★淡い日差し★

カシャンと音を立てて、セシルの手から剣が落ちた。
バロン王が練習用の剣を振り上げ、セシルの小手を叩いたのだった。
「セシル、脇を締めろと言っているであろう」
厳しい声が飛ぶ。
「はっ、申し訳ありません」
セシルは手首を押さえながら返事をし、剣を拾い上げる。
そしてまた構える。
すでに壮年に差し掛かったバロン王ではあったが、騎士王の名にふさわしい剣術を披露していた。
セシルは兵学校に通いながら、王陛下直々に訓練を受けていた。
バロン王も忙しい仕事の合間に、剣術の稽古を付ける時間を作り、セシルを見ていた。
幼いころから稽古を重ねてきたセシルの剣は、兵学校一と言われるほど強くなっていた。
その剣を手にした立ち姿も、王宮剣術を身に付けた者の気品が漂っていた。
バロン王は剣を構え、鋭い突きを繰り出すセシルの成長ぶりに満足していた。
稽古を終え、セシルはバロン王に向かって礼をする。
「陛下、ありがとうございました」
バロン王に敬愛の眼差しを送りながら、セシルが言う。
その笑顔を見て、バロン王も微笑んだ。
「毎日上達していくようだな。感心だ」
その言葉に、セシルの表情はさらに明るくなった。
「このまま、晩餐にもお前を招きたいが、あいにく仕事があってな。また今度共に食事をしよう」
「ハイ」
直立するセシルに背を向けて、バロン王が去って行く。
セシルはバロン王の逞しい後ろ姿をいつまでも見送った。

セシルはシャワーブースで汗を流し、平服に着替えた。
兵学校の生徒の中で、バロン王が剣術の稽古を付けている者は自分だけだ。
セシルはそれが自慢でもあったし、なぜ自分が選ばれたのだろうと疑問にも思っていた。
幼いころから大事に育ててくれた陛下。
しかし、自分はこの王室付けの剣を握るのにふさわしい人間なのだろうか。
セシルはせめて、今の幸福を噛みしめながら、バロン王のために剣術に励みたいと思っていた。

セシルは生まれて間もなく、森の中に捨てられてしまった。
森の中に取り残されていたところをバロン王に拾われ、今の生活をさせてもらっている。
そう下士官から聞いたことがあった。
お優しい陛下。
僕の様な捨て児にも、慈悲をかけて下さる。
セシルはバロン王の役に立てるように、自分ができる以上の努力をしてきた。
バロンの貴族が入学できる兵学校の中で、一人だけ身分を持たないセシル。
始めのうちは、周りから白い目で見られていたが、その剣術の腕前と秀才と呼ばれるのにふさわしい学力で、卒業を間近に控える今、一目おかれる存在となっていた。
セシルの部屋には、兵学校の剣術大会で優勝した時に獲得したメダルや、進学の際に最優秀の生徒に贈られる盾などが飾られていた。
バロン王陛下の名の下に下されるそれらの名誉を、セシルは自力で勝ち取ってきた。
いつか、陛下の様な騎士になりたい。
それがセシルの目標だった。

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