花と彼のそこへ至る顛末。
花と綾とトコロテン
「りょうちゃんはね、芸能人にでもなったほうがよかったと思う」
上手く箸で掬えないトコロテンに苦労していた花が、真面目な顔で頷いた。
かなり年下の友人である彼女の脈絡のない唐突な発言に慣れていた綾は、疑問を示すために首を傾げる。
「その無駄にきれいな顔が生きる道はそれしかなかったと思うの。デビューしてたら今頃ハリウッド進出だよ! うん、今からでも遅くないかも!」
真剣に考え話してくれる花には悪いが、肝心な要素が綾に抜けていることを忘れている。
すなわち、芸能界とはサービス業。
サービス心をまるきり持ち合わせていない綾が、そんな業務に就けるわけがないということを。
第一、他人の視線が煩わしくて半引きこもりを貫いているのに、常に誰かに見られる立場になりたいわけがない。
子どもの単なる思いつきの話でも、自分がその気になれば戯言でなくそうなれるだろうことも、自信過剰でもなく分かっているが――やる気出すのめんどくさいし。
お姉ちゃんから芸能活動の情報を仕入れてこようか! とはりきる花をやんわり宥めた。
「芸能人になんてなってしまえば、花さんと遊べなくなりますから」
ね? と彼女の空になった器にお代わりをよそってやる。
意見を却下されたのが不満だったのか暫く唇を尖らせ、微笑む綾と器のトコロテンを交互に見ていた花だったが――やがて納得して笑顔になる。
「そうだねっ。りょうちゃん引きこもりだもんねっ。でも、生徒さんにアイソ笑いの一つくらいしても顔は減らないよ? そしたら生徒さん増えて妙先生ももうかるよっ」
子どもじみた思い付きを口にするかと思えば、どこから仕入れてきたんだかな世知辛い発言をしたりする。
どこまで意味を分かっているのだか、たぶん綾よりひとつ上だとかいう姉の影響だろうが。
「着物きてメガネなんかかけちゃったりするとマニア受けしていいかもね!」
無邪気極まりない笑顔でそんなことをいう少女。
やっぱり花さんは面白い、と綾はにっこり微笑んだ。
<終。>
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