flowery flower
彼女と私(バトル2)
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「私がここにいるのは仕事によるものですし、それに何かを言われても困ります」
寄りかかっていたフラワーショップのロゴが書かれたワゴンに視線を向けて、ね? と水原さんに同意を求める。――賛同が得られるわけもないけれど。
冷静かつ挑発的な私の返答が気にくわなかった彼女は、キュッと眦を尖らせた。
「そんなこと言って、現に邪魔しているじゃない。仕事を抜け出させて――」
いつから見てたんだろ、この人。
やだなぁ、彼を好きな相手にラブシーン見られるなんて、なんかこっちが悪いことしたみたいじゃない。
いや確かに、仕事中に不謹慎でしたけども。
それは、と言葉を続けた。
「彼の責任のうちだと。休憩を利用して話しに来たのなら、それほど咎められることではないですよね? 仕事中に私用で動くことを注意するなら、相手が違います。私ではなく、彼に直接言えばよいことでしょう?」
我ながら性格の悪い対応だな、と内心苦笑する。
彼女が椿にそんなことを言えるわけがないことをわかってて、言ってるんだから。
「椿が仕事をサボって私に会いに来てるなら、それは注意しますけど。さっきのは休憩中のことですし、第一、会いに来るななんて私の方からは絶対に言いません」
だって私自身は、会いに来てもらって嬉しいもの。
チラリと私がいるよ、って教えてやっただけで、無理して時間作ってくれて、嬉しいもの。
椿が困ることになるのは私だって嫌だけど、彼自身わかってないわけないし、その辺りは信用する。
話を聞くだけでも厄介な先輩部長に見込まれてるんだから、それだけの能力はあるのだろうし。
「貴女が同僚として、恋人が仕事の邪魔になっている、と思うなら、そうすべきでないことを椿本人に、告げるべきではないですか?」
彼女が同僚としての発言をしているだなんて思ってもいないくせに、もっともらしいことを言う私は。
「――嫌な女」
うん、自分でもそう思うよ。
私と彼女はどうしたって相容れない。
椿を間に挟んで、対立しあうしかないのだ。
お互いが彼を好きでいる限り。
現在、勝者なのは私だけれど。
譲るつもりもないけれど。
唇を噛んだ彼女は、強いまなざしで私を見据えた。
「どうして彼がアナタを選んだのかわからないわ。幼なじみだからって、今まで会っていたわけでもないのに」
「時間とか、問題じゃないよ」
「花屋でお気楽にしているひとが彼の仕事の大変さを理解してあげられるとは思えない」
……ちょっと待て聞き捨てならないこと言ったな?
花屋がお気楽?
とんでも重労働だっつうの!
手は荒れるし腰はいわすし、半分力仕事だし今ここでガチで殴り合いしたら、大勝利おさめる自信あるわよ?
冬場の花屋がどれほど大変か等々と教えてやりたい。
そう論したいところだけど、ぐっと我慢して私は眉をしかめただけで済ませた。
「……同じ仕事をしているからと、それが椿を理解することにはならないし、椿はそういう意味で私の支えを必要とはしていない」
ただ。
私が私のまま、傍にいることを望んでくれるだけ。
「理解することと、彼を愛することは別の話だよ」
そりゃ、仕事のことも理解できたらそれに越したことはない。でも、椿は別に望んでないし、私も、彼が頑張ってることだけ知っていればいい。
全てを知りたい、求めあうときは、そう思わないでもないけれど――、
「余裕ぶって、出来た恋人ぶって……椿くんが自分のものだと主張するのね。――あなたなんて現れなければよかったのに」
そう吐き捨てて、勢いよく身を翻し去っていく背中をため息と共に見送った。
疲れた。
いくら言葉を連ねても、わかり会うことができない人との対話は、神経を消耗する。
ごめん椿。
メチャクチャケンカ売っちゃった。
コワイ、女の戦いコワイ、と角で隠れてぷるぷるしている、とことんタイミングの悪い高橋くんを回収。
私もその場を去った。
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