★剣の舞★

セシルに対する一つの目論見。
俺はセシルに剣術の特訓をつけ、剣技を上達させて、竜騎士団に入団させようとしていた。
竜騎士団の宿舎で一緒に暮らすことができれば、陛下との生活を終わらせることができると思ったからだ。

セシルはどんどん剣を扱うのがうまくなった。
剣技の大会では決勝戦に勝ち残れるくらいには上達した。
剣が交わる。
俺は何度も攻撃を仕掛けるが、セシルは俺の剣先を器用に交わした。
俺にはない柔軟性。力の無いセシルは、最小限の動きで攻撃を交わす術を覚えた。
しかし、それは剣術と呼ぶにはあまりにも軽やかで、ダンスステップを踏んでいるように見えるのだ。
王族が退屈を紛らわせるために遊んでいるかのように。

セシルは何もわかっていない。
剣がこれから先の生活にどれほどの力を与えてくれるか。
力を付ければ自由になれる。
セシルは自由の価値を理解していない。
だからセシルの剣は無邪気ですらあった。
セシルにとって、俺と剣で向かい合うことは戯れだった。
勝ち残るという覇気が無いのだ。
生き残るためなら、汚い手段さえ使うという考えすら思い浮かばないだろう。

俺は、セシルを見るために、大会に姿を見せた陛下の方をちらりと確認する。
豪華なソファに腰をかけて観戦している。
見せてやるさ。
陛下にも、セシルにも。
本物の殺意というものを。

俺はセシルの突きを交わすと、一気に踏み込みセシルの剣を跳ね飛ばした。
セシルの手から剣が落ち、床に転がる。
勝負あり、誰もがそう思った。だが、俺の勝負は終わらない。
頭がおかしくなりそうなほどの独占欲に燃え上がった俺の目は、憎しみに似ていた。
セシルが俺の目に射抜かれ、怯えた目をした。

さぁ、この瞬間。セシルの命を手にしているのは俺だ。
バロン王、お前じゃない!

そこで、教諭が止めに入った。
俺の剣は教諭の短剣に阻止され、セシルの命は救われた。


剣技大会が終わると、俺はセシルを連れて学校の中庭に出た。
「セシル、さっきのは本気じゃなかったろう?」
セシルはいつものようにニコニコしながら応えた。
「本気だったよ?カインはやっぱり強いな」
のんびりとそんなことを言っている。
「次は俺を殺す気で来い」
強い瞳で睨むようにセシルを見る。
セシルはまた怯えたような目をし、愛想笑いを浮かべながら、どうしたんだ、いきなりと後ずさりをする。
「剣の実力が騎士の全てだ。剣技を磨いたなら、お前だって竜騎士団に入れる。一緒に竜騎士団に入ろう。そうすれば、俺が正式にハイウィンド家の当主となって、お前の後見人になれる。もう陛下とあんな生活をするのだって終わらせられるんだぞ」
セシルはびくっと体を震わせた。
「カインは、誤解しているよ。陛下との生活は嫌じゃないよ。むしろ感謝しているくらいだ。陛下が兵学校に入れてくれなかったら、君に会えてすらいなかったじゃないか」

セシルは目を伏せる。長い睫毛には涙がたまっていた。
俺はたまらなくなって、セシルを木に押し付けると、キスをしてしまった。
唇の柔らかい感触。
セシルが驚いたように顔を上げる。

セシルの瞳が好きだ。
すみれ色の瞳。
セシルをもと居たところへ帰してやりたい。
光を。自由を。

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