チェリーの誘惑

【4】
 
「……さて、美桜子、どうする?」
 彼が足を向けたのは一般客用エレベーターではなく、そのまた奥のVIP専用エレベーターだった。ホールの前で立ち止まり、手を引かれるまま彼について来ていた美桜子は、ポウッとしたまま皇人を見上げる。
「……?」
 問いの意味が飲み込めず灰銀の瞳を見つめ返した彼女に、彼は昇降ボタンの上と下を示しながら、言う。
「下に行けば車で自宅に送らせる。……上に行けば、今日は、帰れないよ?」
 その言葉の意味が、美桜子の頭に到達するまでしばし。カッと頬が赤く染まる。
 わざわざ問うのは、できれば雰囲気に流されるのではなく、ちゃんと、自分の意志で選んで欲しかったからだ。
 男女のことに不慣れな娘を言いくるめて抱くことなど彼には簡単だったが、少なくとも暇つぶしや身体の欲だけで、彼女を手に入れたいわけではなかったから。
 一夜で終らせる気もない。
 点滅しながらエレベーターが上がってくる。
 夜色の瞳が、意を決したように彼を見つめ、目の前の胸にその身を預けた。
 男の腕の中に納まる、小さな躰。皇人の上着にしがみついた手は、微かに震えていた。
「……わたし、会ったばかりですけど、もっと、……古賀さんと、一緒にいたい……」
 そう、怯えながらも告げたのは、彼の理性を奪う、いじらしい言葉。
 軽い音と共に、エレベーターのドアが開く。
 誰もいないのをいいことに、彼はくちづけながら彼女を抱き上げて乗り込み、VIP階へ直通するボタンを押した。
 エレベーターの中でも抱擁を解かず、愛らしい唇を散々に味わう。足元のおぼつかなくなった彼女を運んだのは、ほぼ彼が居住していると言っても過言ではない、ホテル最上階の一室。
 フロアを通り抜け、誰も入れた事がない寝室へそのまま向かう。
 薄暗い部屋の中、中央に鎮座する寝台を見て、美桜子はビクリと身を震わせた。皇人の肩口に顔を伏せて、直面する行為から目を反らす。
 そんな素振りも男を煽るのだとわかっていない娘に、どう教え込もうかと密かに彼は口角を上げた。
 華奢な肢体をベッドへやさしく下ろすが、顔を見られるのが恥ずかしいのか、彼が腕を離しても、彼女は胸にしがみついたまま。
「……美桜子、これじゃ出来ないよ?」
「でっ……!?」
 皇人の発言に絶句し、思わず顔を上げる。目があった彼の笑みにますます顔を赤くして、いやいやをするように首を振り、俯く。
 ――可愛すぎて困るな。ひとりごち、拗ねて結ばれた唇に触れるだけのくちづけを落とす。そのまま軽く啄みながら、引っかかっていた事を訊いてみた。
「さっきの二人は、知り合い?」
「……あ……」
 思い出したのか、面は白く傷付いた色を見せて、美桜子の瞳が揺れる。
 親しかった人々の裏切りを改めて自覚した、そんな泣き顔に欲情する反面、自分以外に心を奪われる彼女に彼は見当違いの苛立ちを覚えた。
 頬を両手で包み、顔を上げさせて涙を唇で拭う。
「すまない、意地悪だった。……前の恋人に、今日約束していた友だちだったんだろう?」
 どうしてわかるんですか、と見上げた彼女に彼は、伊達に年は食ってないよと笑った。
「……かっこ悪いです……私」
「うん? 何が?」
「こんな……友だちに騙されて、とか、みっともないの……古賀さんに、知られて……」
 子どものようにワンピースの裾をいじり、恥じるのは彼にどう思われたか、という理由で。計算ではなく潤んだ瞳と赤くなった目元に、柄にもなく煽られた。
「……複雑だな。美桜子の友人の悪戯が無ければ、今夜、私は君に出会えてなかったわけだし?」
 華奢な身体を膝の上に抱えて、顔を覗き込みながらそう言うと、吸い込まれそうな黒い瞳がぱちりと瞬く。
「そ……ですね?」
「あの彼や彼女に感謝しなくてはいけないのかな?」
 彼の悪戯めいた言葉に、「やだ、それって何かヘンです」と美桜子は可愛らしい笑い声を立てた。
 笑みのこぼれる唇をそっとついばみ、服の上からふくらみを手のひらで押さえる。
 目を見開き、小さく息を飲んだ美桜子に唇を寄せ、皇人は意地悪なささやきを耳に落とした。
「……彼とはこういうことをしたかい?」
 形を確かめるように揉み、恥じらう彼女が顔を隠せないよう、キスを繰り返しながら答えを待つ。
 美桜子はゆるく頭を振った。
「こんなふうに、触って、欲しいとか……思うの、古賀さんが初めてだから、んっ」
 最後まで言わせずに、唇を塞ぎ、息を奪うほどくちづけて。舌を絡め、飲み込みきれない滴が彼女の口の端から溢れる、それすらも舐めすすり、ぐったりした美桜子を彼は向かい合わせの要領で抱き直した。
 まだ激しいキスに慣れず瞳を潤ませてボウッとしている美桜子に、仕方ない子だね、と呟くと、どういう意味に取ったのか、悲しそうな表情になる。
「可愛いから、我慢できないって言ってるんだよ……」
「ふ……? っん、ふぁ、んっ、ん……」
 もう一度くちづけながら、背中に手を這わす。細い首筋に唇を押し当て、淡い痕がつく強さで軽く吸うと、肩を跳ねさせた美桜子は、身を離そうとする。
「あ、の……シャワーとか……」
「うん? 後で一緒に入ろうか」
 そうじゃなくて、と身をよじらせる彼女が何を要求しているのか分かっていて、はぐらかす。そのまま耳に舌を這わせ、彼女の着ているワンピースのファスナーを下ろすと、わななく白い肌が目の前に現れた。
「ゃぁ……」
 反射的にか視線から逃げようとする身体をシーツの上にあくまで丁寧に押し倒した。抗う気持ちが無くなるまで触れるだけのキスを額、瞼、頬、唇へと順に落とし、強張りを解いてゆく。
 こんなに丁寧に集中して女性を抱くのは久しぶりだった。
 ふるりと目の前で震える果実のようなふくらみに、そっと唇を這わす。身をすくませた彼女の頭をなだめるように撫で、淡く色付いた粒を口に含んだ。
「きゃ……あ、ッん……っ」
 頬を紅く染めて、初めて与えられる刺激に耐えている彼女の羞恥を煽るように、わざと音を立てて肌を舐める。
「あッ……、古賀、さんっ……」
 首を振って、胸に吸い付く彼の頭を退けようと細い手がギュッと髪を掴んだ。
 眠っていたふくらみの中心を掘り起こし、舌先で転がしていると固く尖り、存在を主張する粒を吸い立てて。その度に可愛い声を上げるものだから、もっと喜ばせたくなる。
「ァんっ、ハァッ、ふあぁ……っ、んっ、あん……」
 少しずつ羞恥が快楽に押されて行く様子が見てとれる。
 瞳は情欲に潤み、開いた唇からは熱い吐息。震える膝を割り、閉じようとするスキを与えず自身の足で固定した。
「……随分良くなってるようだね?」
「あ、あっ……や、……ッ! っやぁっ……」
 下着の上から秘所を指先で押さえると、濡れている様子が分かり、それを自覚した美桜子がひゅっと息を呑む。



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