flowery flower
勿忘草の花言葉
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小さく青い花を付ける、目立たないその花の名前を教えてくれたのは、小学生の時、一緒に園芸委員をしていた子だった。
園芸委員とは名ばかり、活発だった自分はグランドで遊ぶ方が優先で、花壇の水やりなんかも全部相手に任せきりにしていて。
でも、その子は文句なんて言ったこともなく、いつもニコニコと花の世話をしていた。
「花の世話なんて楽しい? お前、他のクラスの面倒も見てるだろ」
たまたまその日、水やりをしようとしてるのを見かけて、自分がサボっているのを自覚してただけに見て見ぬふりをするのも心苦しく、重そうにジョウロを持つのに手を貸した。
有難う、とほのかに微笑んだ顔に別に、自分の仕事でもあるから、とそっぽを向いたのは少しの照れがあったから。
大人しくて、自己主張をせず、他人の話をいつも穏やかに聞いていたその子は、まるで自分とは違う生き物のようでどう接したらいいか分からなかったのだ。
「花が好きだから」
だから、世話をして綺麗に咲いてくれるのが嬉しいのだ、とはにかみながら話すのに、
自分なんか、面倒だなとしか思わないのにな、と少し感心して雑草まできちんと抜いているその手元を見ていた。
「……そっちのは抜かないの?」
「あぁ、これ、雑草じゃないよ――勿忘草。もうちょっとしたら、花が咲くから」
「……ワスレナグサ?」
変な名前、と首を傾げたのに少し笑い、こんな伝説があって、そう呼ばれるようになったんだって、と慣れたように話す。
話を聞いた情緒のない自分が、「なんかマヌケじゃん、そいつ」とコメントするのに怒りもせず、可笑しそうにクスクス笑って。
小さな妹にいつも本を読んであげているというその子は、花にまつわる話をよく知っていて、そっちの知識が全くない自分に、色々教えてくれた。
知らない話を聞くのは楽しく、放課後その子と過ごす穏やかな時間が心地よくて、ちゃんと園芸委員の仕事をするようになって――お互いに、遠慮なく会話ができるようになったある日のこと。
その子は、突然いなくなった。
家の都合だとかで遠くに行くことになり、挨拶もなく転校してしまったのだ。
少し驚きに包まれた教室は、そっけないほどすぐに興味を失って、いつものザワメキを取り戻す。
茫然とした自分だけ、置いてきぼりにして。
―……昨日、水やりの時もいつも通りで、何も言わなかった。
―……何も聞いてない。
穏やかに笑うその顔が頭に浮かんで、ぽかりと空席になった机を見て、喪失感が胸を塞いだ。
―……何だよ、何か言ってけよ、
これから自分一人で委員の仕事やらなくちゃいけないのに。
そんな八つ当たりめいた文句を、心の中で言っていないと泣いてしまいそうだった。
理由がわからない寂しさがあふれて。
「――……?」
カサリ、と机の中突っ込んだ手に教科書じゃない物が触れて、それを引き出す。
リボンで束ねた小さな花が、そこにあった。
その小さな青い花弁に、聞いた話を思い出す。
――私をわすれないで、と願いを込めた、伝説を。
自分にだけ、向けられたメッセージに、胸がぎゅうっとなった。
初恋だったのかなとようやくその時に気付いた。
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「ご予算は一万で、ですね。少しお時間いただきますが」
昼を過ぎて入ってきた会社員風の青年の注文にメモを取りながら訊ねる。
「構いませんよ。……妹のお祝いなので、華やかに、可愛らしい感じでお願いします」
店内の花を見回しつつ、どこか懐かしげにする彼が、足元の作りかけのプランターに目を留めて、穏やかに微笑んだ。
「――勿忘草を扱うのは、めずらしくないですか?」
「ええ、雑草と間違う人もいますしね。私は好きなんですけど」
使う花の大体のラインを決めて、彼に確認をとる。
お任せします、と微笑んだ、その瞳が私を見つめた。
「出来上がるのは?」
「三十分か、一時間か見ていただけますか? 他の者が戻るまで、手が足りないものですから」
注文票に名前を貰って、承り票を渡す。
「では、お待ちしております」
「よろしくお願いします。……君の休憩も、そのくらいかな?」
ええ、と頷く私に、じゃあ、また後で。と眼差しが懐かしげに細められる。
一時間後、
最初に何を話そうか。
久しぶり?
それとも。
君を、忘れたことなんて、なかったよ―――
勿忘草の花言葉
(……私を忘れないで)
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