リストリアの姉妹姫


「それが、凄みのある美男子なんですって、シーア姉さま!」

部屋に飛び込んでくるなり、青い瞳をキラキラと輝かせた妹姫がまくし立てる。
午後の予定を全て終え、趣味の読書を楽しんでいたシーアは側に控えていた侍女に目配せをした。
心得たように下がる姿を見届け、まだ何事か歌うように喋り続けている妹に、彼女は長椅子へ座るように促す。

「リースティア、なんのことだかさっぱりわからないわよ。誰が何ですって?」

冷静に問い返す姉に不満げなふくれ面を見せてから、妹は次の瞬間悪戯っぽい笑顔になり、身を乗り出してくる。
――くるくる変わる表情が可愛らしいとはいえ、落ち着きがないと思われるので、あとで注意が必要ね。
いささか小言めいたことを考えながら続きを促すと、ないしょ話のように、リースティアは声をひそめた。

「今日、遠方からいらしたお客様をご存知? 由緒ある古い一族の長でいらっしゃるらしいの」

客人が来るという話は聞いていなかった彼女は、首を傾げて妹の次の言葉を待った。

「数人の供を連れていらしたのみの軽装なのに、ちょっとした騒ぎだったのよ! 私は遠目でしか見られなかったけれど、離れていてもわかるくらい素敵な方々ばかりでしたの! 晩餐会ではお近くでお話できるかしらっ」

妹の度を越した興奮状態を訝しげに思いながら、それで、と肝心なことを尋ねる。

「そのお客様、どういった理由で我が国に?」

リースはきょとんと瞬いたあと、知らないわ、とあっさり答えた。

そんなことよりドレスは何を着たら良いと思う? どんな風に髪を結ったらあの方々のお目に留まるかしら!

どこまでも浮わついた話題に終始する妹に、そのお客様とやらは随分魅力的な殿方らしいと推測する。
おそらく彼女も出席を要求されるであろう晩餐会の前に、兄王に事の次第を聞きに行かなければと考えた。


小さな領土しか持たないリストリアは、常に周辺諸国の脅威に晒されている。
王族ももと農民、農耕が中心の小さな小さな国なのだ。
民は農機具以外を持たず、騎士ですら戦を経験したことがない。
ひっそりと慎ましやかに生きているだけなのに、世界の情勢はそれを許してくれない。
今はまだ、周りの国同士が牽制しあい、どの国も手は出さない状態で均衡を保っているが、いつそれが崩れるかはわからない。
この国は、各々の国に攻め込むにちょうどよい場所に位置している故に。

一度戦が始まれば、国土も民も踏みにじられることは目に見えている。
さりとて、どこか一国に庇護を求めることは間違いなく従属を意味することになり、無条件に服従を強いられるだろう。
そして他の国々がそれを黙って見ているわけもなく。
結局、どの道を選んでも戦火にリストリアは否応なく巻き込まれる――。
八方塞がりなのだ。

そんな中現れた正体不明の客人――吉兆なのか、凶兆なのか。

ひとしきり興奮を吐き出して満足したのか、仕度を始めなきゃとはしゃぎながら妹姫が去り、程無くして兄の片腕でもある侍従が訪れた。

陛下が姫にお話ししたいことがあると。
予想していたシーアは直ぐに兄の元へ赴こうとすると、こちらへいらっしゃるのでそのままお待ちくださいと言われ。
いつも落ち着いている兄の侍従が、どこか不安そうにしていることが、彼女の嫌な予感を募らせた。
一体、何が起ころうとしているのか。


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