★I was born in a crossfire hurricane★

僕の父がノーベル科学賞を授賞した記念に、軍を挙げてパレードを開いた時、母は暗殺者にライフルで頭をぶち抜かれた。
真っ赤なオープンカーに乗り、紙ふぶきの舞う中、突如として母は倒れこんだ。
隣に座っていた父は、叫び声を上げながらも、冷静に飛び散った母の脳をかき集めていた。
父は自分で生み出したクローンの最先端技術でこの時集めた脳から母の分身を作り出した。
それが僕だ。
父がこの栄誉ある賞を受賞する切欠となった、クローン技術。
でも、それはどんな人間をも幸福にできないことを、僕は知っていた。
この技術のおかげで、人間は何もないところから、生物を作り出せることになった。
でも、その技術は世界中のあらゆる組織に批判されていた。
本当は父が殺されるはずだったのに、暗殺者の腕前は三流だった。かわいそうなお母さん。
僕は善良なる市民が、必ずしも幸せにならないことを、生まれる前から知っていた。

父はその日から、取りつかれた様にクローン育成に励んだ。
父は小さな胚が試験管の中で育っていくのを毎日、食べることも眠ることもせずに見つめていた。
しかし、母の脳の破片からできた子供は、正常に育つことはなかった。
まるで、母はこの世に蘇ることを拒んでいるように、有る程度細胞分裂を繰り返したところで、核を腐らせ、全てを壊死させてしまった。
母は本当に聡明だと思う。そんな風に生き返らせられたり、肉体を作りかえられたりすることは、普通の人間には耐えられないと思うもの。
父は母の意志には勝てなかった。確かに敗北を喫した父だったが、その執着心は更に違う方向へと進んで行った。
母の染色体に、自分の染色体を混ぜた。完全なる母のコピーを作ろうと思っていた父は、自暴自棄の末に妥協して、母そっくりの男の子クローンを作った。
それが僕だ。
僕の不幸は、生まれる前から決定づけられていた。

父は僕のことを母と思いこもうと、精いっぱい努力をしていた。
僕にフリルのいっぱいついたワンピースを着せて、髪を長くのばさせ、高く結いあげた。
始めのうちはそれで満足していた。
僕を着せ替え人形のように可愛がってくれた。

「かわいいセシル」
そう言って、父は僕のスカートをまくりあげた。
でも、洋服は絶対に脱がせない。僕が男だってことが父には受け入れられなかったから。
ぬいぐるみと造花が飾られた女児向けベッドに縫い付けられて、父は僕を串刺しにして揺さぶった。
僕の孔からは血が噴き出して、とにかく痛かったことは覚えてる。
父は優しい声を出しながら、僕に近づいてきて、支配的な手つきで体を押さえつけた。
僕が怯えた目をすると、僕の髪をあやすように撫でて、必ず謝った。
僕は謝る人間を信用できない。
謝っているふりをしている人間が本当に言いたいことは「これから君にとっても酷いことをするけど、許してくれるね?」ということだったからだ。

だんだん大きくなっていく僕に、父は耐えることができなかった。
どんなに飾り立てたって、僕は男の子だったから。
僕の顔の中に、母の面影にはない男の部分。それは紛れもなく、父の面影だった。
それを見つけた時、父は魂が抜け出てしまったような顔をした。
絶望した人間はああいう顔をするのかと、僕は父のあの表情を生涯忘れることはできないだろう。
僕も気づいていた。気づきたくなかった事実ではあったけれど、僕の手の形は完全に父の手の形と一致していた。
女の子より大きくて、角ばった指をしている手。
父は、最後に僕に酷く暴力をふるって、いつもみたいにベッドでもみくちゃにして、僕を「セシリア、セシリア」と優しく撫でた後、首を吊って死んだ。
父の悲しみは一生慰められることはなかった。
僕を抱きしめながらも、母の名前を呼びつづけ、その心には母の面影を浮かべていた。

僕が父にお礼を言うとしたら、僕に父親殺しの罪を負わせなかったことだと思う。
自分で死んでくれなかったら、僕はきっと父を殺していただろうから。

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