あなたの翼の理由でありたい



やっとこの日がやってきた。
朝一で役所に婚姻届を出して苗字名前から鷹見名前に苗字が変わった日。そして今から結婚式。糖質を制限した味気ない食事に、啓悟と一緒に走ったり筋トレした運動の日々。計画を立ててエステにネイル、マツエクをして。人生で初めてこんなに自分の身なりを気にした。

そして最後の総仕上げ。純白のドレス。レースが波打つスカートはどこまでも上品な雰囲気を醸し出す。ラグジュアリー感を演出してくれるこのドレスに私は一目惚れをした。そのドレスに袖を通し、あと30分もすれば挙式が始まる。緊張と感動でも胸が張り裂けそうだ。


「名前さんお綺麗です」
「・・・っありがとうございます」
「早くご新郎様にも見ていただきたいです」
「はい、すごく楽しみです」

鏡に映る私自身を初めて自分で綺麗だと思った。最初で最後の結婚式。この日のためにしてきた努力は全くの無駄ではなかった。そう思えばあの辛い日々は報われるようで別の意味で泣きそうになる。でもまだ泣くのは早いと思う。最後のお化粧を整えてくれるメイクさんがうるっとした私に気がついてくれる。咄嗟にティッシュで目頭を押さてくれた。
今までの人生で1番綺麗な私を啓悟はなんて言ってくれるんだろう。当日までお互いの晴れ姿を見ないという今話題のファーストミートはしないことにしていた。折角の結婚式、啓悟と沢山話し合って一緒に作りたかった。だから何度も試着して啓悟と相談してこのウェディングドレスを決めたんだ。試着の時に啓悟は綺麗って言ってくれたし大丈夫だと思いたい。


「ご新郎様の準備が出来たみたいです」
「はい・・・!緊張してきた」
「大丈夫です、本当にお綺麗ですから」
「私その言葉信じますよ」
「もちろん自信もってください!」

トントンと扉を叩く音が聞こえる。別室で準備をしていた啓悟が私の部屋にやってくる。はいと短く返事をすればドキドキして心臓が飛び出そうだ。

扉が開けば真っ白なタキシードに身を包んだ啓悟と目が合う。その白さが彼の朱色の剛翼をより一層生えさせる。・・・本当に似合っているし、本当にかっこいい。ヒーロースーツの啓悟も私服の啓悟も、どんな啓悟もかっこいい。だけど今日の啓悟は特段にかっこいい。キラキラ輝く彼はどこかの国の王子様だ。何より肌が綺麗な彼が化粧をしていていつもよりイケメン度がアップしているのがポイントが高い。本当にこの方が私の旦那さんなんですか?と改めて疑問に思えてきた。

「きれい・・・本当に名前さん綺麗っ」
「啓悟はかっこいい」
「見とれて言葉が出て来ませんでした」
「うん、私も」

お互いまじまじと見つめ合えば自然と頬に熱が集まっていく。恥ずかしそうにハニカム啓悟の顔が、これまたかっこよくてキュンキュンしてしまう。周りにはスタッフさんやカメラマンさんが沢山いるが、この瞬間は2人だけの世界だった。その後すぐ魔法が解けたみたいにゆっくりと啓悟は私に歩み寄ってくれる。
触れ合える距離まで近づけばいつもより目線が近い気がする。たぶん普段履かない高めのヒールが、啓悟をいつもより近くに感じる。172cmという身長は私よりは大きくてもヒールを履けば近づいてしまう。ただ試着の時に啓悟はシークレットブーツを履かないとドヤ顔で言っていた。彼曰く男のプライドがなんとかと言って普通の靴を履くことを決めていたし。あの時はそれはそれで啓悟らしいというか可愛いと思ってしまった。

「ではそろそろお時間なので行きましょうか」
「はい、お願いします」
「分かりました。名前さん俺に掴まって」

自然の流れで啓悟が私に腕を差し出してくれる。ウェディングドレスを着て歩く経験は、初めてで足元がおぼつかない。一応スタッフさんからウェディングドレスを蹴り上げるようなイメージで歩いてくださいと言われても難しいものは難しい。何とか啓悟の腕に腕を絡ませて歩けてる。だけどやっぱりバランスが崩れそうになってしまう。私は一生懸命に歩いているのに隣にいる啓悟はニコニコとこちらを向いている。
男の人は歩きやすくてずるい。そんなことを思っていれば上手く蹴り上げられず自分でスカートの裾を踏んだ。バランスを崩して前に倒れそうになれば、啓悟が咄嗟に支えてくれて倒れずにすんだ。

「花嫁が転んだらつまらんやろ」
「ごめん、ありがとう」
「名前さんが一生懸命に歩きよー姿が愛らしかったけん見よったばってん、危なかけん俺が手伝うね」
「・・・えっ?」

そういう啓悟は私の太ももと肩を抱き軽々しくと持ち上げる。所謂お姫様抱っこというやつだ。あまりにも咄嗟のことでビックリしてしまい彼の首に腕を回す。啓悟は満更でもない顔をしながら歩きだしている。プロヒーローの腕力は流石だしすごい。しかも彼は器用に長いウェディングドレスのスカートを剛翼で引きずらないように持ち上げている。こんな所で個性を使わないで欲しい。
兎に角恥ずかしい。周りにはスタッフさんが何人もいて、カメラマンさんなんてさっきからパシャパシャとシャッターを押している。これの写真が一生残ると考えると羞恥心で死にそうになる。

「啓悟おろしてよ!!」
「よかやろう、俺のお姫様」
「・・・っなに言ってるの!」
「怒ると折角の綺麗な顔が勿体なか」
「もうさっきから甘いセリフ言わないでよ!」
「照れとー姿が本当に愛らしか」

そうこうしている内にチャペルの入口近くまで着いてしまった。啓悟はゆっくりと私の身体を地面におろす。本当のお姫様と王子様みたいで夢見たい時間。もう少しだけウェディングドレスでお姫様抱っこをしていたかったという欲が出てきてしまった。それに気がついたのか彼は"あとでね"と小声で呟いた。それを遠くから見ていた私のお父さんは「若いっていいな」なんて言い始めるから少しだけ笑ってしまった。
あともう少して挙式。やっぱり緊張で顔が引きつってないか心配になってきた。スタッフさんによるともうチャペルには私の友人や啓悟の仕事仲間であるプロヒーローたちは私達を待ち構えているらしい。今は神父さんがゲストの皆さんにお話をしているみたい。

「名前さん俺と結婚してくれてありがとう」
「こちらこそありがとう啓悟」
「"これからどんなことをしても、どんなことをしてきたとしてたとしても、私はホークスを信じるよ"。その言葉があったから自分を見失わずにここまで来れました」
「これからも啓悟もホークスも私は信じるよ」
「俺も名前さんも信じます」

じゃあ先に行ってます、とチャペルの扉の中に入っていく。彼の背中を見送れば色々と込み上げてくる。本当にここまで長かった。でも啓悟のことを思い続けた日々はやっぱり楽しくて、嬉しくて、大切で。啓悟が元の世界に戻った時は寂しかった、辛かった。だけどそれすら宝物みたいな日々だった。
鷹見名前として彼の隣に立つことが出来る。これから彼との新しい思い出が増えて、宝物を両手いっぱいに抱えられないぐらいになると思えば幸せが満ち溢れていくんだ。幸せだなぁ。

彼が入っていた扉を見つめていればお父さんが横に立っていた。スタッフさんに言われてお父さんと腕を組み、チャペルの扉が開くのを待つ。今更だからこそ恥ずかしくなってきた。

「ホークス、いや啓悟くんと幸せになりなさい」
「もちろんお父さん」
「息子ができるって嬉しいもんだな」
「ついでにイケメンだし」
「でも俺はエンデヴァー派だからな」
「知ってるよ」

チャペルの扉が開けばゆっくりとお父さんとバージンロードを歩く。お互い緊張していてるけどもそれすらが楽しく感じてきた。なんだって啓悟のゲスト席にあのエンデヴァーとベストジーニストが座っているんだもん。お父さんが緊張で顔が引きつっている。たった数メートルが何分もかかったように感じて、私の腕はお父さんから啓悟に引き継がれる。
啓悟の腕はお父さんよりやっぱり安心で堂々としていた。流石ナンバー2のプロヒーロー。他にもヒーロービルボードチャートにランクインしたヒーローが沢山私たちの結婚式にいる。つまりヒーローが暇を持て余す世の中になったという証拠。ホークスの夢がやっと叶った。彼が鷹見啓悟の名前を捨てて、ホークスになって、また鷹見啓悟に戻って。私より若い彼が色んなことを抱えて戦い続けた結果なんだ。


「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」
「はい、誓います」

混ざることのない別世界の彼と出会い、恋して、お互い好きになって、愛して、今日という日を迎えられた。これかも私は啓悟を信じて、ホークスを信じて、死ぬまでもいや死んでからも信じ続ける。どんな時も啓悟と一緒に生きていきたい。


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