか出来ない。



話が止まったところで彼のアタッシュケースに目線をやれば、そうだったねと呟いた




「きっちりと」




そう言って開けたアタッシュケースの中には約束通り金が詰まっていた




「確かに、」




黒のアタッシュケースを交換してー…終了。とは行かなかった

彼が私の腕を掴んで距離を縮めてきたからだ
咄嗟に踏ん張ったおかげでそこまで近づかなくてすんだけれど彼の手は私の腰に超えられている





「何か、?」

「君も同じ気持ちだと言ってくれたね」




あ、軽々しく同じ気持ちなんて言うんじゃなかった
後悔先に立たずってやつだ。


ーーーーー
ーーー





「やっと終わったー…」




もっと君と一緒に居たい、このあとディナーでもどうだい、いいbarをみつけたんだ、わたしが経営しているホテルに、
全てのお誘いをスルリスルリと交わし
ついに限界がきたアリスは偽の電話番号渡した

それを持って満足げに帰っていく皆辻といれ違うようにバーボンが姿を現した





「時間をかけてしまって悪いわね」

「随分と気に入られているようで、あれほど滑舌なあの人は始めてみましたよ」




…確かにあの人興味ない人間の前ではほんとびっくりするくらい無口だし無愛想だからね

自分に利があると感じた人間と、女性にはいつでも滑舌で、その殆どは自慢話ばっかりだけど





「報告は済ませてあります」

「助かるわ」





バーボンにエスコートされ車に乗り込んで帰りのドライブを楽しんでしばらく、携帯を確認するとジャストタイミングで電話がかかってきた


…げ。
風見さんからだ、この前のデータに不備でもあったかな…
今は電話に出られないけれど運のいいことにここら辺は警察庁に近い。

近くで下ろしてもらって少し時間を潰してから直接行こうか





「バーボン、ここら辺で下ろして」

「ここで?前に送った場所からはかなり離れてますが」

「少し用事が出来たから、ここで結構よ」





わかりました、と車を路肩に停めシートベルトを外して外に出ようとしたバーボンを手で制す





「エスコートは結構よ
車出してくれてありがとう、じゃあね」




バーボンの返事も聞かずにドアを閉めてRX-7が見えなくなるまで適当に歩く

差し入れにケーキでも買っていこう疲れた頭には糖分がいいってよく聞くし



**




「おはようございまー…す」




かなり久しぶりの登庁に少しドキドキして中に入ると風見さんがズンズン近づいてきた
あ、怒ってる。眉間のシワが増えてる





「沢田!なぜ電話に出ない!」

「すみません、潜入先の人間と一緒だったので」





私の直属の上司である風見さんには私が潜入捜査をしていることはあらかじめ知らさせてあるらしい。

上が彼にどこまで話しているかが不明だから組織の話はあまりしないようにしてるけど、それなりに大変なのは理解してくれているらしく登庁する度に心配してくれる案外優しい人だ





「折り返さなかったのはすみません、でも直接来た方が早いくらいの所にいたので
それで?」




書類に不備でもありました?と聞けばいや違う、と帰ってきた





「えっ、違うんですか?」

「あぁ、実は…」



珍しく歯切れの悪い風見さんの視線をたどればデスクには山のような書類

あれは何…あぁ…めまいが…
風見さんはあの量の書類を押し付けられてるの?
きっと千手観音見たく手がたくさんある人がやったって1日、2日で終わる量じゃない



「なんですかあの量…手伝います」

「すまない、」

「私も沢山風見さんに助けてもらってますから」




そう言えば風見さんは少し笑ってくれた





「今度なにか奢ろう」

「なら焼肉連れてってください」




手帖を確認すると、4日先までは組織の任務も入ってないから泊まり込みで出来そうだ

4日あれば流石に終わる、でしょ。
終わるよね?終わると信じたい。




「ああ、書類が片付き次第すぐにでも」

「やった!
とりあえず着替えだけ取りに帰っていいです?
あっ、そうだ。ケーキ!ケーキ買ってきたんで皆さんで食べてください!」





周りにも聞こえるくらいの声でケーキの存在を伝えて風見さんに押し付け近くでタクシーを拾って急いで家に向かう


あの書類の量…今回は何徹で終わるかな

あぁ、風見さんの分の栄養ドリンクも持って行ってあげよう。
目の下にできた隈を見る限り風見さんは既に無理をしてるんだろうから


**



部屋に戻ってすぐパコソンを起動させ、その間に着替えを詰めるべくクローゼットを開ける
とりあえず3日分くらいでいいかな

詰めるものはさっさと詰めてパソコンと向き合う、急ぎの物はなにもない…っと恭弥からデータが送られてきてる

…この前頼んだコナンくんとジョディの件だ




「風見さんごめんなさい、これに目を通してから…」




スクロールして文字の羅列に素早く目を通すとその内容の大半は私が予想していた様なものだった

そしてその証拠だと言わんばかりにどこで手に入れたのか、指紋鑑定結果や、比較画像なんかも何枚か送付されている。



ジョディはジョディ・スターリングFBI捜査官これは思った通り。


そして、問題のコナンくん
…非現実的だし、信じられないようなことだけどこれが現実。


いや、非現実的なことなんて私の周りで数え切れないほどあるからそれに比べたらまだ現実的なのかもしれない

過去の人間が未来に来たり、指輪から炎が出たり…御先祖にあったことだってあるし。
それに比べれば、若返りなんてー…。


工藤新一=江戸川コナン
確かにコナンくんが平成のホームズと言われた工藤新一くんだったらあの鋭さも何もかも納得が行く

どういう経緯であの毒薬をのまされたのかは分からないけれど…
組織に幼児化の情報は入ってきていない、ということは上手く死んだと偽装しているみたい、彼の偽装にはきっと協力者がいる


工藤新一に薬を飲ませた時のことについてもう少し詳しく調べてみよう



まだ謎だらけではあるけれど、とにかく生きていてよかったと純粋にそう思った








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