幼なじみと、

あたしと、

噂。

未確認的彼氏。
未確認的彼氏。




 小学校生活もあとわずか、の2月。
 誰が言い出したんだかわかんないけど、『6年2組二ノ宮龍流は人間じゃない』というウワサが、我が学年に流れた。
 火のない所に煙は立たずって言うけど、ずいぶん突飛よね。
 龍流と二人、それを聞いた時大笑いしたもんだけど、そーやってあたし達がウケている間に、『二ノ宮龍流 人外説』はどんどん広まっていき、現在、全校生徒九割が知る所となっている。十割になるのももうすぐだろう。
 当事者の龍流も、クラスメート兼幼なじみ兼お隣さんという、長ーーい肩書きを持つ私も、あらあらあら、という感じ。
 ホントにみんな、何考えてるんだろーね。


「退屈してるんだよ、みんな。ようするにさ、卒業前の一騒ぎってとこかな」
 放課後の図書室。隣に座って、あたしの髪を弄りながら、苦笑まじりに龍流が言った。 腰以上あるあたしの長い髪を、指にくるくる巻き付けたり、もつれているのに気が付いて、手で梳いたり。
 あたしの髪を弄るのは、龍流の昔からの癖なんだけど、傍から見たら、ただイチャイチャしてるよーに見えるんだろうなあ。
 ほらほら、隅っこのほうで龍流のファンの子があたしを睨んでる。
 いーかげん慣れたけど。
 あたし、市瀬水鳥の幼なじみ、二ノ宮龍流はすこぶる顔が良い。
 あと数年して少年から青年になったら、予想に違わずイイ男になるだろう。
 さしずめ今は美少年。
 その美少年にいつもくっついている(どっちかって言うとくっつかれているんだけどね)あたしという存在は、女の子たちにとって邪魔者以外の何者でもない。
 人間じゃなくてもファンはいるんだー?
 なんて思ったりして、吹き出したあたしを龍流が怪訝そうに見る。
「何だよ? 水鳥……」
 言いかけてふと、髪を弄っていた手が止まり、龍流は背後を睨んだ。
 ? ?
 龍流の視線を追って見ると、ありゃりゃ。これはヤバイ。
 本を小脇に抱えて、これまた険しい顔をしたクラスメイトの理一くんがそこにいた。
 何故ヤバイのかって言うとですね。
 この二人は、いわゆる犬猿の仲って言うヤツで。
 寄ると触るとケンカになるんだよねえ…。
 殴り合いのケンカなら、引き分けに終わるんだけど、舌戦になるともう…収拾がつかないっての? 誰も止めなきゃ世界の終わりまでやってると、あたしは確信している。
 女子の間ではbPを争う人気の二人なんだけど、ケンカをしている時はただの子供だ。
「よう。読書か、リーチ」
「ああ。そっちはお勉強か」
「日向ぼっこだよ」
 ………皆様にはわからないかもしれませんが、以上の会話はとっても険悪な雰囲気の中でなされています。
 ヤバイ。ヤバイわ。
 ふ、二人ともさりげなく拳を握るのはやめなさいって。
「水鳥ちゃん、気を付けたほうがいいよ。こいつ人間じゃないらしいから」
 あたしは何と答えていいものやら、ちょっと笑った。
 うーん、別の意味でとって食われるかもしれないけど、頭からパクリはないだろう。……たぶん。
「僕が人外っていう証拠でもあるのかよ、リーチ?」
 龍流がこれ以上はないって言うくらいの冷ややかな視線を向けたまま、ゆっくり立ち上がる。
 きゃーっきゃーっきゃーっっ。
「た、龍流っ。そろそろ帰ろっか、暗くなると怒られるしっ」
 今にも殴り合いを始めそうな二人の間に割って入る。
 龍流はちらりと私を見て、しょうがなさそうに「ああ」と言った。
 ま、まったくもおっ。
「それじゃあ理一くん。ばいばいね」
「うん、また明日。水鳥ちゃん」
 にこっと微笑って、理一くんは手を振ってくれる。
 それが気に入らなかったらしい龍流が、ぐいっとあたしの肩を抱いて、利一くんを睨んだ。
 あああああっ。
 再び冷たい戦争が始まるかと懸念したが、そのままあたしを引っ張って、一言。
「行くぞ水鳥」
 ……どこまでもGOING MY WAYよね、あんたって。
 龍流にバレないように、理一くんにそっと手を振る。
 あたし達は図書室を出た。


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