★眠れぬ夜★

「どうした・・・?」
夜、書斎で書きものをしていたセオドールは視線を上げずに、問いかけた。
カインが音も無く、部屋の中へ入り、姿を現したからだ。
足音を立てず、静かに歩み寄ってくる。
いつもの気丈な刺々しい雰囲気は感じられない。
「・・・」
カインは、セオドールの問いかけに答えようとして口を開いたが、言葉が出て来ず、また閉ざしてしまった。
カインの様子に、セオドールは仕事をする手を休めた。
視線を上げて、カインを見つめる。
「すまん」
来るつもりじゃなかった、とほとんど聞き取れないような声でカインは呟いた。
「セシルのことが気がかりなんだろう・・・?」
セオドールは再びペンを走らせる。
「・・・あぁ」
カインはセシルの様子を思い出した。
暗黒剣を使いこなせるようになったセシルだが、与えられる任務は過酷を極め、セシルは体力の限界まで戦わされていた。
モンスターの断末魔、剣を振るった時に飛び散る血、返り血を浴びたセシル。
戦闘が終わっても、セシルはいつも通りののんびりとした表情をして、カインに笑いかけた。苦痛をおくびにも出さないその顔。
しかし、夜になり、暗黒の鎧を脱ぐと、一変してカインに縋りつき、泣きながら求めてくるのだった。
少しの傷なら一瞬で治せるヴァンパイアの体。
しかし、セシルの体中に付いた傷は治癒することなく、熱を持って膿んでいた。
そんな体を更に痛めつけるように、セシルは激しい行為を望んだ。
気を失うように眠りについたセシルに慰めのポーションを掛ける。
眉を寄せて辛そうな顔をして眠りに付くセシルを眺めながら、カインはもう限界だと思っていた。
セシルの体力にも限度はある、そして、それを間近で見続けなければならない自分にも限界はある。

「あんなセシルの姿を、もう見ていられない」
苦々しい顔をして、カインは呟いた。
セオドールがカインを見つめる。
セオドールのどこまでも冷静なその表情。
カインはセシルが鎧を脱いだ後どうなってしまうのかセオドールは知っているのか気がかりだった。
兄さんには見られたくないと言い張り、任務が終わった後はカインの屋敷に泊るようにしていた。
しかし、奥歯を噛みしめるようにこちらを見つめているセオドールを見ると、勘付いてはいるのだろうと予測できた。
向かい合う二人には何か共有感覚のようなものが漂っていた。
カインの傷ついた表情。
今にも崩れ落ちてしまいそうなカイン。
セオドールはカインの出方を伺っていた。
カインも何かを躊躇うように口をつぐむ。
しばしの沈黙の後、カインは口を開いた。
「セオドール、抱いてくれ」
意外な言葉が声に出され、セオドールは驚いた顔をした。
「どうしても、眠れないんだ」
何かの罰を望んでいるかのように思い詰めた表情。
蒼褪めた顔でカインはセオドールに縋った。
セオドールは黙ってカインを寝室へ案内した。
カインは何も言わずに服を脱ぐ。
前に見た時よりも、一回り痩せてしまったその体にセオドールは触れた。
月明かりがカインを照らす。
そこには自尊心が引き裂かれ、途方に暮れた瞳があった。

カインはセオドールを性急に求める。
何の準備もなしに、それを欲しがるカインを制止し、セオドールは指をカインの口へ咥えさせ濡れさせると、カインの後孔に手を這わせた。
慣れない感覚にカインは緊張する。
固く窄まっているそこを撫でる。指の腹で皺を伸ばすようにさすられると徐々に綻んでくる。
中指がゆっくりを入れられる。
「・・・はっ・・・く・・・」
体を丸め、恥ずかしそうにそこをさらけ出すカインの様子にセオドールは煽られた。
指を拒むように頑なな蕾。
「・・・あっ・・・あう・・・」
前に見つけた悦所を掠めると、カインから高い声が上がる。
そこを指でひっかくようにすると、指を排除しようと蠢いていた内壁は、今度は歓迎するように柔らかく締め付けた。
2本目の指が入れられ、カインを追い詰める。
触れられていないカイン自身は勃ち上がり、快楽の涙をこぼしている。
「もう、挿れてくれ」
自分だけ高められるその行為に耐えきれず、カインが強請る。
「・・・焦るな」
余裕のないカインの様子に、セオドールはフフっと笑いを漏らす。
「やめ・・・あ・・あ・・・はぁ・・あぁ・・・」
カインの悦所に狙いを定め、指を小刻みに動かす。
意地悪そうな顔をして、なぶられ、カインが悔しそうな顔で喘ぐ。
カイン自身は張り詰め、溢れだしたそれはセオドールの指までも濡らしていた。
「も、もう・・あ、くっ・・あ・あぁ」
指の関節が白くなる程シーツを掴みながら、カインが達する。
指を引きぬくと、そこは赤く色づき更に大きな快楽を待ちかまえている。
呼吸も整わないカインを組み敷き、セオドールは自身を宛がう。
「待って、あ、あぁっ・・・う、いた、い・・・いあ・・・」
達したばかりで弛緩した体だったが、セオドールの質量をねじ込まれると、カインは痛みに悶えた。
しかしカインのものは萎える様子がない。
セオドールはカインの善い所を正確に突いてくる。
「はぁっ・・・あ・・くぅッ・・・んぅ・・・」
脚を大きく開かされ、容赦なく抜き差しされる。
もとよりセオドールはカインに遠慮するつもりなどなかった。
カインのそこは目一杯開かされて、セオドールを受け入れている。
セオドールが自身を引き抜く度にまくれ上がり、性急な愛撫で傷ついた淵からは血が滴る。
苦しい体勢で奥まで突かれ、カインは狂ったように悶えた。
「あ・・・あぁ・・・や、うぁ・・・あぁ・・・」
最奥にセオドールの奔流を感じる。
注ぎ込まれる夥しい精液。その熱さに焼かれ、カインは再び上り詰めた。
快楽の涙で濡れた顔を上気させて、カインはシーツに沈みこむ。
カインの内部は激しく痙攣している。
指を動かすのもだるいくらいの快楽。
しかし、セオドールはそのカインを繋がったまま裏返すと再び律動を始めた。
「うあ、もう、いやだっ・・あ、やめ、あぁ・・あ、あ」
腰だけ高く上げる体勢を取らされ、セオドールを受け入れる。
セオドールはカインの腰を掴み、そこへ自らの腰を打ちつける。
カインの内腿にはセオドールの白濁が伝う。
セオドールに奥まで攻められる度に、カインの腰は跳ねる。
快楽から逃れようとするカインを押さえつける。
「あぁ、や、はぁん、あ、あは、あ」
カインは体勢を保っていられず、頬をシーツに擦りつけている。
苛烈な抜き差しに、カインは強制的に絶頂まで導かれた。
「あ、もう、だめだ、あ、やだ、あぁ、イッてる、イッてるのにッ」
達した時の強烈な締め付けをものともせず、セオドールは更に腰を打ちつける。
敏感になったところを固いもので擦られ、カインは自制心を失ってしまった。
くねり、悶える腰を奥の奥まで攻められる。
「やぁ、あ、あぁッ」
セオドールがカインの奥に再び放った。
ドクドクと注がれるそれを感じ、とうとうカインは気を失った。

朝、カインはセオドールのベッドの中で目が覚めた。
隣には当然、セオドールが眠っている。
一瞬カインは自分がなぜここにいるのかわからなかった。
しかし、昨晩の行為を思い出すと、顔を朱に染めて立ちあがる。
立ちあがろうとしたが、腰から力が抜けてしまい再びベッドに崩れ落ちた。
変に体に力が入ったことから、体の内部にわだかまったセオドールの精液が腿を伝った。
シーツを押しのけ、自分の体を確認すると、後処理をされなかった体には乾燥して張り付いたどちらとも付かない白濁が固まっている。
カインは恨めしそうにセオドールを睨んだ。
勝手にシャワーを使い、身を清めてからセオドールの前に姿を現す。
セオドールは既に起きて身支度を整えていた。
何事も無かったかのように朝の挨拶をされる。
カインは気恥ずかしそうに視線を泳がせながら、挨拶を返す。
簡単な朝食をとりながら、カインはセオドールに提案をした。
「俺も、暗黒騎士になろうかと思う」
コーヒーに口を付けながら、セオドールは冷静にそれを聞いていた。
何が言いたいかは察しが付く。
セシルと同じ苦痛を感じたいのだろう。
昨晩はそのために、最も嫌う自分のところへ来て、己をさらけ出したではないか。
カインの安易な発想をセオドールは分析していた。
「お前が暗黒騎士となってどうする」
「しかしッ・・・」
カインが口を噤む。
カップをソーサーに置き、セオドールは続けた。
「共倒れになるだけだろう?」
カインが唇を噛む。
「お前は竜騎士としてセシルを支えればいいんだ」
セオドールは言いながらカインを見つめた。
その瞳の中にはセシルを支えられるのはお前だけだ、という想いが込められている。
すみれ色の瞳に慈愛のようなものすら感じ、カインはハッと息を飲んだ。
再び沈黙が落ちる。
カインの腹は決まった。
セオドールの屋敷を後にする時、カインは
「昨晩はすまなかった。・・・ありがとう」
と振り向かずに言った。
セオドールは拍子抜けした顔をして、カインを見送る。
足早に歩き去る後ろ姿を見ながら、セオドールは笑みを漏らした。

★☆★☆
相互依存三角関係

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