密やかな期待
「“シーア姉様は神子姫だから、結婚はしないのよ”――だそうですが」
宴の余韻が残る、松明に照らされた庭を眺めていた主に、少し遅れて戻ってきた従者が告げる。
僅かに眉を上げ、しかし気にする風でもなく彼は笑んだ。
「別に公な婚姻を結ばずとも、約定が交わせれば構わんだろう。あの姫を落とさねば、我々の目的も果たせんからな」
――それで、と続けて。
「幼姫の味はどうだったんだ?」
からかうように、宴の間、末姫の相手をしていた青年に尋ねる。
返ってきたのは、皮肉気なものではなく、満足を表す表情だった。
「――この上なく。半分でも、さすがあの神子姫どのの妹君と申しますか。久しく味わうことのなかった力のある精血でしたよ。
あの血を得られるならば、喜んでお相手つかまつりましょう」
自分の従兄弟でもある身分を示せば、末姫の伴侶として申し分ない身だった。
ひとまず足場固めは彼から始めてもらおうか――主従の意見はそうまとまった。
「あの姉姫に早々にバレるような真似はするなよ?」
我々の力が効かないどころか、対することの出来る力を有する彼女は、文字通り強敵だ。
やんわり釘を刺した主に、青年は「我が君こそ、遊びすぎないで下さいね」と見透かしたようなことを述べ笑った。
――あの姫と、遊ぶのも楽しそうだが。
最終的な決定権がある兄王は耐性はあるものの、こちらの力が効かぬわけではない。
力でもって魅了し、魂を絡めとり、支配することは容易いかと思われるが――彼は別のことを考えていた。
まだ、一族の誰にも言ったことはない、その計画を。
あの姫になら、わかってもらえるような気がした。