花風 #7
 

  ***


 琢磨の見たがっていた桜の下、あたしは空を見上げた。
 ハラハラと散る薄紅の花片に、手を伸ばす。
 風に揺られ散る花びらは、儚いようでいて、強く、生命の匂いがする。

 淡く溶けた風花。
 降り積もる花びら。
 あんたはどっちだったの?

 膨らんでもいないお腹を押さえて、あたしは微笑う。
 聞くまでもなかったか。

 いつもどこかのポケットに入れている、琢磨からの最初で最後の手紙を持って。
 ゆっくりと歩き出す。
 おばちゃん達が、墓参りから帰ってくるから、そろそろ行かなきゃ。
 きっと途中でいなくなったあたしを探してる。

 ねぇ。
 知らなかった筈なのに、どうしてあんなこと書き足したの?

 ――女だったら実花<ミハナ>、
 ――男だったら風道<カザミチ>

 紙の裏に、慌てて書いたみたいに急いだ字で。

 フワリ、目の前に降ってきた花びらを、受け止めて微笑む春の下。


 琢磨のバカ。

 ずっと、ずっと、

 だいきらいよ―――。



 *了*
初出:2008/01/21;フォレストノベル 改訂:2008.02/21.

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