Side Other
 
「おおっ、修羅場ってヤツ?」

 どよめく俺たちから少し離れた場所で、キャプテンとマネージャー、そしてキャプテンの彼女が立ち尽くしていた。
 彼女が何かをキャプテンに投げつけ、そして文系とは思えない速さで走り去る。
 ――もちろん我らがキャプテンは、引き留めようとするマネージャーを一顧だにせず、それを、追った。

 そのあとの彼らのことは、また別の話。

 キャプテンをハメて、彼を好きだというマネージャーと二人きりにした、休日。
 首尾はどうなったかと、せっかくの休みなのに出番亀する俺たち、揃いも揃って暇人だ。
 うすら寒い笑顔を張り付けたキャプテンの横で、デート気分のマネージャーは笑えるくらい洒落込んでいた。
 必死、というか。
 キャプテンと彼女のデートを邪魔して騙して、それで自分が好かれると思ってるんだろうか。
 呆れるを通り越して憐れになった。
 ポツンと取り残された、小柄な少女は何かに耐えるように唇を噛んでいる。

「あ〜あ、マネージャーダメだったなぁ」

 それほど残念とも思えない口調で言った奴に冷めた目を向ける。
 慰めにいく? などと言い交わす部員たちは、本気でキャプテンとマネージャーをくっつけようとしていた訳ではない。
 そうなったら面白いな、ぐらいの気持ちで、彼らの気持ちをオモチャにしたにすぎない。
 サッカー部のエース、部員の尊敬を一身に集めるキャプテンの彼女に対する子供じみた嫌がらせもあっただろう。
 キャプテンの隣にいていいのはもっと美人で優秀でキャプテンと並んで見劣りしない女でないと、というよくわからない勝手な理想で、彼女を排除しようとしていた。

 きっとサッカーなんて、テレビでしか観たことがなくて、ルールだって大雑把にしか知らない、図書委員の地味な彼女。

 だけどそれがなんだ?
 あいつはサッカーを知らない彼女を選んだんだから、それでいいじゃないか。

 才能がある者は二つのタイプに分かれる、と思う。
 俺たちサッカー部でいうなら、
 四六時中サッカーのことばかり考えて、それが中心になっているやつ。
 逆に、その時だけそれに全集中して、他の時間は一切考えないようにするやつ。
 あいつは後者だ。

 たぶん、彼女の前ではサッカー部のエースでもキャプテンでもなく、ただの男として存在していたいんだろう。
 二人でいるときのやわらかなリラックスした表情がそれを物語っている。
 地味だけど、他人をホッとさせる雰囲気を持つ彼女に、彼が惹かれたのは当然のことだと思う。
 なんで皆にはそれが分かんないのかね?


「言い訳を、聞こうか?」
 翌日の部活ミーティング。
 それはそれは恐ろしく美しい笑みを、その整った顔に称えたキャプテンが、部室の床に正座した俺たちに向けた。
 ちなみにキャプテンは長い足をお組みになり、テーブルにお座りあそばしてます。
「……いや、あの……マネージャー、キャプテンのことあんなに好きなのに可哀想じゃないっスか」
「だから、チャンスをあげようかなっ、……とか」
「彼女がいる俺が簡単に靡くとでも?
 ふぅん、俺は、そんな不誠実な男だと、お前たちに思われていたワケだ」
 にこやかに諭すキャプテンの後ろに鬼が見える、鬼が。
 彼女、こいつのこの顔知らないんだろうな〜、
 一生知らない方が幸せだろうな〜。
 次にこういうことがあれば、分かってるよなぁ? と、心臓に悪い微笑みつきで釘を刺され、ありがたくも、グランド15周という(鬼キャプテンにしては)軽めの罰を頂いた俺たちは部室を出る。
「おい」
 ん? と振り返ると眉をしかめたキャプテン兼親友が、俺を睨んでいた。
「何でお前まで荷担した? いつもなら陰険に口出してやめさせる方向に誘導するだろ」
 失礼な言いぐさだな。そうだけど。
「いい加減焦れったかったんでね。結果オーライだろ?」
 今日一日暑苦しいほどラブラブだった二人を揶揄してやる。
 睨んでもそんなニヤけた顔じゃ怖かねーよ。
 ヒラヒラ手を振って部室を出た途端、「遅いですよッ!」と怒鳴る甲高い声。
「みんなもう走ってます、お仕置きのあとも普通に今日の練習こなさなきゃいけないんですからね! 早く行くっ!」
 小型犬のようにキャンキャン喚くマネージャーを見下ろして、俺はニヤリと笑った。
「なんだ。姿が見えないから辞めちまったのかと思ったのに」
「フラれたぐらいで辞めませんよ! それとは別にサッカー好きですもんっ」
 ムキになって噛みついてくる後輩の眼が赤いのには何も言わず、すれ違いざまツインテールの頭を撫でてやる。
「その調子で頑張ったら、そのうちご褒美やるよ」
 ぐしゃぐしゃやめて下さいよ、と唇を尖らせ文句を言っていたマネージャーは俺の言葉に怪訝そうな不審そうな嫌そうな顔になって。
 俺は笑みを深くする。

 ――何で荷担した?
 そんなの決まってる。

 決定的に望みのないことを思い知らせて、
 憧れと言う厄介な恋心を粉々にして、
 こっちを向かせるためにだよ。


初出:2008.11/14ブログSS

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