未確認的彼氏。(四)






「だ―――!! いってえ……っ!」
 みんなが去った後。誰もいなくなった途端、龍流は手を押さえてわめいた。
 ったく、見栄張るから。
「大分深く切れたんでしょ。かっこつけて」
 しゃがみ込んで右手を押さえている龍流に、ハンカチを渡す。
「何だよー。水鳥はあのまま髪切られてもよかったのか」
 よくないけど。
「治せそう? 大丈夫?」
 あたしの言葉に、龍流は困った顔をした。
 もお、しょうがないなあ。
「いいわよ。摂りなさいよ」
 言葉の意味するところに気付いて、龍流は、いいの? と呟く。
「元はといえば、あたしの所為だし。みんなに幻影見せて暗示掛け直したから、足りないんでしょ?」
 申し訳なさそうに頷いて、龍流はハンカチをあたしに返した。
 龍流の血で碧に染まったハンカチをコートのポケットにしまい、あたしはおさげ髪を解いた。
 髪の毛先を手に取った龍流の瞳が、暗い碧から輝く碧へ。
 見慣れたメタリックグリーン。
 身体の内側から色が溢れるような碧の発光は全身に渡り―――、
 ぱさりとあたしの髪が流れ落ちる。
「……もういいの?」
「充分。ありがと、水鳥」
 5センチほど短くなった髪を背に払い、あたしは微笑う。
「治った?」
「うん。ほら」
 一筋の傷もない右手をあたしの目の前で振って、拳を握る。
「でも、しばらくは包帯でもしておかないと。不審に思われる」
「そうよ。気を付けてよね、フォローするのも大変なんだから」
「感謝してますって」
 言ってから、龍流は可笑しそうに笑った。
「なあに?」
「地球人は単純で助かる。あんな簡単な暗示がすぐ掛かるんだもんな」
 む。
「その地球人の私に向かってよく言うわね。誰のお蔭で此処で暮らせていると思ってるの」
「はいはい。事故に遭った僕達を助けてくれた、水鳥のお蔭だよ」
 誠意が感じられない。
「……どうして、他の人は掛かるのに、あたしは効かないのかしらね?」
 暗示に幻影。
 みんなが黒髪、黒瞳に見えている龍流の外見も、あたしにはそのまま、銀が混じったような碧に見えている。
「稀にいるんだ。暗示が効かないない人も。それが水鳥でよかったよ」
 地球人の毛髪を超能力の糧とする、宇宙生まれの幼なじみはそう言って。
 ふうん?
「何でよかったの?」
 碧に輝く龍流の瞳を見上げて、意地悪く訊ねる。
「特別だし……」
「特別って、どう特別?」
 龍流はちょっとつまって、宇宙を見上げ、やがて言った。
「もう郷星に帰れなくてもいいくらい、特別だよ」
 ふふん。
 降参の笑みを浮かべる龍流に腕を絡め、あたしも微笑んだ。
 そういうことなら、郷星に帰れない可哀想な龍流のために、ずっと髪を伸ばしててあげよう。
 ……面倒だけど、それくらい、好きよ。



*END*

高校時代に書いた若気の至り作品1(2はACT.0)。
何度も削除しようと思いつつ、これも歴史……と羞恥プレイを続行します。
書いた当時ほとんどそのまま、いま目を通すともっと描写できるだろと思うのですが、これも歴史と……(二回目)。
これをさらに中二使用にしたお話がベルベットになります。
成長……してねえ!
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