花風 #7
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琢磨の見たがっていた桜の下、あたしは空を見上げた。
ハラハラと散る薄紅の花片に、手を伸ばす。
風に揺られ散る花びらは、儚いようでいて、強く、生命の匂いがする。
淡く溶けた風花。
降り積もる花びら。
あんたはどっちだったの?
膨らんでもいないお腹を押さえて、あたしは微笑う。
聞くまでもなかったか。
いつもどこかのポケットに入れている、琢磨からの最初で最後の手紙を持って。
ゆっくりと歩き出す。
おばちゃん達が、墓参りから帰ってくるから、そろそろ行かなきゃ。
きっと途中でいなくなったあたしを探してる。
ねぇ。
知らなかった筈なのに、どうしてあんなこと書き足したの?
――女だったら実花<ミハナ>、
――男だったら風道<カザミチ>
紙の裏に、慌てて書いたみたいに急いだ字で。
フワリ、目の前に降ってきた花びらを、受け止めて微笑む春の下。
琢磨のバカ。
ずっと、ずっと、
だいきらいよ―――。
*了*
初出:2008/01/21;フォレストノベル 改訂:2008.02/21.