暇じゃないんですよ


 ――決めた!
 もう決めたったら決めた! あの王子がどれだけ自分にかまおうと、絶対無視や、これから!!
 一切ヤツには関わらない!

ひとしきり部屋を調べまくって、鍵の掛けられた扉しか出入り口はないと悟った瞬間、私はそう強く決意した。

 とばっちりもええとこや、何とも思っとらん男のせいで何であたしがこないな目に遭わなあかんねん。

学園の王様とも言えるアレイストの機嫌を損ねたら、留学生活がマズイものになるかと我慢していたが、そのせいで他の人物から時間の無駄的嫌がらせを受けるなら、どっちもどっち。
アストリッドは面白ければ何でもいいだろうし、少なくとも最悪の事態になっても完全に孤立はしないだろう。

 ああ、もう。
 だいたいあたしは名前も知らんかったようなこの国へ、遊びに来たんやない。
 お勉強しに来たんや。
 留学費用がタダってことは、誰かがその分を負担してるってことで、あたしはそれに見合う経験を身につけて、日本に帰らなあかんねん。
 いくら異文化コミュニケーションを目的に留学したから言うて、こういうコミュニケーションは望んどらんわ。イザとなったらこのドア蹴り壊してやる、となんの罪もない白い扉を睨み付けていると、微かに物音が聞こえてきた。――そして、人の声。
 やった、天の助け―――、

Helpと叫びかけた私は慌てて手のひらで口を塞いだ。
ちょうど私が閉じ込められた準備室の対になった部屋に、よく見た姿をしたカップルが入ってくるところだったのだが。

 元凶王子と実行犯美女やんけ!
 人を閉じ込めたとこに何しに来たんや?

私が小さな窓から覗いていることを知らないのか、アレイストはしなだれかかる美女を振り払おうとはしない。
抱きつかれ、キスされるままになっている。

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