★ラ・メロディ★

野営中のコテージから少し離れたところで、ギルバートは竪琴を奏でていた。
新たな仲間との出会いは、ギルバートの心に明るい光を投げかけた。
しかし、このような薄闇の森の中に入って行くと、アンナと過ぎし日が思い起こされ、ギルバートを憂愁の中に誘った。
竪琴からはアンナとの思い出の曲、そして、アンナの不在を嘆く曲が流れた。
美しい旋律、しかし、その響きはもの悲しげだった。

ギルバートはしばらく、物思いにふけりながら、竪琴を奏でる。
そこに、小さな足音が響いてきた。
足音はギルバートの前で止まった。
視線を落とし、演奏に熱中していたギルバートは、はっとして、顔を上げた。
そこには、リディアが立っていた。
「・・・リディア・・・どうしたんだ、眠れないのかい・・・?」
リディアはあさっての方を向いて、鼻歌を歌っている。
聞いたことのないメロディだ。

「違うのよ。その曲じゃないわ」
突然、リディアはギルバートの方を向いて言った。
ギルバートは演奏する手を止めて、小首をかしげる。
「あたしが聞きたいのは、そんなじめじめしてカビが生えそうな曲じゃないの。」
ギルバートを責め立てるようにリディアが言う。
「ねぇ、吟遊詩人さん。あたし、どうしても思い出せない曲があるの。そんな憂鬱な曲ばっかり奏でていないで、思い出すのを手伝って下さらないかしら」
つるんとした幼い眉間にしわを寄せ、難しい顔をしてギルバートに問いかけるリディア。
ギルバートはリディアの真面目くさった可愛らしい顔に微笑を浮かべた。

「こういう感じの曲だったと思うわ」
タラララ・・・とリディアは歌った。
聞き覚えのない曲。
ギルバートは即興で旋律を奏でる。
響いてきたメロディに、リディアは首を振った。

ミストの村で母親から聞かされた曲。
人間の世界で幻獣の歌を歌うことをよしとしなかったミストドラゴンは、誰もいない時にだけ、リディアに歌を聞かせていた。
滅多に聞けないその曲を、リディアは覚えていなかった。

「その曲はあたしを力づけてくれるものがあったわ。あぁ、ママ、どうして忘れちゃったのかしら。あんなに素敵な曲だったのに」
ピンク色の頬をぷぅっと膨らませて地面を睨んでいる。
ギルバートはまた違う音を奏でた。
先程リディアの歌った、聞いたことはないが、何か懐かしい気持ちを起こさせる魅力的な歌を再現したかった。

「う〜ん。やっぱり、違うわ。もっとこういう感じよ。タラララ―」
渋面を笑顔に変えて、リディアが歌い出す。
ギルバートも負けじと音楽を奏でる。
薄暗い森の中に、リディアの笑い声が響く。

しばらく音楽を奏でることに夢中になっていると、リディアの声が止んだことに気が付いた。
リディアはギルバートにもたれかかって眠っていた。
ギルバートは、リディアの髪を一撫でし、頬笑みを浮かべると、リディアを抱きあげ、コテージまで運んだ。

★★★★★★
珍しく生きている人間を相手にするギルバート。
ヴァネッサ・パラディのラ・メロディを聞いて妄想。

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