花と彼のそこへ至る顛末。(六)


花の母が稽古を終えて発見したのは、ずうずうしくも跡取り息子の部屋に上がり込みおやつを頂いている娘の姿だった。

恐縮する母に彼は気にしないで下さいと微笑み、お邪魔しました! と元気よく告げた花には、またいらっしゃいと頭を撫でて。


「――“お兄ちゃん、しゃこうじれいとか子どもには通用しないから気安くそんなこと言っちゃダメだよ、マジでエンリョなく来るからね”なんて、当の子どもさんから諭されるとも思ってませんでした」

ふふふ、と綾にとっては微笑ましい幼い花との思い出話を、花にとってはいたたまれないガキんちょの頃の話で会話が弾む。否、弾んでいるのはお一人様だけのようだったが。

何の罰ゲーム、何の罰ゲームこれ、と振袖の下で冷や汗を流す花。

「僕より年下の子は親戚にもいなかったので、花さんとお話しするのは楽しかったですよ。暇にしていましたし」
「綾さん引きこもりでしたもんね〜……」

その整いすぎた容姿のせいなのか、綾は極端に外へ出ることを苦手としていた。
彼女が孫息子と仲良くなったのを知った妙が、引っ張り出して頂戴、と小学生の花に頼むくらい、そりゃもう。

彼が外出するのは通学と家の用事でのみといった徹底の仕様だった。

後をつけられたり、隠し撮りされたりするから面倒だったんです、とは綾の言。
確かに、コレは逆ナンするとかいう対象じゃないなぁ、と未だ額に入れて飾っておきたい美貌を誇る男を改めて眺めた。

あと数年すればオッサンだという年齢なのに、この人の新陳代謝どうなってるんだろう、と崩れた様子もない額から顎にかけてのすらりと流れる輪郭や、一重の奥の黒々とした濡れた瞳をマジマジ観察する。

まばたきもしない花に見つめられた綾は、身を屈め――



「――ってオイ!」

危ういところで接触事故を回避した花は、仰け反りながら綾の腹にゲンコツを叩き込む。
拒否されて初めて気付いたように、綾は目をパチクリさせた。

フンワリ微笑んで。

「誘っているように見えたので、つい。」

 なにをどこを見たらそうなる!

何だかさっきからアヤシイ言動がチラホラ見栄隠れする見合い相手から距離をとりつつ、花は話題を変える。

「そう言えばー、綾さんは今何をしてらっしゃるんでしたっけー?」
「サラリーマンですよ?」

うっそでぇ、と疑いの眼で振り返った花に、さっきの母の話をちっとも聞いていなかったんですね? と綾は笑んだままの眼で言う。

「学生の頃稼いだお金で、店を持っていた友人に出資して、……立場的にはオーナーということになるのかな」

 ――というフラワーショップ、ご存知ですか? と、この辺りではわりと知られた花屋の名前を綾は告げた。




 

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