flowery flower


彼とわたし(1)
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『 今日、ご飯食べに行ける? 』



就業間際、届いたメールに了解の返事を返す。そうして掃除の続きに戻ろうとした私は、うふふと不気味な笑を漏らす店長に後ろから抱きつかれた。

「イマちゃんたら〜、にまにましちゃってぇ、例の彼氏からラブメールぅ?」
「にまにましてませんよっ、あと彼氏じゃありませんから!」

言い返すと、店長は両手で頬を押さえて、うっそぅおぉ〜、とオーバーリアクション。

何でですか。

「だっていっつもお客さんの告白、完璧な営業スマイルで断ってたイマちゃんが、あの彼だけ特別扱いじゃない? メールアドレスしっかり交換しちゃってさ〜」

「あっ! それって以前おっきな花束注文して下さった優しそーな会社員ふうの人ですよね? やっぱり付き合ってたんだ、いいなぁ〜」

店長に便乗して脇からバイトの早貴ちゃんまで話に混じってきて。

てゆうかやっぱりってナニ。

「ときどきお花も買っていってくれるよね。イマちゃんが遅番のとき。でもってそのまま一緒に帰ってるでしょ?」

ううっ、バッチリ見られてるー!
だって、危ないから送っていくよって言われたら、断れないんだもん。
穏やかで、いつもにこにこ笑顔で、意外と押しが強いんだよ、彼。

「あれはどう見てもカップルの雰囲気だよ〜?」
「すっごく自然でいい感じですよね!」

ニヤニヤと、二人がかりで冷やかされた私は照れもあり、ついムキになって怒鳴ってしまった。


「っとにかく、彼氏じゃありませんから!」


言い切った瞬間、“あ、ヤバい。”なんて顔をした二人が目に入って、私は後ろの気配にようやく気が付く。


……うん、ウワサをすれば影? そういうこと?
振り向かずとも、何だか展開が見えたような気がしますよ?

かといって、知らんぷりをする訳にもゆかず、そろりと肩越しに首を回らせると。

無表情から目が合った途端、ニッコリ微笑むスーツ姿の青年が――……彼が、いた。




彼――椿は、私の小学校時代の同級生だ。

小五の終わりに突然、家の都合で転校していったから、卒業アルバムにも載っていないけれど。


その彼と十二年ぶりに再会したのは二ヶ月前。
偶然に椿が、私の働いているこの花屋に来たのだ。


すぐに、わかった。
すっかり大人になって、あの頃の面影が残っているのは穏やかに微笑む瞳くらいで。
なのにどうして分かったのか。


――それはと言うと。

当時活発すぎるほど活発だった私は、女の子より男の友だちの方が多く、常に彼らと外で暴れまわっているようなタイプで。
でも、椿はどちらかというと教室の隅で本を読んでいたりする少年だったから、同じ学年クラスと言えども、私との接点はほぼなかった。

ただ、彼が居なくなる少し前、園芸委員の仕事を一緒にしただけ。

それも最初、園芸委員なんて面倒でやってられっか、とサボっていて。
だけど何も言わず、椿は黙々と自分の役目をこなしていた。
ある日、そうして花壇の世話をしている彼に出くわして、反省した私が手伝う――いや、真面目に委員の仕事をし出すまで。

時間にすれば半年。ほんの、数ヶ月。
その短い間に、私は彼に多大な影響を受けたことになる。

こうして彼の植物好きが移って、花屋という職を選んだ私がいるのだから。


……実を言うと、初恋の相手だったりもする。



「ごめん、お待たせ!」

帰り支度を終えて裏口から出てくる私を、柔らかく微笑んで見ている彼。

その手には小さなブーケ。いつものごとく、終わりかけに彼が購入したものだ。
訊いたことはないけど、たぶん家にでも飾るんじゃないかな。

男性には珍しく、彼は花が好きだと躊躇いなく言える人だから。

昔は私より花に詳しかった。
花の名前とか、花言葉とか、彼に教えてもらってたぐらいだし。


「今日はどこに行く?」
「何か無国籍な気分なんだけど」

彼が勤めている会社とうちの花屋は近く、こうして仕事帰りに一緒にご飯を食べに行くことも、習慣になりつつある。

最初は懐かしくて。
偶然の再会が嬉しくて。

十二年のブランクなんてないみたいに、話せるのが楽しくて。

居心地のいいこの関係を壊したくなくて、あまり、考えないようにしてたのに。


店長たちから彼氏だ彼氏だと断定されて、ちょっと意識してしまう。


……友達なら、食事に行くくらい普通だもんね?
そう、自分に言い訳してたのに。


「――彼氏じゃないって、誰のこと?」

突然、隣を歩く彼にそう聞かれて、私は硬直してしまった。




 【問1】
 最近仲の良い彼とのことを知人に冷やかされ、否定している現場に当の彼が居合わせたら、アナタはどうしますか?



――彼氏じゃないって誰のこと?

じっと返事を待っている彼に、私は戸惑う視線しか返せない。

『お前のことだよ〜、最近良く会ってるから誤解されちゃってさ〜』

そう、軽く言っちゃえば良いのに、もしものことを考えると、怖くて言えなかった。


もし、彼が私のことを何とも思ってなくて、そんな誤解は迷惑だと思われたら。

もし、彼が少しでも私を好いていてくれてるのに、否定しちゃったのを誤解して、離れて行かれたら。



――どうしよう。

だって、私は。


――運命みたいな偶然で、君に再会出来たことが嬉しかった。

これからも、会いたいって思ってるのに……。


幼いころの初恋が、いま、自分の中でどう変化しているのかはっきりとは解らないけど、

たぶん、
私は椿のことが―――、


「……ごめん、俺が詮索するようなことじゃないよね」


え?

私が言葉を選んで無言でいるうちに、ふ、と苦笑めいた溜め息をもらして、彼はそこで話を終わらせた。

いつもの笑みを浮かべ、今日はどこで食べる? と普段の会話に戻る。


え、あれ、ちょっと待って……。

関係ない、なんて線を引かれたみたいで、ズキリと痛くなる、胸。
再会してから週に一度、ううん、多いときは三度、待ち合わせて、食事して、送ってもらって……、

そうゆうの、嬉しくて、肝心なこと忘れてた。


私にとって彼は初恋の相手、
そして今、好きになりかけているひと。

じゃあ、
彼にとって私は、どういう存在なんだろう……。




 

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