flowery flower
*花屋にて
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「伊万里さんて、僕の婚約者に似てるんですよね」
花枝を弄びながらフフと微笑んだオーナーに、私は背筋が寒くなった。
ほら、そういうところ、と更に笑みが深くなる。
気をつけていたつもりなのに、いやぁな顔になっていたらしい。しくじった。
「僕の彼女も、僕が言うことにそうやって楽しい反応してくれるから、つい」
つい何ですか。
いや強いて聞きたくはないですが。
てゆうか今の“僕の彼女”のニュアンスって、マイラバー(僕の恋人)じゃなくてマイン(僕のもの)って感じで、さぞその婚約者さんは苦労してるんだろうなぁとか他人事ながら同情しちゃいますよ。
何しろこのめったに姿を見せないうちのオーナーときたら、ルックスはマル、代々続く華道家の御曹司、物腰柔らか、パッと見の印象だけでいうなら、極上優良物件なのだ。
あくまでも、見た目だけ。
実質その内訳ときたら変人奇人ヘンタイセクハラマシーンだし。
彼女が私と似てるって言うなら、この人の本性知ってるんだろう。
お願いします、見知らぬ婚約者さん我々の平穏のために大人しく生け贄になってください。申し訳ありません、いずれお供えに参ります。
心の中で婚約者さんに手を合わせていると、店に並んだ花にも負けない麗しい笑みを彼が浮かべた。
「伊万里さん。ダダモレです」
はっ、私の正直者ー!!
ベチベチ頬を叩いて、ニッコリ営業スマイルをオーナーに向ける。
「そのうち紹介してくださいね、仲良くなれそうな気がします」
「でしょうね。本当は家に閉じ込めて僕だけで愛でていたいんですが、伊万里さんならまあいいでしょう」
サラリとおかしげなことを言わんでください。
ウロンな目付きになるのを、鉢植えの花殻をとることで誤魔化す。
「貴女の彼も、僕と似たようなタイプみたいですし――」
ちょ、一緒にしないでくださいよっ。
そりゃまあ、ニコニコしながら毒舌吐いちゃったりするけど、うちの椿はどこに出しても恥ずかしくない好青年ですよ!
ストレス溜まると言動がおかしくなるけど。
ヤキモチ焼きで、構いたがりの束縛したがりだけど。
…………あれ?
「ふふ、睨んじゃって楽しいですねぇ」
は? 何が――、
言葉の通り愉快げにクスクス笑うオーナーの視線の先に。
じ、とガラス越しに真顔でこちらを見つめる我が恋人がいた。
ギャ――――!!
笑顔なのに目が据わってるし椿ぃいいっ。
慌てて側に寄ると、貼り付いた笑顔のまま、首をかしげる。
だから、目が笑ってないし!
「……ランチ一緒にできるかなって、散歩がてら寄ってみたんだけど」
「あああうん、あと15分くらいしたら店長戻ってくるからっっ」
「伊万里さんの御友人ですか。彼女にはお世話になっています」
てめえ出てくんなッ!
しかも変なニュアンス含めた挨拶すんなっ!!
「オーナーさんだったんですか。ということは、我が社の――」
「ああ、ヒヨウの方なんですね。それじゃ、あの――」
……表面上は大変仲良さげに、笑顔を振り撒きながら会話する青年二人。
精神衛生上悪そうなその光景を、なるべく視界に入れないようにしながら、私は心の中で詫びを入れた。
婚約者さんっっ、アナタの苦労はものすごおおおぉく、他人事ではありませんでしたっっ!!!
おわるorz
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