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「篠宮さん、私も入る」
ノックなしに脱衣所のドアを開けた私に、篠宮さんの驚愕の眼差しが突き刺さる。
どうかしたのだろうかと思いつつ、重ね着していたTシャツとキャミソールをまとめて脱いで、脱衣籠に目を向けた。
籠には篠宮さんのスーツの上着やスラックスが無造作に積まれている。お高そうなのに扱いが雑だ。
「シワになりますよ」
「あとで分けてクリーニング出すから……」
どこか棒読みで答えられた内容に頷いて、ならいいかとその上に脱いだ自分の服をポンポンと置いていった。
さっきのぎゅーで私の服にも臭いがついた気がするんだ。
こっちはどうかなと頬にかかる髪を引っ張ってくんくんしていると、よろめいた篠宮さんがバスルームのドアにぶつかっていた。
なにやってるんだろ、と思いながら下着も脱いで洗濯ネットに入れる。
こちらのネット、彼のお部屋にお邪魔するようになってから、百均で購入してきました。
私用にファンシーな柄入りです。篠宮宅にあるのがめちゃくちゃ似合わないと重々承知しております。でも私のだってわかりやすいし!
だってね、だって、篠宮さんてば、油断すると手洗いしてくれちゃうんだもの。
それが正しい洗濯方法だってわかってるけど、でもね!?
いたたまれないの、いたたまれないの……!
何でもできる大人の男の人は場合によってはとても始末が悪いと思います。
気合いいっぱいにネットのジッパーを閉じて、かごの上に放りなげる。
篠宮さんは項垂れてドアになついていた。
「早貴ちゃん、どうしてそうときどき大胆なの……」
「何がですか。寒いです、早く入りましょうよ」
扉の前に陣取られては中に入れないではありませんか。
「来たときにお風呂わかしておいたんですよー」
「うんありがとう……そうじゃなくてえええええ」
何やら一人で騒いでる彼の脇を潜るようにして、ドアを開けた。
篠宮さんのところのバスは保温ができるからいい。広いし。
うちのユニットバスが不便に思えてしまって困っちゃう。ワンルームと比べるなって話ですか。
お風呂に洗い場は必要だ。次に部屋を選ぶときは、絶対に妥協しないんだから!
こんなところにも篠宮さんのマメな性格が現れている、ぴかぴかにお掃除されたバスルームで拳を握り仁王立ちしていると、今度は私が何してるのって目で見られた。