★回想★

僕は自分の幼少期を思い出すと、少し悲しい気持ちになる。
僕は森の中に捨てられた子供だった。木の根もとで泣いているところを、陛下が拾い上げて下さった。
陛下は僕を大事にして下さった。
陛下がいなかったら、僕は飢え死にしたか、森に棲む動物に食べられていた。
心優しい陛下。
だから、陛下が僕を生かしてくれたことは許してあげましょう。
この恩をお返しできなかったことを、僕は本当に残念に思う。

陛下は僕に女の子が着るようなドレスを着せたがった。
リボンがたくさん付いたスカート。小さい頃はドレスを着ることに何の抵抗もなかった。
僕は自分以外の子供を見たことが無かったから、スカートは女の子しか履かないものだとは知らなかった。

陛下が机に向かって、仕事をしているのをソファに腰を懸けてずっと見ていた。
しばらく座っていると、陛下が顔を上げて、僕の方を見て微笑んだ。
「セシリア、おいで」
陛下が僕に手を差し伸べた。
僕は少し、困惑した顔をしながら、その手を取りにソファから立ち上がった。
たまに、陛下は僕のことをセシリアと呼ぶ。
僕が駆け寄るのを見て、陛下は驚いたような顔をし、瞳を曇らせた。
そして、
「すまない。お前はセシルだったね」
と言って、僕に謝るのだった。

ある時陛下は、セシリアさんについて話してくれた。
「お前の本当のお母さんはセシリアという人だよ」
そう言いながら、陛下は僕の髪を撫でてくれた。
「私に勇気が足りなかったばっかりに、国を追いやられてしまったのだ」
陛下の瞳に涙がたまっている。
「陛下は、セシリアさんの代わりに、僕をお城へ連れて帰ったの?」
とうとう陛下の目からは涙がこぼれおちた。
「違うんだよ、違うんだよ、セシル。お前を不安にさせて悪かった。お前はセシリアの代わりじゃない。お前がセシリアの子供というだけなら、こんなに可愛いだろうかしら。」
陛下はそう言って僕を抱きしめてくれた。

それから、陛下は、僕のことをセシリアと呼び間違える度に、
「セシリアの話を聞かせてあげよう」
そう言って、陛下は僕を抱き上げた。
「ええ、陛下。また泣くんでしょう?」
僕はそう応えたものだった。

セシリアという響きには、何か苦い後悔のようなものが混ざっていた。
「セシル」と、僕の名前を呼んでいても、陛下は僕の顔の中に、セシリアさんの面影を探していた。
そして、僕がセシリアではないと気付くと、落胆したような顔をして、僕を迎えた。
僕を抱きしめる腕は優しかったけれど、陛下のその表情は、ひどく怯えているように見えて、僕を不安にさせた。

それでも、陛下だけが、僕に優しくしてくれた。
男の僕に、女の子の服を着せてまでも、僕をセシリアさんに見立てたかった陛下。
陛下はその愛情を僕に捧げてくれたのか、それとも、セシリアさんにだけ捧げていたのか、もうわからない。
僕の髪を優しく撫でてくれる、その大きな手。
僕の世界には陛下しかいなかった。陛下が与えてくれるものが全てだった。
だから、僕は長いスカートの裾を貴婦人風につまみ上げて、陛下にお辞儀をする。

僕は陛下を嫌いになったことは一度もなかったけれど、愛したこともなかった。

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ルソーの告白のパロディ

バロン王編の陛下とは似ても似つかない感じになりましたが、セシルにはこういう風に見えていたということで。

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