★招かれざる客★

セシルは再び任務へと経った。
次の愉悦の時間まで、また一か月。お預け期間が長いのは頂けないが、その分、セシルの行為は大胆になるから、待っている甲斐もある。

私が執務室で仕事をしていると、突然一人の男の姿が現れた。
黒い甲冑を身にまとった、えらく身長の高い男だった。

「お目にかかれて光栄です。閣下」
彼は片膝をつき、私に敬意を示した。しかし、その態度はどこまでも尊大で、むしろ私を見下しているように見えた。

「なんだ、貴様は。どこから入ってきた」
私は彼を睨みあげる。
「随分な態度をおとりになるのですね。私はバロンの繁栄のために訪れたというのに」
甲冑から覗く、単眼が、私を射ぬく。何を企んでいるのか。
バロンの繁栄だと?

彼は暗黒騎士の話をし出した。
古より、遣わされた悪魔の騎士団。バロンで最も強大な力をもつ暗黒騎士。
しかし、暗黒騎士になるには、体に暗黒の杭を差し込み、体を巡る気に瘴気を流し込まなければならず、あまりの苦痛に絶命する者も多く、結局は廃止となったのだ。
それを今更復活させようだなどと。

暗黒に関する資料は、バロンの地下所蔵蔵に封印されていて、取り出すことはできない。
暗黒の鎧を兵士に打ち付ける技術を持つ魔道士はもはや、バロンには存在しない、と切り返す。
「私はその施術を行うためにここまで参ったのです」
おぞましいことを平気で言ってのけた。

真っ黒な小手に包まれた右手を上げ、暗黒の正気を呼び出す。
禍々しい黒と紫の球が手に現れた。ぞっとするような寒気が私の皮膚に走った。

「そのような力をどこで手にしたのだ。貴様、ミシディアの者か?」
私は怪しげな男の出身を問いただした。
男は否定した。この技術は独自に編み出したものだと説明した。
こんな危険な技を使われるのは困る。この男、始末した方がよいのではないか。
バロンの敵になり得る可能性は?

「バロンの軍事力を高めようとするのは大いに結構だが、もう戦乱の時代は終わったのだよ。一体、誰を相手に戦おうというのかね」
私はさも呆れた、というように、問いかけた。
「近頃、モンスターの発生が著しくなっています」
バロンの周辺を守るだけでなく、他国の周辺も守ることができたら、全世界の安全を守るという口実の下、バロンは世界政府となることができます。
おとぎ話に出てくる世界征服の話をし出すではないか!

「募集を懸けても、暗黒騎士に志願するものなど、いないだろう」と私は話を切り上げ、その男を去らせるように、邪険に手を払った。

男は今までの尊大さが嘘のように、大人しく踵を返した。
しかし、去り際に一瞬こちらを振り返ったのだが、その時の顔が、クルーヤに見えたのだ。
甲冑で覆われていた顔のはずが、生身の人間、しかもクルーヤに取って代わるなどと!
私の脚は震え、しばらく動くことができなかった。

「また参ります。閣下」
既に扉かから出て行ったというのに、私の頭の中には、彼の声が響き、いつまでも木霊した。

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