flowery flower
好き
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「好きだ」
たった数語の音が、こんなにも胸を騒がせるのは何故だろう。
聴く自分に理由があるせい?
それとも発した相手のせい?
立ち止まった私が何も反応しないからか、椿はもう一度言った。
「好きだよ」
気負っていたものがプツリと切れ、足の力が抜ける。
「伊万里?」
ペタンと地面に座り込んでしまった私に驚いて、椿が慌ててこちらへ駆け寄ってきた。
「今頃足に酒がまわったの?」
腕を引き上げながら、可笑しそうに言って。
まだ足が震えてしっかり立つことが出来ない私を、椿の腕が支える。
「……ビックリしたんだよ! なに、急に、イキナリ…っ」
動揺しまくりの私は、椿がさりげなく肩を抱き寄せたことにもあまり意識がいかなかった。
好きだと言った椿の声が頭をぐるぐるして、驚きすぎた心臓が激しく跳ねている。
「今日を逃したら、また長々待つことになりそうだったし…」
そう呟いた椿が背中に手を回してきて、足がまだガクガクしていた私は引き寄せられるままその胸にもたれかかることになって。
な、情けな……!
告白されたくらいで、こんな―――、
……え?
『好きだ』
って、言った?
いま、そう言ったの、椿?
私の、聞き間違いじゃないよね――?
目の前にあるスーツの胸元をギュッと両手で握る。
「……それ、俺は期待していいの」
クス、と耳元で笑う椿の声に、ムッと唇を結んだ。
なに余裕かまして……、
言い返そうとした私の手に椿の手のひらが重なり、
「……期待して、いいの……?」
その声と手が震えていることに気付く。
見上げると不安げな瞳とぶつかり、暴れだしたいような衝動が込み上げた。
私の唇から勝手に言葉が転がり出る。
「――好き」
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