★ゼア・サタニック・マジェスティズ・リクエスト★

王はいつものように寝室にセシルを招いていた。
暗黒騎士の施術をしてから、王はセシルに関心がなくなったかのように音沙汰がなかったので、セシルの方でも王はもう自分を見限ったのではないかと思っていた。

セシルに口づけを落としながら、王はセシルの髪を掻き上げた。
そして、耳朶に舌をわせる。
耳の中まで舌を入れられると、セシルの背中にはぞくぞくとした悪寒にも似た快感が走る。
王にしがみつき、与えられる侵略に耐えていると、王はセシルの耳元で、ある言葉を囁いた。
すると、セシルは暗示にかかったように、意識が遠のいていくのを感じた。
暗黒の施術を受けた時に、魔道士にかけられた催眠術と似ている。
セシルがしがみつくのをやめ、力を失ったように自分の腕の中に倒れ込むのを感じると、王は口元に笑みを浮かべ、おいでと言い、セシルに向かって手を差し伸べた。
いつか、このように王の手を取ったことがあるとセシルはぼんやり考えていた。
それはいつだったか。
思考回路が何かに邪魔をされ、セシルの考えが追いつかないまま、セシルの手は勝手に王の手を取った。
王の手を取ったのは、あの部屋での出来事だ。
思考を集中させようとするが、雑念が混ざりうまくいかない。
セシルは王に促され、自分の脚が立ちあがる動作をしているのを感じる。体が空中に浮遊しているかのような感覚。

王は夢を見ているかのようにぼんやりとしたセシルの手を引き、寝室を出た。
長い廊下をどんどんと進み、階段を下りて行く。
あぁ、そっちへ行ってはだめだ。
セシルは思っていた。あの幽霊の姿を再び見るのは嫌だ。
この先にあるのは恐ろしいことだとわかっているのに、脚が動いていく。

セシルは再び、地下の玉座まで来た。
あの日から努めて忘れようとしてきた記憶。しかし、見たものを忘れようと、誤魔化そうとするたびに鮮明に蘇ってきた。
瀟洒な部屋の中へ降り立つ。
あの頃と何も変わっていない。
豪華な彫刻にけばけばしいほどの絵画。そして、部屋の奥にある天蓋付きベッド。
歩き続ける自分の脚。なぜ止めることができない。
これ以上進みたくない。
セシルの肩は震え出した。
王女をエスコートするようにセシルの手を肩を支えていた王は、セシルの震えに気がついた。
あやすように、セシルの首筋に口づける。セシルは王の優しさを装った残虐性に身震いした。

ベッドサイドに立つ。王が天蓋をまくった。
胸の上で祈るように手を組んだ、あの女性の姿が現れる。
その姿を捉えた瞬間、セシルは髪の毛が逆立つほどの恐怖を感じた。
脚が震えだす。
王がセシルの耳元で「横になりなさい」と囁いた。
体の筋肉が王の命令に従うように、勝手に動き出すのを感じる。
いやだ。
しかし、セシルの肉体はベッドの上に乗り上げると、眠ったような姿のセシリアの隣に腰を下ろした。
生気を一切感じない女性。こんなに近くにいるのに、体温すら感じられない。
感情の起伏を表面に表すことができないセシルでも、瞳の中に耐えがたい恐怖を浮かべていることに王は気付いていた。
いつかのように、左手をセシリアに、右手をセシルの頬に当てながら、王はうっとりと囁いた。
「セシリア、セシル。見分けがつかないほどだ。美しい」

王はセシルに口づける。
セシルは動くことができない。人形のようなセシルに啄ばむような口付けを落とすと、王はセシルの夜着を剥ぎ取った。
敵の前で防具をはがされたような感覚。身を守るものなど何もない。いや、始めから何も持っていなかった。
王の唇が首筋を辿り、胸の突起に辿り着く。
体の感覚はほとんどないにも関わらず、突起をねめつけられると、セシルは快感を覚えずにはいられなかった。
セシルの吐く息は熱く、甘くなっていった。
隣にはセシリアがいる。
こんな状態で乱れたくない。

王がセシルの下肢を愛撫しながら、今度は暗黒の杭で付けられた傷口をなぞり始める。
セシルの頭の中には、一瞬カインの姿が浮かんだ。
傷を舐める王にカインが重なる。
助けて、カイン・・・
セシルの祈りは届くことはなかった。
梳き上げる王の手からはくちゅくちゅと音が立ち始めている。
耳鳴りがしそうな程の静寂の中で、ひと際大きく、セシルの鼓膜を揺さぶった。
「はぁ・・・くぅ・・・」
ぼんやりとした意識の中、必死で喘ぎをかみ殺す。
「うぅ・・・」
王がとうとう後孔に手を伸ばした。セシルの下肢は一気に緊張する。
仰向けに寝かされたセシルは王の動向を探ることができない。
下腹が緊張で震える。王の指先の感触が、緊張で研ぎ澄まされた神経を通して伝わってくる。
催眠術で弛緩した体が、指を受け入れるのは簡単だった。
2本の指が這いまわる。
快楽を引きずり出される。
悪霊の前で、セシルの体は完全に開かれた。

王はセシルの脚を抱え上げると、後孔に自身を突き立てた。
セシルは何とか逃れようとする。しかし、どんどん王が奥に入ってくるのを感じた。
全てを埋め込むと、律動を始める。
「んっ・・・ふぅ・・・は、あぁ」
耐えきれず、セシルが喘ぎだす。
セシルの蒼褪めた顔に、赤みが差してくる。
目は潤み、与えられる快楽にとろけている。
王の切先がセシルの悦所を掠める。
「あぁ、はぁん」
セシルが大きく喘いだ。

王はセシルの体を抱き起こすと、反転させた。
セシルは腰を高く付きだす格好でベッドに縫い付けられる。
快楽の虜となったセシルは、セシリアと対面させられた。
「あ、はぁ・・あん・・あぁ・・」
腰を打ちつけられる度に声が上がる。
「セシル・・・」
セシルの内部を余すところなく愛撫する王は囁くように、しかし支配的な調子で話し始めた。
「これからお前に任務を与える」
セシルのぼんやりとした頭に王の声が響く。
「ミシディアのクリスタルを奪ってくるのだ」
頭の中にクリスタルの形が浮かび上がる。
「このクリスタルがあれば、冥府から死者の魂を呼び戻せる」
王の手がセシルの体を這いまわる。
セシルはその感触を、死んでしまった自分の体にウジ虫が湧き出て、這いまわっているかのような錯覚に陥っていた。
「お前の半身は死んでしまった。見るがいい」
顎を掬われ、セシルの顔をセシリアの方へと向ける。
「お前の体は引き裂かれ、空っぽになってしまった」
指が暗黒の傷を辿る。
セシルは自分の中にある空白、自分が何者でもない、ただの生きる肉にすぎないのではないかと幼い頃から思っていた。
それは、半身が死んでしまったからなのか、と霧がかった意識の中で考えていた。
「今こそ、取り戻す時だ。死神に奪われた魂を、お前の手で」
傷口に爪を立てられ、ひと際強く腰を打ちつけられた時、セシルはとうとう絶頂に達した。
自分の胎内でも、熱い濁流を感じる。その迸りは、セシルの体の中にわだかまり、留まった。
王がセシルの中から出て行く。その感触に、セシルの腰は少し跳ねる。
「セシリア」
セシルの髪を撫でながら、王は囁いた。
「やってくれるね」
耳朶を舐めながら、王は諭すように、命ずる。
「・・・はい・・・」
シーツに顔を埋めたまま、追いつかない思考を無理に集中させ、セシルは頷いた。
「そうか・・・」
王は緊張が一気に解け、セシルを撫でる手には、本来の優しさが戻ってきた。
「では、お前の半身に誓いなさい」
うつぶせのセシルの首筋に手を差し込み、顔を上げさせる。
「誓いのキスだ」
セシルはこの部屋に入った時から感じていた緊張と、達した後の疲労から、意識は更に混濁していった。
視界は擦りガラスのように白濁とし、今にも眠りの中に落ちてしまいそうだった。
王の導く手に促される。
セシルはセシリアの前に屈みこんだ。
自分の半身。
妙な懐かしさと、安心感がセシルの中に広がった。
セシルは瞳を閉じると、セシリアに口づけを落とした。
王はその様子を眺めていた。
セシルとセシリア。あまりにも似通った二人に肉体が、ここに重ね合わさった。
「セシリア」
そう言いながら、セシルを撫でる。
セシルは自分がセシルなのか、セシリアなのか、わからなくなっていた。
王の方でも、二つに分かれてしまったセシリアが、一つの体に帰ろうとしているように錯覚された。


次の日の朝、セシルは自室のベッドの上で目を覚ました。
一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。
昨日、何か恐ろしいことが起きたような気がしていた。しかし、自分の体が、いつも通り、自分の部屋のベッドの中に収まり、定刻に目を覚ましたことを確認すると、その恐ろしい感覚は夢の中での出来事だったように思われた。
ぐずぐず考えてもいられない。今日は軍の会議に出なければいけない。
セシルは身支度を整えると、会議室に赴いた。

近衛兵長のベイガンが、王の命ずる任務を読み上げる。
「ミシディアのクリスタルの保護」
それが新たに与えられた任務だった。会議場はざわつく。
そこに集まる者は、クリスタルを持ち帰るなど、立派な侵略行為だと口々に意見した。
ベイガンは作戦の最前線に立つ、赤い翼の団長、セシルに意見を求めた。
セシルはミシディアという言葉を聞かされた時、体に戦慄が走った。しかし、なぜ自分がその言葉におののいているのか、思い出すことができなかった。
朝からぼんやりとした気分を引きずっていたが、クリスタルという言葉を聞いて、セシルの意識は覚醒した。この任務はやり遂げなければならない。
「ただちにミシディアへ向かいます」
それが陛下の望みなら。セシルは厳しい表情を作り、言った。
会議室には、一瞬沈黙が流れたが、赤い翼団長のはっきりとした意思表示を突きつけられると、この任務を成功させるための作戦会議へと移って行った。

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モラルのゼロ地点突破

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