flowery flower


* CAMELLIA
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ただいま、と玄関に入るなり、先に帰っていた椿に押し倒された。
突然のことに瞬きする私の耳朶を椿の唇が噛む。

えっ、えっ、なにー?

何かを抑えた低い声が、耳に吹き込まれる。

「……ねえ伊万里。今日、一緒にうちに来た男、誰?」

「え、椿、あの時いたの?」

「だれ」

にこやかだけど、笑ってない目でそのまま足を広げられて。

「や……っ、本社の、アレンジメントの、んっ、やぁ……ッ」

指、が、



―――
――――――



「伊万里ちゃん、彼氏できたんだってー?」

花器にざくりざくりと一見無造作にも見える動きで花材を活けていた篠宮さんが唐突に口を開いた。
次に渡す花枝を持っていた私は、イキナリの問いかけに考える間もなく「はあ」と間抜けな声を返す。

「へえ、ホントなんだ。どんなヤツ?」

「え〜……、どんなって言われても、フツーですよ? 仕事が出来てかっこよくて可愛くて優しくて甘い彼氏です」

言っているうちにノロケになってしまったような気がするが、嘘じゃないので仕方がない。つい思い浮かべた椿の笑顔に頬が緩む。

それを見た篠宮さんに、盛大に吹き出されてしまった。

「って、凄いベタ惚れじゃないか。あ〜あ、伊万里ちゃんも他人のものか」

狙ってたのにザンネン、と軽く言う篠宮さんはアレンジメントの腕は抜群によいが女たらしとうちの社で評判のひとだ。

「あっはっは、私、一途なひとが好みですから篠宮さんは超対象外です」

超、というところに力をいれてそう言うと、苦笑が返ってくる。

「花で例えるなら、どんな?」

そう聞くのはやっぱり職業柄だろうか。

花。花かぁ……、

「やっぱり、椿、かな」

名前がそうだからじゃなくて。

なんとなく、まだ寒さが残る春の日差しに、鮮やかにポツリと咲くどこか孤独な花姿を思い浮かべた。

「控えめな愛、ねえ……。そういう感じ?」

ニヤニヤと笑われて、ん? と首を傾げる。

控えめ……?






「やっ、あ、ぁ……ん……ッ!」

「うちの職場で他の男といちゃつくなんて、伊万里は俺をどうしたいの」

「い、いちゃ、ついてな……っあ、あ、」

全く、俺以外にあんな顔して誤解されるでしょ、とあくまでも言葉は穏やかに私を責めて、嬌声が悲鳴混じりになる。




全くもって、椿の愛が控えめじゃないことを身を持って再確認した一夜のこと。



* 椿の花言葉 *
〜控えめな愛〜慎しみ深い



 

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