ミツキと王子・2
「代表、困ります、私の仕事です」
っちゅうかおとりまきに発見される前に消えてくれ。
「アレックスでいいって言ったよ、ミツキ。女の子を助けて誰かが困るっていうんだい?」
『あたしが困るんやッ、ちょっとは自分の影響考えて行動しぃ!』
つい日本語で突っ込んでしまったが、彼は首をかしげて微笑むだけ。
うう、語彙が少ないのは不便。
ここに来てもう4ヶ月立つのに、私の英語力はちっとも上達しない。聞き取りは不自由ないけど、話す方ときたら全然なのだ。
返事を考えてるうちに、会話はどんどん進むので、言いたいことが言えずにストレスが溜まる。
カラオケ。カラオケに行きたいし。
と、現実逃避してる場合じゃなかった、どうにかしてこの王子を……。
「アレックス! カフェに行くんじゃなかったのか?」
「先に行ってくれ。俺はミツキを手伝ってから、時間があったら行くよ」
中庭を挟んで反対側の2階の回廊からかけられた声にアレイストがそう答え、私は絶望する。
ああああばっちり目撃されてしもたー。
アレイストとよく一緒にいる金髪男と、美女軍団がこちらを見ていた。
アレイストの余計な返事に、肩をすくめた彼はまあいいとして。
その周りの、同世代とも思えないくらい胸も腰もお育ちになられているお嬢様がたの目が、ザクザクと私に突き刺さる。
イタッ! アイタタ!
くっそ、またコレで見当違いのイヤミ言われるやんけ。あたしに気ぃ使うとるつもりやったら、構わんでくれるんが一番やのに。
彼らに手を振っているアレイストを恨みがましい眼で睨んで、どうせわかりゃしないと、私は日本語で毒づいてやった。
『わざとちゃうか、このアホンダラ……ドつくでホンマに』
分かってないアレイストはご機嫌に微笑んで、私を促し歩き出す。
あたしなんか構って何が楽しいんやろ、この王子。
日本から来た留学生は他にもいるっちゅうのに、何であたしだけこんな面倒くさい目に遭うとるねん。
ため息のひとつも吐きたくなるってモノだ。
鑑賞用としたら申し分ない個体なんやけどなー。
隠し撮りでもして日本の友達に売り捌いたら結構な収入になりそうやし。
厄介な目に遭わされとる分、小遣い稼ぎでもさせてもらおうかい。
斜め後ろからその無駄に整った姿を観察し、半分本気で考えてしまった。