アレイスト


「――アレイスト・アリル・ジャンシールと申します――姫君」

――おもしろい。

退屈に厭いていた彼の胸を、一対の琥珀が射抜く。
我らにとって忌まわしいはずの銀に似た彩(いろ)を持つ髪が、炎に揺らめくのを見、美しいと感じた自分自身も愉快だった。
こちらをまっすぐに見つめる娘に微笑みかける。

庇護を求め、庇護を申し出た、
我らの新しき礎と見定めた国の姫。
この国に我らが溶け込むには、王族の者と契りを結ぶのが早いと思っていたが――そう、易々とは行かないらしい。手強そうだ。
もうひとり、簡単そうな姫がいたが、幼く浅薄な様子に辟易して他者に任せることにする。

国王のすぐ下の妹であり、補佐を務めている長姫は、そのたおやかな外見に反し、大した胆力の持ち主のようだ。
常人(ただびと)では直視することもかなわぬ存在である我々を見返し、挑むような強さでもって煌めく瞳を合わせてきた。

我らの魅了の力が効かない者が存在することは、伝え聞いた事があった。
原始の力を強く身に宿すヒトに現れる特性。

そして、我らの力を拭い去るように響いて放たれた涼やかな気が、彼女もまた、常人の中の常人ではないことを教える。
一族のため、形ばかりとはいえ、ヒトに交わることの厭わしい気持ちなどこれ一つで帳消しになった。
この退屈で単調な生を、覆してくれそうな、そんな予感を感じて―――彼は心からの笑みを浮かべた。


ディルナシア、と彼女は名乗った。
音には出さず、口の中でその響きを転がして、笑む。
その微笑みを目にした者が、意思を奪われ惚けるのを感じたが、向けた本人からは激しく警戒する意識しかもらえなくて――再び、愉快になった。
ああ、つれない姫だ。
ヒトを惑わすこの美も、聖なる娘には効かないとみえる。

――ますます、堕としたくなるね。

未だ妻のいない兄王が主催する夜会、女主人としての役目を担う彼女が客人の間をスルスルと泳ぐように歩み、不都合なく宴が機能しているか見て回る。
改めてこちらへ歓待の言葉を述べに来た頃には、彼女に関する大体の情報は仕入れていた。

神子とはおもしろい、と、また彼は思う。そして“取引”するには、彼女が難関、そして切り札だと確信するに至った。
大国に包囲され、今にも食い潰されそうな小国。
我ら一族ならば、支配することも、――守ることもできる。
だがそれには、それ相応の見返りが要るのだ。

そう。
我らを血の餓えから解放してくれるという、

条件が。


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