★初めての外出★

私は常にセシルの身を案じていた。
将来的に、クルーヤのような存在になられては困るし、軍人になって戦火に体を傷つけられては勿体ないし、醜い女と駆け落ちされても面白くないと思っていた。
私はセシルを宮廷画家、または宮廷音楽家にさせようと思っていた。
一生を私の城の中で過ごさすのだ。この軍事国家において、画家など、私以外に雇うものはないだろう。
永久に私の顔だけ描いてればいいのだ。

しかし、セシルに絵の才能は全くといってよいほど無かった。
キャンバスとクレヨンを与えてみたが、描きだしたのは世にも奇妙な事物だった。
普通の子供なら、太陽が燦々と当たる森で微笑んでいる人間や花の絵を描くだろう。
セシルはそれをしなかった。

灰色で塗りつぶされた太い枠。その中は紫色に塗りつぶされた、ほの暗い空間がある。
その中央に立っているのが、おそらく私。真っ赤な丸っこい肉体をして、黄色の王冠を頭に乗せている男の姿だ。
まるで血まみれの死体のような配色に、私はぞっとした。
セシルは私をめった刺しにして、このような姿にさせたいのか。
そして、真っ赤な惨殺死体のような男の足元に描かれているのが、おそらくセシル自身。
死体にしがみつく悪鬼のような黒色の影だ。

自閉症の子供が描いたような絵だ。
セシルが私を殺したいと思っているのだろうか。そんな風に思われるようなことはしていないはずだ。(まだ)
私の醜い欲望を、敏感に感じ取り、絵の中に表現したのだろうか。
いや、そんなことはない。断じて。
多分、私の体が赤いのは、身につけているローブが緋色のせいだ。子供の観察眼などそんなものだ。

しかし、あまりの不気味さに、セシルには視覚検査を受けさせた。
精神科医を呼びつけ、200項目におよぶカウンセリングを受けさせ、色覚異常、視力なども綿密に調べさせた。
そして、医者が判断した結果はこうだ
「セシル様が花や森を描かないのは、それを見たことがないからでしょう。灰色の石作りの塔にずっといたのでは、花がどんな色をしているのか知らなくても仕方がありません。外へ連れ出して、同年代のお子様方と遊ばせてみれば、すぐに子供らしい絵をお描きになれると思いますよ」

これは盲点だった。
セシルがいつも灰色のクレヨンを使っていたのは、石作りの部屋を描いていたからだった。
私はセシルを外へ出したくないと思っていた。他人の目にセシルをさらしたくなかったからでもあり、セシルに城以外の世界を見せたくないと思っていたのだ。
何せ、あのクルーヤの血を引く子供だ。
ひとたび外へ飛び出せば、恐ろしいほどの功績をこの世に残すであろう。
私はセシルに創造的な力を与えたくなかった。
素晴らしい才能を持ったクルーヤの子供に、その力を発揮する場所を与えず、人生に何の結実もさせず、ただ、私の快楽の鞘として飼い殺しにすることで報いたいと願っているからだ。

しかし、私は苦悩の末、セシルを外へ連れ出すことにした。
遅かれ速かれ、城の外へ行きたいと懇願されるのは目に見えているものだ。本物の奴隷でない限り、一生狭い塔の一室に閉じ込めておけるはずもない。

セシルに森や川を見せるために、馬を用意した。黒毛のたくましい馬だ。
セシルの白い肌がよく映える。セシルは初めて見る馬に興奮し、恐々と、それでいて大胆に背中に飛び乗った。
私はその小さな背中を支え、手綱を引き、馬を走らせた。

馬の振動に合わせて揺れる小さな体。
私はセシルが馬から振り落とされないよう守る、というもっともな理由により、セシルの体に手を這わせた。
それは他人から見ても全く自然な光景だった。

なぜ、私が他者の目を気にするか。王であるこの私が他人を気にする理由。
セシルが私のしていることに疑問をもつことなどありえない。
この子は何も知らない。誰もこの子には教えない。そして、私は、まだ、何もしていなかった。
セシルは世界に大して、全く潔白であった。
そして、それを世界の全ての人々が認識しなければならないからだ。

セシルを外へ連れ出したのは正解だった。
セシルの精神を健康に保ち、セシルの瞳を輝かせることができた。
最も大きな収穫は、馬に乗ることで、セシルの体を所有する権利を獲得したことだ。
馬上で、セシルの生命は完全に私の管理下にあった。
私は苛まれ続ける強烈な欲望、燃え盛る性欲の炎を宿しながら、この子の純潔を守っているのだ。今はまだ。

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