★地獄の季節★

ファブールの城へ攻め込む。
私はカインの心をどれほど操っていられるか、試そうと思っている。
クリスタルを巡り、セシルと対立させる。
セシルはクリスタルを守るために、カインに本気で剣を向けてくるはずだ。
その時、カインはどのような行動をとるか。
セシルを狂おしく愛しているカインに、セシルを殺させる。
これほど面白いことはない。

そうして、クリスタルルームで、カインとセシルは向き合った。
セシルは突然現れたカインに驚き、一瞬戦闘態勢を崩した。
私は苦悩するセシルの顔を見たくて、カインの視線の中に意識を集中させる。
カインの目を通して、セシルを見つめる。
急にカインと戦うこととなったセシルは動揺していた。
戦おうにも、剣先が鈍る。カインの方でも、セシルに殺意を向けることは躊躇われている。
どちらも本気になりきれない。
動揺は、むしろ、カインの方が大きかった。
カインの槍はセシルを牽制するだけで、セシルに決定的な傷は与えていない。

しかし、剣を交えるうちに、セシルの剣が意志を持って動き出した。
クリスタルを守るため、世界を守るため、という自分の正義が、セシルを突き動かした。
カインの目先を剣が掠める。クリスタルの光を反射させ、セシルの刃が鋭く光る。
この光に目を焼かれ、カインと私は同時にハッと息を飲んだ。
暗黒の鎧に覆われているにも関わらず、セシルの周りには光が取り巻いていた。
霊気とでも言うのだろうか。それは彼の信じる正義故だった。

その光は、闇の中に堕ちた私の心をきつく照らした。私はたじろぐ。
この場で対峙しているのが、カインではなく、私であったら、セシルの剣に貫かれていただろう。
同じように、カインの視界も一瞬ぐらついた。
しかし、視界は急に上昇した。カインはジャンプを試みた。
クリスタルルームの天井まで辿り着くと、天井を蹴り、急降下する。
突然の飛翔に驚き、セシルの反応が一瞬遅れる。
槍が深々とセシルの肩口にめり込んだ。

鎧にひびが入るところを見た時、私の意識は乱され、カインの視界から抜け出た。
私が立っているところからは、セシルが槍に貫かれ、背中を大きく反らせている光景が飛び込んでくる。
まるでスローモーションのように、セシルの体がクリスタルの床に沈みこむ。

セシル!

私はセシルを掻き抱いた。兜を脱がせる。蒼白な顔が現れる。兜の中におさめられていた銀糸がその血の気の無い頬に散らばった。
震える手で抱きしめると、セシルが小さく呻いた。
生きている!
刺さった矢を引き抜くと、セシルの肩からは血が溢れだした。
芳しい血。
私と同じ血!

カインはクリスタルを私に押し付けると、セシルを奪い去った。
私の手からはセシルの銀糸が零れ落ちた。
セシルはいつもこうして、私の手から奪われていく。セシルの周りの人間を操り、セシルを罠にかけようとも、セシルの心までも我が手中に収めることはできなかった。
カインは持っていたポーションをセシルに振りかけ、応急治療をしている。

ゾットの塔まで引き上げ、セシルをベッドに横たえる。
ルビカンテを呼び寄せ、セシルのために回復呪文を唱えさせた。
傷はすぐに塞がった。セシルから苦悶の表情が消える。
しかし、その体は陶器で出来た人形のように、生気が無かった。
青白い頬に銀色の睫毛が影を落としている。その影は死を思い起こさせた。

意識の無いセシルを抱き起こす。
セシルの顎を肩に乗せ、その背中に腕をまわした。
セシルの鼓動を感じる。平静よりは脈拍が少ないが、確かに鼓動を感じる。
生きている!
銀糸の中に手を差し入れ、感触を確かめる。
私の手は震えた。私の頬には、いつかのように、涙が伝わった。

その時、私は漠然と思った。
セシルを殺すことなどできない。
誰も私からセシルを奪うことなど許さない。
カインですら!

もし、あの昔、私の魂が邪悪な力に、憎しみに屈することがなかったら、セシルの光を満身に浴びていただろうに。
セシルの光が私の肉体を貫き、私の想いを焼き尽くす。

私を殺すことができるのは、セシルだけだ。

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セシル「兄さんの言ってること、よくわかんないよ」

カイン編で、ちょっと剣に刺されただけで正気に戻った兄さんでしたが、正気に戻るに足る理由を後付けしたつもり


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