★シルフィードのささやき★

暗黒騎士候補が正式に決定し、その者らの名が張り札に掲載された。
竜騎士団長カインは、セシルの名前がその一番上に上がっていたことを確認し、セシルを祝いに行った。
セシルが生活をする塔まで行き、祝杯を上げる。
「とうとう、決まったな」
ワインを開けながら、カインが祝いの言葉を述べる。
「お前が暗黒騎士に志願した時には驚いたが、これで晴れてバロン最高峰の騎士になれるな。おめでとう」
グラスに注がれるワインを眺めながら、セシルは少し上の空のような表情をしていた。
「あぁ、ありがとう」
グラスを掲げ、頬笑み合うと、ワインを煽る。
「なんだ、浮かない顔をして。緊張しているのか」
セシルはここ数日の王の挙動を訝っていた。
何か落ち着きがないように思え、自分の動向をうかがっているようにも見えた。
しかし、確信のないことだったし、カインに王と自分のことを細部にわたってまで話すことは躊躇われた。
心に広がる陰気な影を振り払おうと、努めてセシルは笑顔を作った。
「あぁ、少しな。実際にダークフォースを体に埋め込む施術を受けるとなると、少し恐ろしく感じるよ」
暗黒の施術を恐ろしく思っていたことも事実。
カインは、セシルを力強く励ました。

セシルはカインを眩しそうに見つめた。
この施術を受けたら、自分もカインと同じ位置に立てるのではないかと期待をしていた。
常に自信に満ちた顔をし、竜騎士団長としての功績を積み上げて行くカイン。
セシルは自分自身でも努力を重ね、陸兵隊での地位を少しずつ高めては来たが、カインの輝かしい功績に比べると、自分との差がどんどんと広がって行くようで焦燥を感じていた。

夜となり、カインと別れると、セシルは早々にベッドの中へ入った。
明日の施術へ向け、睡眠をとる。

地下牢で暗黒の施術は始まった。
暗黒の杭を体に打ち込まれる、というあまりの苦痛に耐えられるよう、控えの黒魔道士はラミアが使う「ゆうわく」の術式で詠唱を始める。
設置された台に膝まづくように座っているセシル。手は台に固定され、麻縄で縛りつけられている。暴れ出さないようにするためだ。
黒魔道士が魔法を唱えると、セシルの頭は霧がかかったように、ぼんやりとし、体の感覚が薄れて行った。
ゆうわくはセシルと反発することなく、馴染んで行った。
黒魔道士たちは、暗黒の瘴気を杭の中にためると、セシルの背中に打ち付けて行く。
セシルの頭の中では、シルフィードが跳ねまわるような幻覚が見えていた。
鮮やかな緑色をした妖精が、羽根を震わせ、空中を飛びまわっている。幻想的で美しい感覚に、セシルは幸福感さえ覚えていた。
セシルも空を飛べるよう、シルフィードたちは自分たちの羽根をセシルの背中に植え付けている。
背中に感じるくすぐったいような感触を、シルフィードの悪戯な手だと思っていた。
しかし、現実には、暗黒の杭が4本打ちつけられていた。
激しい出血をともない、手術は長時間にわたる。
8本目の杭を打ちつけた時、セシルの頭の中の幻覚には変化が起こっていた。
美しいシルフィードが突然涙を流し、空中を飛びまわるのをやめて地上へ落ちてきた。
セシルも飛び回るのをやめて、シルフィードのもとへ舞い降りる。
顔を覆って泣き出すシルフィードの頭を優しく撫でようとする。
シルフィードが顔を覆う手を外す。現れ出たその顔を見て、セシルは息をのんだ。
麗しい顔は崩れ落ち、可憐だった口元からは見たこともないような蟲が湧き出ていた。
咥内には昆虫のような節足動物の角ばった脚が何本も生え、わらわらと蠢いていた。
短く悲鳴を上げて飛びのこうとすると、セシルは自分の背中にも何かが這いまわる気配を感じた。
驚いて振り返る。
すると、シルフィードにたかっている蟲が自分の背中からも湧き出ているではないか。
セシルは絶叫しながら、それを払い落そうとしていた。

「まずい、ゆうわくが切れてきた」
突然暴れ出したセシルを見て、黒魔道士が叫び声を上げる。
ただちに詠唱が始まる。しかし、暴れ回るセシルの力は恐ろしく強い。
手を縛られていてさえ、抑え込むのが精いっぱいだ。
「バッドトリップしている」
いやだ、やめろ、と叫びながら、暴れ回るセシル。
バロン王は地下牢の様子を隠し通路から眺めていた。
王の部屋から続くその通路。石造りの牢獄では、積み上げられた石の一つが取り外せるように作られており、中の様子を眺めることができた。
セシルに暗黒の杭が打ち付けられる度に、王は目を覆っていた。
しかし、その背中から血が流れ、杭が埋まって行く様子に官能的なものも感じていた。
叫びながら泣きじゃくるセシル。セシルに科した残虐な行為。
セシルの表情を見ると、王の心は痛んだが、これから起こる自分の企みを思うと、その罪悪感には一種の淫蕩さが混じり、王に満足感を与えた。
これでセシルは暗黒騎士だ。
もはや一歩も引くことはできない。
王は顛末を見届けると、地下牢を後にした。


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モルヒネ注射で見える、ファビュラスな世界

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